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その日の予定に合わせて洋服を選ぶように、目的に応じて最適なクラウドサービスを選ぶ時代が来ています。
日立は、異なる種類のクラウドを一元管理できる新サービス「フェデレーテッドクラウド」を開発。お客さまのクラウドも、提携各社のクラウドも、もちろん日立のクラウドも、すべてまとめて管理できます。
この「フェデレーテッドクラウド」がもたらす新たなクラウド運用のかたちは、研究者の地道な調査によって実現しました。

(2016年3月1日 公開)

クラウドの新潮流、フェデレーテッドクラウド

「フェデレーテッドクラウド」とは何でしょうか。

肥村ひと言で言うと、複数のクラウドを組み合わせて利用できるようにするためのサービスです。お客さま自身が管理を行う「プライベートクラウド」、日立が提供する高信頼・高セキュリティな「マネージドクラウド」、Amazon Web Services(AWS)をはじめとした提携各社の「パートナークラウド」、この3種類のクラウドを統合的に管理・運用できるようになります。

保田クラウドが世の中に浸透してきて、さまざまな特性を持つクラウドが提供されるようになり、お客さまの要件に合わせて、これらのクラウドを適材適所で使い分けるという動きが出てきました。
ただ、複数のクラウドを使い分けるというのは容易なことではありません。クラウドごとに管理体系や画面の見え方が異なりますし、ツールも分かれています。お客さまがクラウドを運用するのが非常に大変になるだろう、ということが予想できたのです。そこで、事業部と研究所が一緒になって300人体制のプロジェクトを立ち上げ、新しいクラウドサービスの研究を始めました。2013年のことです。

300人…大規模なプロジェクトですね。

保田そうですね。これまでは、研究所が主体となって研究を進めて、その成果を事業部に提供するというかたちが多く、必然的に、関係するのも特定の事業部だけということが多かったのです。
クラウドの場合、データセンター内のサーバやストレージ、ネットワーク機器などを運用・管理する人もいれば、クラウド上で動くアプリケーションを開発する人もいますし、そのアプリケーションを利用する人もいます。関連する事業部も多い。結果として、非常に大きなプロジェクトになりました。

ほかに印象的だったことはありますか。

保田すべてが非常にスピーディだったということですね。どういうコンセプトが世の中に響くか、コンセプトを具現化するには何を研究したらよいか、その成果をどう生かしていくか…これらをほぼ同時並行で進めていくのです。事業部やお客さまからのフィードバックもとても早くいただけて、従来の研究開発とのスピード感の違いが印象的でした。

また、けん引力のあるリーダーの存在も大きかったですね。プロジェクトの体制や研究の進め方など、かなりの部分をトップダウンでリードしていました。もちろん、世の中の動きが後押ししてくれた部分もあるのですけれど、それだけではうまくいかないこともありますから…。

リーダーの熱意と世の中の動きがうまく組み合わさったのですね。お二人はプロジェクトでどのようなことを担当したのですか。

肥村クラウドにはさまざまな製品・サービスが関係するのですが、日立では、提供するサービスの種類に合わせて図1のように体系化しました。わたしたちは中心部分にある「フェデレーテッドクラウド」…さまざまなクラウドをつないで一つの新しい価値を出そうという研究開発をするチームの一員として参加しました。保田はチームのとりまとめを、わたしはサービス開発を担当しました。

図1 フェデレーテッドクラウドを実現するサービス群
フェデレーテッドクラウドを実現するサービス群を示す図

お客さまに響くサービスを生み出すために

サービス開発とは、具体的にどのようなことをするのですか。

肥村説明が難しいのですが…まずは、そもそも何がお客さまに響くのか、ということを考えるところからですね。お客さまがどうクラウドを使うのか、どのようなユースケースがあるか、どういった価値をお客さまに提供できるのか。それと同時に、技術的な部分…どう実現していくかということも検討しました。例えば、処理のアルゴリズムを考えたり、各クラウドの機能調査をしたり。幅広いですね。

保田クラウドそのものは事業として存在していましたが、フェデレーテッドクラウドに該当する市場はまだ立ち上がっていない状況でした。お客さまから具体的なニーズが寄せられている、ということもありませんでしたから、仮説ベースで検討を進めました。

お客さまがフェデレーテッドクラウドを使うようになったら、どういうことを求めるかな、というところから、チーム内で議論を重ねて。その中でいくつか、有望そうな技術項目を挙げて、さらに検討を進めていきました。これらの検討結果が盛り込まれたのが「フェデレーテッドポータル」です。

「フェデレーテッドポータル」とは何ですか。

図2 フェデレーテッドポータルの概要
フェデレーテッドポータルの概要図

肥村仕様や操作方法の異なる複数のクラウドを、一元管理するためのWebサービスです。種類の異なるクラウドを同じインターフェースで表示・操作でき、現在のシステム構成や稼働状況をぱっと把握できるようになります。

保田違うものを同じような粒度で見せるという感じでしょうか。AWSだったらAWSの見え方があるし、日立のクラウドだったら日立のクラウドの見え方がありますが、管理する側からしたらわかりにくいですよね。同じ操作で、すべて同じように見える、というところがお客さまには必要と考えました。

