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日立ワークスタイル変革ソリューション

先が読めないビジネス環境の中、営業はどう動くか?

回 変化に応じて、自己革新をつづける組織へ。

社会を一変させた新型コロナウイルスのパンデミック。そして、コロナ前の常識が大きく変わるニューノーマルの到来。かつてないほどに先が読めないビジネス環境の中、大きく混迷している組織の一つが営業部門ではないでしょうか。

日立では、企業のそうした悩みに応えるために「営業活動データ分析ソリューション」を開発。そして、本ソリューションの中核技術であるAIの研究・開発に携わる日立製作所 フェロー 矢野和男に、予測不能な時代に営業活動に求められる変革について、語っていただきました。

PDCAサイクルからPPPサイクルへ

これまでの営業組織の多くは、未来は過去の延長にあるという前提で、例えばPDCAサイクルのように過去の想定に基づいて次の行動を決定していました。しかし変化が常態化したいま、未来は予測し得ないという考え方に基づく新たなメソッドが必要になり、私たちはPPPサイクルを開発しました(前回参照)。それは、いま起きている変化の兆しをデータによりとらえて次の適切なデータを生み出す行動へとつなげるためのメソッドです。

これからの営業活動においては、静的な領域にはPDCAサイクルを用い、動的な領域ではPPPサイクルの適用を進めることが必要ですが、このPDCAサイクルからPPPサイクルへの進化は、データ活用の進化であり、組織の進化でもあります。

データ活用の進化

営業組織のデータ活用には、3つの発展段階があります。

もっとも基本的な手法は、統計分析を用いてデータ全体の傾向を見つけ出し、ルール化するやり方です。男性にはこういう商品が売れやすい、今月はこういう商品が購買される傾向がある、この業種の顧客はこのサービスをよく導入する、など全体の傾向をもとに、例えばマニュアルを作成し、組織で共有します。おのずと組織は統治的で硬直したものになるでしょう。

そしてこの手法の問題点は、人は多様であり、平均値の顧客など存在しないということです。データの中心部分ばかり見ていると、周辺に存在する多くの顧客を取りこぼすことになります。

そこで次のステップとして、個別化という考え方が出てきます。より多様で大量のデータをAIで分析することにより個々の顧客の傾向を発見し、例えば顧客Aは前に商材Bを買ったから今度は商材Cをおすすめしよう、など顧客に応じて担当者は対応を変化させます。この個別化によって統治的なマニュアルは意味をなさなくなり、営業部門は各自が自律的に行動する組織へと進化します。

多くの企業の営業部門はいま個別化の段階にあるか、めざしている状況だと思いますが、この個別化にも限界があります。それは、あくまで過去のデータでうまくいったことを繰り返すという手法なので、新たな売り方や商材や顧客を生み出すことができず、変化に対応できないからです。

変化に応じるための動的なデータ活用

ビジネスの静的な領域では、過去のデータから次の行動を定めてもよいかもしれませんが、変わりつづける環境に対して適切に行動するためには、もっと動的なデータ活用が必要になります。それが、PPPサイクルに基づくデータ活用です。

企業では毎日、数多くの営業担当者がさまざまな属性の顧客に、いろいろな商材をすすめ、多様な結果を持ち帰っています。それら蓄積された営業活動データと、いま営業の現場で起きているリアルタイムの活動データを重ね合わせて動きを見ると、さまざまなポイントでかい離が見出されます。

そのかい離はいわば変化の「兆し」であり、営業担当者はこれを売り方の新たな可能性として、明日の行動に生かします。どの「兆し」が成果に対してより重要な意味を持つのか優先度を付け、営業担当者は行動をアップデートしていきます。これは価値の高い新たなデータを生み出すことにもなります。

このしくみにより、営業担当者は過去の実績を重視した「守り」に加え、未来をつくる「攻め」ができるようになります。そして新しい可能性への挑戦が日常化し、自己革新しつづける組織体質が根付くでしょう。

未来の兆しをとらえるAI

PPPサイクルを回すためにはAIが必要ですが、これまでのAIとは本質的に異なるものが必要となります。これまでのAIは大ざっぱに言うと、過去のうまくいった事例をくり返す「守り」を目的につくられています。PPPサイクルが求める、変化に対する自己革新をサポートするといった仕事をこなすことはできません。そこで私たちはいま、PPPサイクルを回すための新しいAIの実用化を進めています。

いまさまざまなメディアで、「AIで未来を予測する」というような文章が散見されますが、変化が常態化した時代にこれまでのAIで未来を予測できるのか、根本的な疑問が残ります。PoCで未来の予測を行い、当たった、当たらない、を繰り返している企業が少なくないようですが、過去のデータを用いてもAIでは原理的に未来を予測することはできません。

しかし、新しいAIならばPPPサイクルを回すことによって、未来の兆しをとらえ、変化に応じて行動とデータを能動的に生み出すことができるのです。

いま、この新しいAIは、営業活動を支援するためのソリューションでの適用をめざして、実用化が進められています。

写真:矢野 和男

矢野 和男
1959年、山形県生まれ。1984年、早稲田大学大学院修士課程を修了し日立製作所に入社。同社の中央研究所にて半導体研究に携わり、1993年、単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功する。同年、博士号(工学)を取得。2004年から、世界に先駆けてウェアラブル技術とビッグデータ収集・活用の研究に着手。2014年、自著『データの見えざる手 ウェアラブルセンサが明かす人間・組織・社会』が、BookVinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。論文被引用件数は4,000件にのぼり、特許出願は350件超。2020年、(株)ハピネスプラネットを創業しCEOに就任。東京工業大学情報工学院特定教授。