本技術により、時間・空間スケールが異なる場合も簡便にプログラムを連結することができるようになり、並列計算機やLANに繋がったワークステーションクラスタ、さらにはグリッド環境でも複合計算が可能になりました。
日立社内の研究所間を結んだ社内グリッド・コンピューティング環境を構築し、本技術を半導体MOSデバイスの性能を解析するプログラムと、信頼性を解析するプログラムの連結に適用したところ、実際のデバイスを用いて測定した結果とほぼ一致する結果が得られ、現実の物理現象に即した高精度な解析が可能であることを確認しました。
このように本技術は、複数の大規模科学計算プログラムをネットワーク上で有機的に連結させ、先端ソフトウエアの有効活用を促進すると共に、グリッドコンピューティングの実用化に道を拓く技術として期待できます。
本技術は、9月4日から神戸で開催された、「2002 International Conference on Simulation of Semiconductor Process and Device」で発表されました。
■半導体シリコンMOSデバイス複合解析への適用例について(下図)
シリコンMOSデバイスにおける電子伝導の高速性と、ゲート絶縁膜材料の高信頼性を協調的に設計することを目的に、複合解析を行った結果をご紹介します。シリコンMOSデバイスでは、トランジスタのゲート長の微細化とゲート絶縁膜の薄膜化によって高速化と低消費電力化が目指されてきました。しかし、絶縁膜の薄膜化により、印加電圧で加速された高速な電子がゲート絶縁膜に衝突し、デバイス特性を劣化する問題が生じていました。
そこで、高速電子がゲート絶縁膜とシリコン基板界面の水素に衝突し、欠陥を発生させる「水素解離モデル」を考案し、電子伝導を解析するデバイスモンテカルロシミュレーションと水素解離の挙動を解析する格子モンテカルロシミュレーションを連結しました。両シミュレーション間では、連成解析用ミドルウェアを用いて、ゲート電極下の電子分布、水素原子分布や欠陥分布の物理データを相互に通信・変換し、複合解析を実行します。
電子伝導を解析するデバイスモンテカルロシミュレーションは、ピコ秒オーダの計算が行われるのに対して、水素原子が電子に散乱されて欠陥に至る格子モンテカルロシミュレーションは、秒オーダの現象です。二つの現象を複合化させる場合、前者のモンテカルロシミュレーションでは秒オーダまでの計算を行うことはできないため、ピコ秒オーダでの統計的な計算結果から、これらデータを格子モンテカルロシミュレーションへ受け渡し、秒オーダの長時間経過後の確率を予測する複合的な計算を実行しました。この結果、従来のデバイスシミュレーションでは不可能であった欠陥数Nと時間tの間の関係(累乗則(N∝tn))を解析し、実験結果をほぼ再現する結果を得ることができました。このような複合解析の実現により、半導体で起きている現象を精度良くシミュレーションすることができ、半導体デバイスの高速・高信頼性に貢献できることを実証しました。
■本件に関する照会先
株式会社 日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:内田、木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
電話 042‐323‐1111(代表)
■報道機関問合せ先
株式会社 日立製作所 コーポレート・コミュニケーション本部 広報部 [担当:早川]
〒101-8010 東京都千代田区神田駿河台四丁目6番地
電話 03-3258-2056(ダイヤルイン)