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事例紹介:サカセ化学工業株式会社

指静脈認証ユニットを搭載した医療用搬送カートのセキュリティ強化を実現

[写真]サカセ化学工業株式会社 企画・開発本部 本部長 兼 東日本販売部 部長 兼 東京支店 支店長 望月 隆男 氏

[写真]サカセ化学工業株式会社 販売本部 東日本販売部 東京支店 販売1係 係長 小林 裕史 氏

[写真]サカセ化学工業株式会社 販売本部 東日本販売部 東京支店 販売2係 兼 開発部 マーケティング 小池 栄太郎 氏

医療機関で扱う薬品には麻薬や向精神薬などが含まれるため、搬送用カートには鍵を付けることを推奨されています。しかしこれまで、その鍵管理の煩雑さや紛失・盗難などのリスクが大きな課題となっていました。
そこで福井市に本社を持つサカセ化学工業株式会社(以下、サカセ化学工業)は日立と共同で指静脈認証ユニットを搭載した医療用搬送カートを開発しました。 応急処置などの緊急時にも、指1本でセキュアにロックを解除でき、使用履歴も保存されることで、管理作業の大幅な軽減と高いセキュリティを両立させることに成功しました。


導入された製品、ソリューション
機器組込み用小型指静脈認証ユニット PCT-KCC9011

医療用搬送カート業界の最大手

1962(昭和37)年に創業したサカセ化学工業は、20数年前から独自のプラスチック加工技術を活用した医療用のキャビネットや搬送カートを全国の病院に供給する事業をスタート。それまで重いスチール製がメインだった病院内の収納機器を、一気に軽量で薬品腐食にも強いプラスチック製へと転換させた国内シェアナンバーワンの企業です。

その多彩な製品群の中でも、医療現場で求められる安全性と機能性をあわせ持つ搬送カートは医療関係者から高い評価を獲得しており、独創的なデザインとカラーは数々のグッドデザイン賞にも輝いています。

 「現場のニーズや、お客さまの悩みを的確に分析し、医療現場に常に最適なシステムを提供していくことが当社の大きな使命です。その過程で私たちが長年取り組んできたのが、搬送カートのセキュリティをいかに利便性を損なわずに高めていくかという課題でした」と語るのは、企画・開発本部 本部長で、東日本販売部 部長、東京支店 支店長を兼任する望月 隆男氏です。現在、医療機関で扱われる薬品には、一般的な注射薬などのほか、麻薬や向精神薬など厳重な管理が求められるものが含まれているため、それらを保管するキャビネットや搬送カートには鍵を付けることが推奨されています。

 「当社の医療用キャビネットや搬送カートにも、すべてシリンダー鍵が取り付けてありますが、その数や種類が増えていくと管理者負担が大きくなり、応急処置などの際に鍵を持ち出す手間や、鍵を持っている人を探し回るといった事態が起こります。そこで数年前、薬品一次保管庫に個人認証と利便性を両立させる仕組みとしてRFID*1を使ったカードキー・システムを考案しました。しかしRFIDで個人認証や使用履歴の管理を実現するには院内スタッフ全員にカードを持っていただく必要があります。その初期導入コストや運用コストが大きいため、多くの医療機関への普及には至らなかったという経緯があります」と望月氏は続けます。

*1
Radio Frequency Identification:ID情報を埋め込んだICタグ

電子ロックの制御に指静脈認証を適用

[写真]指静脈認証ユニットを搭載した救急カート
指静脈認証ユニットを搭載した救急カート

新たな個人認証の手段を模索していた同社に、生体認証のデファクトとなった指静脈認証システムを提案したのが日立でした。

「ある展示会で当社ブースに、日立ハイテクトレーディング*2の営業さんが指静脈認証の資料を持って訪ねてきてくださいました。高度な個人認証と履歴管理が行えるユニットを限られたスペースに組み込めることを聞き、“探していたのはこれだ”と飛びつきました」と望月氏は振り返ります。

日立が開発した指静脈認証は、生体内部の情報を利用するため、偽造のリスクが少ないことや、肌あれ、水ぬれなどの指表面の影響を受けにくく、高精度の個人認証をスピーディに実行できるの が特長です。装置も小型なため、銀行ATMや入退室管理、PCセキュリティなど幅広い分野で数多くの導入実績を誇っています。

サカセ化学工業と日立は、医療用搬送カートのシリンダー錠を電子ロックに置き換え、その制御に指静脈認証を適用するための共同開発をスタート。両社の技術者の手によって、わずか数か月後には業界初*3となる指静脈認証ユニット搭載の医療用搬送カートが完成したのです。

