日立製作所 中央研究所(所長:西野壽一)は、このたび、次世代のメトロ系(都市間)光ネットワークに向けた40ギガビット/秒動作の光変調器の開発に成功しました。また、今回開発した光変調器に専用のドライバ回路を集積した小型光伝送モジュールを用いて、世界で初めて光アンプを使用せずに2kmのエラーフリー伝送(デジタル符号誤りが生じないデータ伝送)を達成しました。
本成果により、光送信装置に用いる光源部品のなかで、大きなコスト・容積を占める光アンプを節減でき、次世代メトロ系光ネットワークの低コスト・小型化への道を拓くこととなります。
近年、インターネットの急速な普及およびブロードバンド化の進展により、ユーザアクセスの通信容量が急速に増大しつつあります。これに伴い、従来から取り組んでいた大都市間を結ぶ"幹線系"長距離ネットワークに加えて、都市間を結ぶいわゆる"メトロ系"ネットワークにおいても高速・大容量化に対するニーズが高まっています。
しかし、大規模な投資を行う幹線系に対して、中規模なメトロ系の拡充には、低コストネットワークシステムの開発が最大の課題となっています。例えば、現在、光送信装置用の光源は『半導体レーザ』、オン・オフ信号を生成する『光変調器』、送信光を増幅させる『光アンプ』から構成されていますが、今後、低コスト化を実現するためには、(1)半導体レーザと光変調器の集積化による小型化、(2)光アンプの削減などの低コスト化技術を開発する必要があります。
このような背景から、今回、日立中央研究所では、40ギガビット/秒の次世代メトロ系ネットワークにおける低コスト化技術の開発に取り組み、光送信装置に用いる光源部品のなかで、大きなコストと容積を占める光アンプを節減する技術の開発に成功しました。
今回の具体的な開発成果は、以下の通りです。
1.周辺回路との集積化が可能な分布定数型光変調器を開発
光変調器として、半導体レーザとの集積化に適し、高速性と高光出力性能を持つ"分布定数型半導体光変調器(*1)"を採用しています。また、従来の分布定数型光変調器が持つ、周辺回路と電気整合がとりにくいという欠点(インピーダンス(*2)不整合)を解決するために、新たにインピーダンスの調整回路を半導体光変調器内に作りこむ新技術を開発しました。この結果、送信器を組み立てる際に、完全なインピーダンスの整合性が可能となり、光変調器と周辺回路間の集積化を容易に行うことができます。
2.光変調器ドライバを集積した光モジュールを開発
今回開発した分布定数型光変調器において、周辺回路と電気整合性が取れるため、InP-HBT(インジウム・リン[Hetero-junction Bipolar Transistor])製の光変調器ドライバを同一パッケージ内に集積しました。これにより、40ギガビット/秒の電気信号の入力に対して、メトロ系ネットワーク内のルータ間接続距離2kmでの伝送を可能とする1.3dBmの光出力が得られました(*3)。
その結果、40ギガビット/秒の光伝送において、世界で初めて光アンプを用いずに、2kmのエラーフリー伝送の実現を実証しました。
今回開発した光変調器により、40ギガビット/秒という次世代のメトロ系ネットワークシステムにおいて、光源用の光アンプを節減することが可能となります。また、日立ではすでに、変調器と半導体レーザとの集積化素子においても基本特性を確認しており、今後は、メトロ系ネットワークの低コスト化に向けた実用化を進めていく予定です。
なお、本成果は、9月8日からコペンハーゲンで開催されたヨーロッパ光通信国際会議(ECOC'02)にて、9月12日に発表しました。
■注釈 |
(*1) |
分布定数型半導体光変調器:進行波型半導体変調器とも呼ばれる。電気信号を光信号に変換する部分において、光信号の伝送路上に、電気信号の伝送路が形成されていることが特徴。
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(*2) |
インピーダンス:電気信号を伝搬する伝送線路上での電圧と電流の比を示します。伝送経路内で特性インピーダンスが一定であれば、電気信号はスムーズに伝送されます。一方、特性インピーダンスに違いがあると反射ノイズが生じるため、通常、光電子部品の特性インピーダンスは標準値である50Ω(オーム)に設定することが望まれています。しかし、従来の分布定数型変調器は、特性インピーダンスが低く、周辺回路との整合性がとれないため、伝送信号の波形が劣化するという欠点があり、これまで光送信器用の変調器に採用されていない大きな要因となっていました。
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(*3) |
1.3μm帯の光を採用し、ファイバ分散による波形劣化を抑制した結果、シングルモードファイバで2km伝送した場合の光信号の品質劣化は1dB以下(最小0.3dB)となり、優れた伝送特性を実証しました。1dBとは2kmのファイバ伝送が可能かどうかの目安値。
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