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  • Chief Lumada Business Officer 対談シリーズ
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    デジタルと戦略のプロ 加治 慶光・澤 円が訊く! 深層「日立のDX」後編
    事例と経験で見えてきた「社会インフラDX」を前に進める「絶対条件」と「成功のポイント」

    2021年10月 日経ビジネス電子版 SPECIAL掲載

    深層「日立のDX」後編 事例と経験で見えてきた「社会インフラDX」を前に進める「絶対条件」と「成功のポイント」:Chief Lumada Business Officer 対談シリーズ デジタルと戦略のプロ 加治 慶光・澤 円が訊く!

    電力、鉄道、通信、上下水道をはじめ、社会インフラを支えるシステムを長年にわたって提供してきた日立製作所(以下、日立)。同社では様々な事業で培った知識・ノウハウとデジタル技術を高度に融合させることにより「社会イノベーション事業」を推進。社会と企業経営の課題解決を通じて、持続的な成長を目指している。この実現に向け重要な役割を果たしているのが「Lumada(ルマーダ)」だ。これは協創による新たな価値創造のための、日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション/サービス/テクノロジーの総称だ。こうした取り組みの全体像やLumadaについて、社会ビジネスユニットCLBO、COO 細矢 良智と、日立に新たにジョインした加治 慶光、澤 円の3人が語り合った。

    DXによる「社会インフラ保守」と「再生可能エネルギー普及」の事例

    株式会社 日立製作所 社会ビジネスユニット CLBO、COO 理事 細矢 良智

    株式会社 日立製作所 社会ビジネスユニット CLBO、COO 理事 細矢 良智

    ―社会インフラのDXには、どのような事例があるのでしょうか。

    細矢:まずは、社会BUの主力事業の1つである「社会インフラ保守」を例にお話しします。

    いま日本では上水・下水道管、ガス管、通信配線、電力配線といった社会インフラの老朽化が進む一方で、保守を行う熟練技術者の不足と高齢化が大きな課題となっています。

    そこで日立は、デバイス・センサーやドローンによる常時監視・障害検知の仕組みを開発し、インフラ点検作業の自動化・効率化を実現しています。このソリューションの活用は、平時は熟練技術者のスキルに依存しない早期の障害発見と安定的な社会インフラの管理に貢献します。また大規模災害発生時には、危険地域に技術者が立ち入ることなく、迅速に社会インフラの被災状況を把握することで、早期復旧による国土強靭化にも寄与します(図)。

    Lumadaを活用した社会インフラ保守サービス
    図 Lumadaを活用した社会インフラ保守サービス
    社会インフラ保守では、設備の老朽化と保守作業員の減少により、
    従来と同等のサービスレベルを維持することが困難となりつつある。
    そこで現場データと作業ノウハウをデジタル化したプラットフォームを中核に、
    サービスレベルとコストを両立する新しい維持管理サービスを実現する。

    これらの仕組みの社会実装に先立ち、2016年に発生した熊本地震によって市内全域が断水などの被害に見舞われた熊本市で「漏水検知サービス」の実証実験を行いました。

    このサービスでは、日立独自の超高感度振動センサーを活用し、水道管の漏水エリアを高精度かつ迅速に特定することが可能です。従来の漏水調査は、専門的なスキルを持った調査員が市内を徒歩で巡回し、水道管を現場で調査していました。大きな負担がかかる業務ですが、このサービスを使えば熟練調査員が不足していく状況でも、老朽化した水道管の維持管理がスピーディーかつ安定的に行えます。

    実はこの超高感度振動センサー、もともとは違う用途で作られたものでしたが、それをLumada上で転用して漏水を検知できるようにしたものです。さらにこのサービスでは、センサーから得た情報を離れた場所にあるサーバーへ飛ばすため、Lumadaで通信キャリアと協創しながら、常に安定的かつ安価にモバイルネットワークを活用する技術も開発しています。

    加治:大規模災害の規模と頻度は残念ながら、これからも幾何級数的に増えていきます。属人化した作業を高精度な仕組みに置き換えるだけでなく、社会インフラを大規模災害から守り、早期に復旧させる観点も持ったサービスを手掛けられるのは、日立ならではといえるのではないでしょうか。