*2
採用された小型指静脈認証装置(PCT-KCC9011)は、株式会社日立ハイテクトレーディングで、販売されたものです。
*3
2010年10月現在

指1本で緊急時にもスピーディに解錠

 「試した瞬間、これはお客さまに喜ばれると確信しました」と語るのは、販売本部 東日本販売部 東京支店 販売1係 係長の小林裕史氏です。「指を置くだけの簡単操作で、1秒程度もかからずにロックが解除できます。特に、患者さんが倒れた際の蘇生などに使われる劇薬や医療器具が入った救急カートは、強固なセキュリティが求められる一方、緊急時にすぐ使えなければ人命にかかわります。登録者なら鍵を探す手間もなく、指1本で空けられるこの仕組みは、医療現場でも大きな威力を発揮すると実感しました」と、小林氏は続けます。

救急・注射薬・与薬の3種類の搬送カートに搭載された指静脈認証ユニットは、カート1台につき75人の指静脈情報が登録できます。カートを使用する薬品をカートに供給する薬剤師や搬送スタッフ、看護師やドクターなどが登録することで、第三者のなりすましを防ぎながら、鍵を持つことなくセキュアかつ迅速に薬品を取り出すことが可能となります。

 また従来型の鍵は、いくら気をつけても紛失のリスクをゼロにすることはできません。「一度紛失してしまうと最悪のケースを考えて、同じ鍵で解錠できる院内の製品すべてのシリンダー鍵を交換しなければなりません。そのコストが非常に高くついていたのです」と小林氏は語ります。これに対し指静脈認証は「なくす・忘れる・盗まれる」の心配がない点も、病院にとって大きなコスト削減策になっていくと期待されています。

「ユニット内のコントローラには、誰がいつカートを開けたかの利用履歴も蓄積できます。これにより、不正な持ち出しなどの抑制効果が期待できるほか、カートの閉め忘れといった管理不備も把握できます」と説明するのは、東日本販売部 東京支店 販売2係 兼開発部 マーケティングの小池 栄太郎氏です。展示会などでカートを試した医療関係者からは一様に高い評価が寄せられているとのことで、「登録についても、USBケーブルでPCを接続して簡単に行えることを説明すると、非常に感心されます。複数カートの利用履歴をPCで一元管理できるソフトウェアをオプション提供するほか、一度登録された指静脈情報を他のカートでも利用できるソフトウェアも開発中です」と小池氏は今後の抱負を語ります。

乾電池駆動で搬送カートの独立性を維持

さらに特長的なのが、指静脈認証ユニットが普通の乾電池で駆動する点です。

[写真]注射薬カートおよび救急カート
注射薬カートおよび救急カート

「搬送カートは院内を自由に行き来するためのツールなので、コンセントにつないだ利用や専用バッテリーの充電などは、利便性を損なうだけでなく、管理者の方々にも余計な負担をかけてしまいます。そこで日立さんの協力を得ながら、どこでも入手しやすい乾電池による駆動と、認証後は自動的にパワーセーブに入る省電力設計を実現しました」と、望月氏は現場ニーズを熟知している同社ならではのこわだりを披露します。

また、コンパクトな筐体に収められた指静脈認証ユニットは、限られたスペースしかない搬送カートの上部にも無理なく実装できるため、グッドデザイン賞を受賞した同社のカートデザインを損うことなく提供できるメリットもあります。

今後、サカセ化学工業では指静脈認証ユニットを搭載し救急・注射薬・与薬の3種類の搬送カートを全国の医療機関へ拡販しながら、高いセキュリティが求められている医薬品用キャビネットや、 麻薬・向精神薬保管庫などにも指静脈認証の適用を広げていく計画を進めています。

「医療現場の皆さんは、日々患者さんの苦しみを和らげる医療サービスを提供するために働いています。本来の業務ではない鍵の管理や探す手間といった余計なプレッシャーを与えない新製品は、より高度な医療活動に専念していただけるという大きな付加価値を持っているのです」と望月氏はにこやかに語ります。

業界初となる医療用搬送カートへの指静脈認証の適用が、同社のさらなるシェア拡大と信頼性の向上に大きく寄与することは間違いありません。今後も日立は、お客さま満足の追求に向けたサカセ化学工業の取り組みを、指静脈認証を核とした幅広い製品群とサービスで積極的にサポートしていきます。

[お客さまプロフィール]サカセ化学工業株式会社

サカセ化学工業株式会社

[本社] 福井県福井市下森田町3-5
[設立] 1962年1月17日
[資本金] 9,600万円
[従業員数] 160名(2010年10月1日現在)
[事業内容] 医療用キャビネット・カート、医療用具の企画・開発・設計・製造・販売、 各種プラスチック、ゴム、木、スチール、ステンレス、アルミ製品の企画・開発・設計・製造・販売

特記事項

  • 2010年11月17日掲載
  • 本事例中に記載の内容は初掲載当時のものであり、変更されている可能性もあります。詳細はお問い合わせください。
  • 事例は特定のお客さまでの事例であり、全てのお客さまについて同様の効果を実現することが可能なわけではありません。
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