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在来線混雑可視化システムの画面。列車を表す三角形のアイコンが無数に進行し、列車の遅延や混雑の状況をアイコンの色や大きさで表現している。

©JR東日本
文/今村玲子

使命はダイヤの平準化

JR東日本では69路線があり、1日に約1,780万人の乗客が12,296本もの電車を利用しています。その大半を占める首都圏の路線では混雑や遅延が日常的に発生し、これを緩和するために通勤時間帯の列車の増発や一編成の両数を増やすといった対策を取ってきました。こうしたなか2014年から、列車の混雑状況をデータで可視化して指令室で活用する研究が始まりました。

JR東日本の指令室では、それぞれの指令員が担当する路線の運行を管理しています。例えば、人身事故などの異常が発生すると電車が一斉に停まることになります。その間に乗客が滞留し、運転が再開しても混雑でさらに遅延が発生します。この場合、指令員の使命は早急にダイヤを戻すこと。駅係員や乗務員と連絡を取りながら列車の間隔を均等に保ち、折り返し運転などを指示します。これは現場の知識と経験をフル活用し、複雑なパズルを解くような感覚です。この現場にICTを取り入れることで、経験や勘ではなく定量データに基づいた運行管理を支援したいと考えたのです。

使用するデータは、列車の遅れと混雑状況のふたつ。これらをひとつの画面上に重ねることで、首都圏の輸送を俯瞰しながら、どこで遅れや混雑が生じているかを把握し、全体最適を図りながらダイヤを早期に戻していくのです。

綿密に磨き上げたGUI

在来線混雑可視化システムは2017年4月にサービスインし、翌年度のグッドデザイン賞では「美しさに目を奪われるGUI」と評価されました。日立では鉄道やバスなど交通機関のデータ可視化技術に力を入れてきましたが、今回は現場の指令員にとって直感的に見やすいものを追求したのです。

画面では、首都圏の24路線をまとめた地図上に、小さな三角形のアイコンが無数に進行しています。列車の遅延については、列車を表す三角形のアイコンの色で表現し、例えば、遅延が増大すると赤で表現されます。列車の混雑については、三角形のアイコンを取り囲む円の色および大きさで表現し、混雑がひどくなると赤く、大きく表現されます。

黒い背景に鮮やかな光のドットが動き回っている様子を見れば「路線のどこで混雑が発生しているか」をすぐに認識できるのです。

分析と予測の段階へ

運用が始まってから3年が経過し、日々の運行管理だけでなく、数日間を要する復旧作業といったイレギュラーな運行計画などでも過去の混雑データが活用されています。

今後は、過去のデータからどのような原理で慢性遅延が発生するのかの分析や、混雑状況の予測などの研究が考えられています。

また、利用者に向けては、新型コロナの対応策として混雑状況を公開する試みも実施。山手線内限定で駅の混雑予測も試験運用中です。事業者も乗客も悩ませる「混雑」の解消に向けたJR東日本と日立の取り組みは今後も続いていきます。

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