    澤:いま細矢さんが、違う技術を転用して新しいサービスを作ったお話をされましたが、これはすごく重要なポイントです。自分の持っている知見がほかの用途にも役立つんじゃないか、ならばやってみようと、すぐに動ける体制やスキームが社内にあることが緊急時には何よりも役立つからです。

    社会インフラはOTとITが一体化したことで、近年サイバー攻撃が急増しています。手口は日々巧妙化していますから、“こういう準備をしておけば絶対に守れる”という保証はどこにもありません。インシデントは必ず起きるという前提で防御態勢を整えるには、様々な知見を集めて柔軟にベストエフォートを立案・実行できる体制が重要です。その点、日立はリアルとデジタルの領域どちらでもセキュアに保守を行うことができ、豊富な知見をLumadaですぐに掛け合わせることができる。今後、これが大きな意義を持ってくるはずです。

    細矢:社会インフラのDX事例をもう1つ、お話したいと思います。日立は電力会社などと協創を通じ、安定的な電力の供給と再生可能エネルギーの大規模な活用への貢献にも取り組んでいます。

    例えば、電力を安定供給するための制御手順をリアルタイムに見出す仕組みによって、送電系統の事故時には、既設の送電系統が残している送電線の余力を有効活用できるソリューションを提供します。これは各系統の発電量をセンシングし、制御で全体バランスをとることができるシステムで、風力発電など再生可能エネルギーが導入された電力系統の安定化に有効と考えています。

    また、風力発電を導入する際には、送電系統の余力が不足していることから設備の更新や増強が必要となる場合があります。そこに本ソリューションを適用すれば、設備改修にかかる膨大なコストや時間を低減し、既存の設備を有効活用した再生可能エネルギーの普及が期待できます。

    日本企業でDXがなかなか進まない理由とは

    株式会社 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット Lumada Innovation Hub Senior Principal 株式会社 シナモン 取締役会長 兼チーフ・サステナブル・デベロプメント・オフィサー 加治 慶光

    株式会社 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット Lumada Innovation Hub Senior Principal 株式会社 シナモン 取締役会長 兼チーフ・サステナブル・デベロプメント・オフィサー 加治 慶光

    ―社会インフラを支える事業だけに、DXの推進には様々な困難があるのではないでしょうか。具体的なハードルと、それを乗り越えるためのポイントを教えてください。

    細矢:DXは全社・全グループにまたがったプロジェクトになることが多いため多数のステークホルダーが存在します。まずはそうしたステークホルダーにDXへ取り組む価値を感じてもらうことが第一です。とはいえステークホルダー自身、DXといっても何をするべきか悩んでおられるケースが多いので、理想とするTo-Be(あるべき姿)を明確にし、それを実現するためのアイデアを出すことから始めます。このアイデアを実現するために、お客様とお客様をつないで技術を磨き、お互いがWin-Winとなるように協創を進める。それによって新たな価値を創出していきます。

    具体例として、日立が支援する新材料の開発におけるDXをご紹介します。

    新材料の開発は、企業の競争力の源であるとともに、高機能材料による持続可能な社会の実現に向け、何よりも研究開発のスピードが求められています。

    そこで日立は、これまでの熟練者の経験などを頼りにしていた実験やシミュレーションに代わり、シミュレーションデータや実験データを分析することによって短期間で効率よく、材料特性や知見を見出すソリューションを提供しています。

    ここで日立は、独自開発のAIやデータ分析環境に加え、日立のデータサイエンティストによる材料データ分析支援サービスも提供し、お客様の材料開発の効率化を支援します。お客様は材料開発のスペシャリストであり、そこに日立のデジタルの技術を融合することにより材料開発の期間とコスト削減をはじめ、開発過程での環境負荷を軽減することができます。リサイクル素材や高機能材料の開発を加速することは循環型社会にも直結するため、日立は帝人や三井化学、トヨタ自動車などのお客様と、それぞれ協創を推進しています。

