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Ethical Distancing

衛生によって開かれる倫理観のパンドラの箱

「お客さまのようなスタイルの方は入店をお断りしています」

変化の始まり

フィジカルディスタンシングへの意識やものへの触れ方、在宅勤務の許容度合いなど、公共の場での振る舞いを通じて個人の倫理観が透けて見えるようになったパンデミック下の生活。親しい間柄でも倫理観のギャップが顕在化するなど、相手のスタイルを察知しすり合わせることが日常的に求められ、新たなストレス要因となってしまう。

空気のような「模範」が人々の行動基準に

行政機関は、人々の行動記録アプリデータをもとに、インフルエンザや新型感染症の流行を予測。異常気象などの予測と併せ、詳細情報が日々世の中に発信されていく。人々は、感染予測→行動モニタリング→結果の報告が繰り返される、全体監視下的な暮らしに違和感を覚えつつも、行政が示す「皆で感染を抑えよう」という方針に次第に慣れ、一つの「模範的」な行動をとるようになる。ただしこの「模範」は、明確なルールとして示されてはおらず、人々の間に徐々に刷り込まれていく「こういう場合はこうするべき」というぼんやりとした不文律、行動基準に過ぎない。

一日の行動ログやバイタルデータなど個人情報の提供は「公共の利益」、つまりめぐり巡って自分の利益に返るものとして認識され、一般化する。それに伴い、人々は個々の行動記録アプリから提案される、公共的に役立つ「おすすめ行動」を意識的に選択するようになり、行政機関からのさまざまな優遇を受ける。「週に一度の感染症チェックを受ける」など、選択した行動によって個々の「倫理観」は徐々に類型化。公共から示される情報により、似通った倫理観を共有し集団に閉じて生活する人々が増え、各々の集団の間には軋轢も生じ始める。そんな分断に対し、「模範」や「類型」を壊そうとする動きが広がっていく。

倫理観によって生まれるラディカルなライフスタイル

街の各施設・店舗は、混雑度をわかりやすく可視化。予約制を導入したり、店舗ごとの倫理観/ポリシーを示すことで、人々が日常的に利用しやすい仕組みづくりを進める。事前に利用客の傾向をつかめるようになった店側は、次第に従来の「利用者から選ばれる」立場から「利用客を選ぶ」立場へと移行。店と客の関係は対等、もしくは店側がアドバンテージを持つ関係へと変わっていく。一方、客側も店側のルールに従い不便を強いられる代わりに、利用時におけるプラスアルファの経験を重視するようになる。店側はフィジカルディスタンシング用のスペースを使って創意工夫を図るなど、サービスの向上を追求していく。

混雑平準化のため地域単位で予約情報を共有するようになった各施設・店舗は、「LOHAS」(健康的で持続可能な生活様式)のような統合的「スタイル」(倫理観)を打ち出し、協力して利用者獲得に乗り出す。宗教的戒律を意識した食の提供、オンラインでのone to one接客など、より先鋭的なサービスに惹かれる少数派も現れ、店舗選びを通して個々の価値観を体現したい人々は自身の行動を店舗の発信する「スタイル」に合わせて順応させていく。スタイルを柱とした小集団ごとの行動は活発化し、周囲の集団とも交わりつつ、特色のある新たな生活圏が形成されていく。

Keywords:
衛生観、倫理観、三密回避、混雑予測、対人距離、人流解析、行動変容、エシカル消費