クラウドの種類が異なるのに、なぜ同じように操作できるのですか。

保田お客さまの操作内容を、それぞれのクラウドに合わせて変換して伝えているからです。クラウドの操作はAPIと呼ばれるインターフェースを介して行いますが、準備されているAPIはクラウドごとに異なります。そこで、このクラウドだったらこのAPIを使用する、というように、操作ごとにどのAPIを使用するかを対応づけているのです。

肥村操作とAPIの対応づけは、研究所のメンバーが中心となって行ったのですが、パートナークラウドの場合、中身がブラックボックスなので、まずそれぞれのサービスを一生懸命使って。どう使うのか、というのを覚えるところから始めました。

すべてを自分たちで開発しているわけではないので、徹底的に「使いこなし」て、それがどういうものなのかというのを知ることも非常に重要なアクティビティなのです。この「使いこなし」で得た知識やノウハウは、問い合わせ対応や入門書の執筆、ほかの研究のサポートなどにも活用しています。

前例がない中での研究開発

サービスを実際に使いながらの調査、大変だったのでは。

写真「肥村 洋輔(ひむら ようすけ)」

肥村はい。パートナークラウドは機能のアップデートが頻繁に行われるので、気づいたら画面の要素が増えていたり、自分が作成したプログラムの動作が変わってしまったり…。

他社のサービスですから、なぜ動作が変わったのかを特定するにも、自分たちだけでは対応が難しい。サポートサービスに問い合わせて原因を切り分けていくのですけれど、解決まで時間が掛かることもありました。

保田開発環境を整えるのも大変でしたね。それまで社内から他社のクラウドを使うような仕組みはありませんでしたから、どうやったら社外の環境を利用して安全に研究開発ができるか、というところから考えないといけなくて。

肥村社内のIT部門や情報インフラに詳しいメンバーの協力を得て開発環境を整えましたが、最初はどう進めればよいかもよくわからない状態で。すべて手探りでした。開発環境を社外に手軽に構築できてしまうので、セキュリティ事故が起きないような仕組み作りやガイドラインの作成にもかなりの時間を費やしました。

他社サービスならではの苦労ですね。

肥村ええ。ですが、良い経験になったと思います。苦労もありましたけど、他社の先進的な技術に触れることができましたし。システムの信頼性を担保する方法など戸惑った部分もあるのですけれど、そういった考え方の違いも刺激的でした。

保田プロジェクトを通じて、お客さまにとっての価値とは何か、より深く考えるようになりましたね。これまでは、すべて自社で作って売る、ということが日立らしさにつながっているところがあったかもしれないのですけれど、選択肢はそれだけではないですよね。良い製品やサービスがあるなら積極的に活用していく、ということも、お客さまに価値をスピーディに提供していくには必要な考え方ではないでしょうか。

世の中の変化を取り入れ、より良いサービスを

「フェデレーテッドクラウド」への反応はいかがでしたか。

写真「保田 淑子(やすだ よしこ)」

保田発表したときから、お客さまからの評判は非常に良くて。すでに大学や独立行政法人等でサービスを利用いただいています。やはり、同じインターフェースで複数のクラウドを利用できるのが非常に楽だと運用担当の方から言われたそうです。ただ、サービスはまだ始まったばかりなので、本当の意味でのフィードバックはこれからかな、と思っています。

また、フェデレーテッドクラウドは、システムの運用管理を楽にする…IaaS(Infrastructure as a Service)と呼ばれるインフラレベルのサービスなのですけれど、世の中ではアプリケーションの開発を楽にする…PaaS(Platform as a Service)と呼ばれる開発環境を含めたサービスを提供する流れが出てきていますから、そちらの方向にサービスを広げていくことも考えています。

世の中の変化を取り入れていくことが大切なのですね。

保田ええ。サービス開発の場合は、プロダクト開発の場合とは異なり、開発の指針となるものが明確にあるわけではありません。周囲の影響をとても大きく受けるので、半年前にはこうやろうと思っていたことが、半年たったら周囲が全然違うことを言っている。状況が様変わりしていることも多いのですよ。ですから、こまめに軌道修正をかけながら進めていく必要があるのです。

かじ取りが大変そうですね。今後はどのような研究を進めていくのですか。

肥村まだ自分としてはぼんやりとしているところがありますが、データ分析とか、IoT向けのデバイス管理とか、いままでにない機能を持つクラウドが出てきています。そういったクラウドの機能から、新しい使い方、お客さまにとっての価値などを見いだして、新たなサービスを提案していきたいと思っています。
いまは、お客さまに直接ヒアリングに伺ったり、営業担当者経由でフィードバックをいただいたりしながら、どんなことがいちばんお客さまに響くか、というのを、手を動かして…試作しながら検討しているところです。

保田わたしは即時性のあるシステムにも対応できるクラウドの基盤を実現していきたいですね。これからは、モノとかセンサーとか人とか、さまざまなものがネットワークにつながっていきます。そこから収集した情報を分析してサービスに反映するには、システムの即時性は重要な要件になるでしょう。
また、わたしたちの部署は運用管理技術の研究がメイン。クラウドサービスを支える運用管理技術を突き詰めていくことで、お客さまのビジネスに貢献していきたいですね。

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