    澤:DXの推進で問題なのは、予算を握っている経営層がITを十分に理解していない場合が多いことです。

    だからPoCをたくさんやることで満足して、なかなか次のステップに進めないケースが目立ちます。さらに日本企業はPoCの失敗でさえ責任を取りたがらないので、ベンダー側が資金を持つことが多い。当然それでは本腰が入らないので、PoCのループにはまっていく。一方、海外の企業はPoCを最初からプロジェクトの中に組み込んだ形で行い、先方のステークホルダーが責任を持つパターンが圧倒的に多い。これが日本との決定的な違いです。そういった状況を踏まえつつ、いかにステークホルダーを本気にさせ、納得させてDXを進めていくかが大きなチャレンジになるのではないでしょうか。

    加治:将来は、業種業態を超えた協創もポイントとなります。そこではOT(制御・運用技術)とITの連携が重要になりますが、日立は社内の違う事業部同士が協業しやすい体制を整えていますし、自社だけでなく他社の力も借りて、競合する部分と協業する部分を切り分けていることがわかります。そしてLumadaを活用して、パートナーと力を合わせ協創に注力する方向に舵を切った。

    そのために前回触れた、パートナーとともに技術・ノウハウ・アイデアを相互に活用する制度「Lumada Alliance Program(ルマーダ アライアンス プログラム)」を開始しました。また、研究開発拠点の「協創の森」や大みか事業所など、DXの最前線となる施設や人財とパートナーをバーチャルとリアルの両面でつなぎ、知恵を掛け合わせる新たな拠点として「Lumada Innovation Hub Tokyo(ルマーダ イノベーション ハブ トウキョウ)」を開設しています。

    多くの事業フィールドを持つ日立が、社会インフラで本格的にOT×ITの掛け合わせを進める決断を行った意義は非常に大きいと思います。

    細矢:お話の通り、日立はお客様とDXをスムーズに行えるような仕掛けを積極的に開発・提供しています。お客様の新しいビジネスやサービスを、協創を通じて作り上げていく協創方法論「NEXPERIENCE(ネクスペリエンス)」は、これまで国内外で数百件の適用実績があります。

    また、いま加治さんに紹介してもらったプログラムや拠点のほかに、「Lumada Solution Hub(ルマーダ ソリューション ハブ)」という共通プラットフォームも立ち上げました。ここには日立やパートナーがこれまで培ってきた、実績あるソリューションが業種や企業の垣根を越えて蓄積されており、必要なものを素早く、的確に見つけることができます。

    これからの課題解決や価値創造は、1社でも1業種でもできません。自前の技術やソリューションで課題を解決しようとする「自前主義」だけでなく、パートナーと力を合わせ、協創を加速する仕組みを、これからも強化していくつもりです。

    “社会インフラas a Service”の実現を目指す

    株式会社 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット Lumada Innovation Evangelist 株式会社 圓窓 代表取締役 澤 円

    株式会社 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット Lumada Innovation Evangelist 株式会社 圓窓 代表取締役 澤 円

    ―日立は今後、社会インフラのDXをどう支援していくのでしょうか。それによって実現する社会の姿についても、お聞かせください。

    細矢:例えば、電気と天気と電車、道路と地下の埋設物、ビルや重要施設のセキュリティ、これらすべてがつながることで、安全・安心な社会と共に、人々のQoL向上も実現することができるはずです。

    1つの事例として目指しているのが、地中に埋まっている水道管やガス管などを正確に把握できるように、地中を丸ごと可視化するサービスです。これを社会に提供できれば、水道・ガス・電気などのインフラ管理や自治体への工事申請などがすべてデジタルで行えるようになりますし、建機などの施工マシンとつなげれば、どの箇所をどこまで掘っていいのか自動的に制御できるようになります。そうなれば熟練技術者やオペレーターに頼らず短期間で工事が進められるようになり、環境負荷の低減や災害時の早期復旧に寄与でき、国土強靱化にも貢献します。

    今はまだ部分最適になっていることが、日立だけでなく、様々な分野のお客様、パートナーがつながる仕組みをつくり、企業や業種の垣根、国境を越えてデータをつなげる“社会インフラas a Service”を実現していきたいと考えています。

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