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Bonds of Citizens

市民がつくる第2の「自治」体

「もう国には任せておけない」

変化の始まり

商店街救済施策となったクラウドファンディングやフードデリバリー。地域で生きる人々は、結束力と水面下で育まれてきた復旧力の強さで、パンデミックによる経済的窮状に立ち向かった。在宅勤務者は地域内のレストランからランチの配送を頼むなど、行政に頼らずとも一個人が地域社会を守るためにささやかな貢献ができることを実感し、市民みずからの力で地域社会を最適に保とうとする動きが広がり始める。

自分たちの地域は自分たちで守る「ご当地行政」

パンデミック下では、人々の懸念からくる悪意のない買占め行為が特定の商品を欠品に追い込み、社会不安をあおった。そんな状況を省みた人々は、東日本大震災発生時、電力の需給バランスが数値化され街に掲示された時のように、生活必需品の需給変動が常にモニターされ、需要過多になると購入制限がかかる状況を受け入れる。行政の個人情報管理と民間のサプライチェーン管理を融合した新しいサービスは、人々に「計画性のある需要と供給」という安心感を与え、市民と街は信頼関係を築く。行政・企業・市民が共に協力しあい成果を上げる街の調整力は可視化され、各都市間で人々を誘致する際の競争要素となっていく。

各地域の調整力は人々が住む場所を選ぶ際の一要素ともなる。それに伴い、調整力の地域差が広がり、調整力の弱い地域同士では不足を補完しあう連帯協定が進む。人々は自らの不安を払しょくするため、求心力のある市民を中心に企業・大学・行政を巻き込んだ共同体を形成。食やエネルギーの地産地消を行う地域独自のインフラをつくり、災害時にも機能するセーフティネットを築く「ご当地行政」が出現する。地域内の困りごとがSNSなどオンラインを通して拡散されることで、これまで地域との関わりが少なかった人々も、地域貢献への糸口をつかむ。

地域のつながりを保つ新しい公共財

在宅勤務をはじめ自由な働き方が浸透するにつれ、余暇を使い、地域内の騒音や余剰食材問題など行政支援が行き届きにくい課題に取り組む個人活動家やNPOが増加。地域内で相互関係を支える基盤として地域通貨が生み出され、行政からの助成金でも銀行からの融資でもないコミュニティファンドが、地域の皆が共有する新たな公共財として機能し始める。人々が地域のために集めた資金から地域の新たな価値を創出するコミュニティアントレプレナーも生まれる。彼ら/彼女らは、インフラ整備など地域のニーズに合わせた街の仕組みを実装していく。

コミュニティファンドは成長し、自らの資金で街を運営する共通認識は盤石なものとなる。資金の運用方法・投資先を決めるため、市民の間に意見を交わす手段として合意形成のためのツールも登場し、市民のニーズ発信と、スキル、リソースマッチングのプラットフォームとしても機能しはじめる。一方で、コミュニティ内での意見の衝突や、大きな声を持つ一部市民が優遇されるなどの問題も生じはじめ、通勤によって地域にいる時間が少ない会社員や地域内の交流を苦手とする人々は、議論参加の機会を逃し「地域社会的弱者」と化してしまう。声をあげられない人々の思いも汲み取りつつ、皆に公平である地域社会の再構築が新たな課題となる。

Keywords:
地域経済、地域共有材・公共財、シビックテック、シビックリテラシー、地産地消、マイクログリッド