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日立ワークスタイル変革ソリューション

先が読めないビジネス環境の中、営業はどう動くか?

回 未来の兆しをとらえるための、新しいメソッド。

社会を一変させた新型コロナウイルスのパンデミック。そして、コロナ前の常識が大きく変わるニューノーマルの到来。かつてないほどに先が読めないビジネス環境の中、大きく混迷している組織の一つが営業部門ではないでしょうか。

日立では、企業のそうした悩みに応えるために「営業活動データ分析ソリューション」を開発。そして、本ソリューションの中核技術であるAIの研究・開発に携わる日立製作所 フェロー 矢野和男に、予測不能な時代に営業活動に求められる変革について、語っていただきました。

未来は知り得ない

コロナ前、営業担当者は変化しつづける市場の動きを懸命に予測し、その結果に基づいてさまざまな計画を展開してきました。しかしコロナによって多くの計画が白紙化する中、明らかになったことは、未来の予測はやはり不可能だということです。

ドラッカーは未来に関して以下のような洞察を残しています。

「われわれは未来についてふたつのことしか知らない。ひとつは、未来は知り得ない、もうひとつは、未来は今日存在するものとも、今日予測するものとも違う。*1

*1 ピーター・ドラッカー(上田惇生訳):『創造する経営者』1964年

本質的に変化はつねに起きているというドラッカーの指摘にも関わらず、多くのビジネスパーソンは、過去の延長に未来はあるという発想で市場を見ていたのではないかと思います。

PDCAは通用しない?

例えばPDCAサイクル。計画を立て、それを実行に移し、結果を評価し、改善を行うそのメソッドに、疑いを持つ人はほとんどいないのかもしれません。

しかし、そもそもPDCAサイクルのスタートとなる計画(PLAN)は過去の経験やデータに基づいて立てられます。今回のようなパンデミックはもとより、消費者の価値観、ITの進展、国際情勢など絶え間なく変わる市場環境の中で、過去のデータに基づく計画はどこまで正しいと言えるのでしょうか。

また仮に正しい計画を立てられたとしても、実行(DO)の段階ですでに環境が変化している可能性が高いです。環境が変わっている以上、評価(CHECK)を行っても計画から外れた結果が出ることは明らかです。

しかも次の改善(ACT)で行うことは、計画通りに進んでいない施策の修正です。これは私からすると、とんでもないことをやっていると言えます。本当に尊重すべきは計画から外れた結果です。なぜならそれは、変化をとらえた貴重な兆しだからです。変化が起きているときに最もしてはいけないことが、変化に向き合わず自分のやり方に固執することであり、PDCAサイクルはそうなってしまう危険をはらんでいます。

明日を創るために今日何をなすべきか

変化が小さい静的な領域では、過去データから次の行動を決めるPDCAサイクルは、一定の効果を発揮するでしょう。しかし変化の影響を受ける動的な領域では、リスクのあるメソッドだと言えます。では、予測できない変化の中でどうやって未来を築けばよいのでしょうか。

これについてもドラッカーが、次のような示唆を残してくれています。

「未来を築くためにまず初めになすべきは、明日何をなすべきかを決めることでなく、明日を創るために今日何をなすべきかを決めることである。*1

今日の行動が明日を創る。すなわち未来はいま創るものなのです。いま起きている事象から変化の兆しをとらえて、明日の行動へとつなげていく。それが、変化が常態化したいま、私たちがとるべきやり方です。もう少し具体的にお話ししましょう。

PPPサイクル

PDCAサイクルが通用しない動的な領域でビジネスを実践するために、私たちはPPPサイクルという新しいメソッドを開発しました。PPPとはそれぞれ、Predict(予測する)、Perceive(知覚する)、Prioritize(優先度を付ける)を表します。

最初のPredictの段階では、データをもとに過去の延長では何が起きるかを「予測」します。次のPerceiveの段階では、過去の延長と現実とを比較し、どこにかい離が起きているのかを「知覚」します。このかい離は、まだデータは少ないものの重要な変化の兆しです。そこで最後のPrioritizeの段階では、兆しに基づく行動により成果に重要な意味を持つものに「優先度を付け」、組織はそれをもとに行動を起こします。これにより、変化の兆しに早く気づき、行動を起こすことができます。未来を予測するのではなく、新たな兆しにいち早く気づくためのレーダーとしてデータを活用します。

自己革新を仕組み化

PDCAサイクルとPPPサイクルの大きな相違点は、前者は計画通りに行動を進めることに主眼が置かれているのに対し、後者は変化に合わせてデータに基づき行動を合理的に変えることに主眼があることです。

このPPPサイクルを導入した営業組織は、市場の変化に対して自己革新しつづけることが仕組み化され、つねに適切な営業活動をとることが可能になります。

これからの営業活動においては、静的な領域にはPDCAサイクルを用い、動的な領域ではPPPサイクルの適用を進めることが必要となるでしょう。

「チャンスの神様には前髪しかない」という言葉があります。市場の変化をいち早くつかむことは大きなチャンスであり、つかみ遅れれば、ライバルの後じんを拝してしまいます。PPPサイクルは、変化の前髪をつかむことをめざすメソッドだと言えるかもしれません。

写真:矢野 和男

矢野 和男
1959年、山形県生まれ。1984年、早稲田大学大学院修士課程を修了し日立製作所に入社。同社の中央研究所にて半導体研究に携わり、1993年、単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功する。同年、博士号(工学)を取得。2004年から、世界に先駆けてウェアラブル技術とビッグデータ収集・活用の研究に着手。2014年、自著『データの見えざる手 ウェアラブルセンサが明かす人間・組織・社会』が、BookVinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。論文被引用件数は4,000件にのぼり、特許出願は350件超。2020年、(株)ハピネスプラネットを創業しCEOに就任。東京工業大学情報工学院特定教授。