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Hitachi

Tangible City

人のサイズに合った街

「駅前の大通りに樹を植えて歩道にするのを提案しようかな」

変化の始まり

パンデミック以前の都市部は、効率を重視し、人間の歩行速度や身体的サイズではなく車や電車など「動きの速い」交通手段を軸に構築されたものだった。だが、パンデミックを契機に、オフィス街を抱える都市部では昼間人口の流出が始まり、その価値の重心は「働く」から「過ごす」へとシフトする。歩行者や自転車が気持ちよく移動できる街づくりが求められるようになり、多くの公共道路や沿道は人々の関わりやすさを重視した憩いの場へと変容していく。

都市は「再開発の場」から「再生する場」へ

オフィスビルは次々と居住用マンションへと変わり、都市の「富裕化」に歯止めがかかる。居住エリアとして様変わりした都市部に移り住み、街を活性化させるのはアーティストやテクノロジスト。彼ら/彼女らは、これまで主要な機能を果たしてきた道路や施設・店舗がなくても、豊かな暮らしを創出できると気づき、街を自然・アート・技術を融合させた実験の場へと変化させていく。人々が旧来のインフラの必要性を感じなくなる中、高速道路の歩道化など、新たに生み出された施設は、彼ら/彼女らと街を結ぶ「ゆとりの場」として機能していく。

自然・アート・テクノロジーの融合による、都市の再生が進む。かつて都市の機能性向上に貢献してきた駅などの大型構造物は、人と自然の距離を近づける役割を帯びていく。現代のスクラップ・アンド・ビルド的「再開発思考」は失われ、壊すのではなく、アートや自然の力による「再生意識」が育まれていく。人々は旧来の施設に苗を植え、長い年月をかけて樹木で覆われた「山」のように様変わりさせるなど、自然本来の時間軸に沿った「再生」を進め、新たな街のシンボルとなるような景観の成長と併せ、都市が変化する様子を見守っていく。

街のインフラは小規模で柔軟になり、関与できるものに

通勤による移動機会の激減により、人々の間で交通手段についての議論がスタートする。経営的観点から民営の交通サービス維持が難しくなる中、自分たちの「自由に動けるはずの権利」が問われ始める。一方、市民の自由な「足」を確保するには、自らに責任が生じることも自覚されるようになり、人々は街で維持できる規模や柔軟性の高い交通手段を模索し、全市民からの基本料金徴収、バスのオンデマンド化などさまざまな実験を繰り返す。それに伴い、人々の中にインフラは利用するものではなく、自分たちが支えることで維持されるものだという意識が芽生えていく。

インフラのあり方の試行錯誤を経て、市民とインフラの関係はより顕在化されていく。都市内の交通移動は最小限の公共交通機関で担われるようになり、多くの駅は、地域の商業的・文化的拠点であると同時に物流拠点としての色合いが強くなる。エリアごとに地域のインフラを一手に担う事業体も生まれる。再生可能エネルギーの地域内循環、駅から各家庭への物流システムの構築など、人々は新たなインフラづくりに携わる起業家を支援。エリアごとに特色のあるインフラが生まれ、小規模で、柔軟で、関与できるインフラが市民にとって必然となっていく。

Keywords:
市民参加型まちづくり、都市機能の変化(オフィス街・ベッドタウン)、都市交通・緑化・エネルギー、ウォーカブルシティ、昼夜間人口比シフト