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Hitachi

企業情報研究開発

2019年8月30日
株式会社日立製作所

表1 さまざまな問題に対応可能なCMOSアニーリングのラインナップ

  日立は、大規模なスケジューリング最適化やポートフォリオ最適化問題に対して、高速に実用解を探索する全結合モデル向けの最適化アルゴリズムを開発しました。本アルゴリズムをGPUで実装して、10万変数の組合せ最適化問題(全結合問題)*4を用いて検証したところ、従来アルゴリズム*5より250倍高速に近似解を求められることを確認しました。お客さまの課題に応じて、本アルゴリズムと日立がこれまで開発してきたCMOSアニーリングマシンを使い分けることで、幅広い実問題に対応できるようになります(表1)。今後、日立は、オープンな協創による新たなイノベーション創生を加速するための研究開発拠点として開設した「協創の森」*6を活用して、社内外のパートナーとともにソリューション協創を進め、複雑化する社会課題の解決に貢献していきます。

背景および取り組んだ課題

  • 都市における交通渋滞の解消などをはじめとする実社会の複雑な問題を高速に解くために、CMOSアニーリングや量子アニーリングが注目されている
  • これまで日立では、交通渋滞削減問題などを高速かつ省電力で解くことができるCMOSアニーリングマシンを開発してきたが、ポートフォリオ最適化問題のように全ての変数(例えば、銘柄)間に繋がりがある(値動きに相関がある)問題は解きにくい課題があった

開発した技術

  • 大規模な組合せ最適化問題に対して、高速に実用解を算出できる最適化アルゴリズム(Momentum Annealing : MA)を開発
     1. 任意の変数間の繋がりを持つ組合せ最適化問題に対する並列計算
     2. 繋がりを表現する行列の固有値を用いた相互作用の大きさの算出
     3. GPUを活用した並列計算による解探索の高速化

確認した効果

  • 開発したMAに対して、相互作用係数をランダムに生成した10万スピン全結合イジングモデルの解探索で効果を検証したところ、従来アルゴリズムであるシミュレーティッド・アニーリング(Simulated Annealing : SA)に比べ250倍高速化できることを確認

発表する論文、学会、イベントなど

開発した技術の詳細

1. 任意の変数間の繋がりを持つ組合せ最適化問題に対する並列計算

  日立が提案するアルゴリズムはMomentum Annealing (MA)と呼ばれるもので、QUBO*7という組合せ最適化問題を解きます。MAは大域最適解を保持しつつ、すべての変数間に繋がりを持つQUBO (図1a)を完全二部グラフ状の繋がりを持つQUBO (図1b)に変換することを特徴とします。SAを代表とするマルコフ連鎖モンテカルロ法に基づく最適解探索アルゴリズムは、変数を逐次的かつ確率的に更新することで、大域最適解またはその近似解へ達することを期待します。マルコフ連鎖モンテカルロ法の理論的背景により、繋がりを持つ変数どうしは同時に更新できません。そのため、すべての変数間に繋がりを持つ全結合問題を解く場合は、一度に一つの変数しか更新できません。しかし変数間の繋がりが完全二部グラフ状の場合、図1bの左側の変数は互いに繋がりを持たないため同時に更新することが可能で、並列計算によって計算時間を短縮できます。右側の変数に対しても同様です。このような並列計算を活用することで、解探索を高速化します。


図1 変数間の繋がりの変換

2. 繋がりを表現する行列の固有値を用いた相互作用の大きさの算出

  MAでは、図1bの赤線で示す新たな繋がりを持つモデルを用いて解を探索します。この結合の影響が過度に大きい場合、局所解にトラップされ易くなり、さまざまな状態を探索して良質な解を求めるということが困難となります。一方で、結合が小さすぎる場合、本来解きたいQUBO(図1a)と、MAで扱うQUBO (図1b)の大域最適解が異なるものとなって適切ではありません。それぞれの問題の最適解が一致しつつ、新たに設ける繋がりをなるべく小さくすることが必要です。そこで変数間の繋がりを表す行列の最大固有値を用いる不等式を導出して、赤線の繋がりの大きさを適切に設定することで良質な解探索を可能としました。

3. GPUを活用した並列計算による解探索の高速化

  これらを基に、全ての変数間に繋がりを持つQUBOの解探索を高速に実行する方法として、ディープラーニングに代表される科学技術計算で幅広く使用されているGPUを活用したプログラムを作成しました。単精度浮動小数で表現した変数間の繋がりを持つ10万変数のQUBOを扱うため、4台のNVIDIA Tesla P100*8でMAを実行して、IBM Power 8*9で実行したSAよりも、最適化アルゴリズムの一つであるSahni-Gonzales (SG)で得られた近似解と同等の解精度に到達するまでの計算時間が1/250になることを報告しました(図2)。


図2 10万スピン全結合イジングモデルの基底状態探索問題をSAに対して250倍高速化
横軸は実行時間、縦軸は組合せ最適化問題の目的関数値を表す。

*1
GPU: Graphic Processing Unitの略称。ディープラーニングをはじめ、さまざまな科学技術計算で用いられるプロセッサ。
*2
ASIC: Application Specific Integrated Circuitの略称。特定用途向けICを指す。
*3
FPGA: Field Programmable Gate Arrayの略称。製造後に設計者が構成を設定できる集積回路。
*4
ここで言及する組合せ最適化問題とは、イジングモデルの基底状態探索問題
*5
従来アルゴリズムはシミュレーティッド・アニーリング(Simulated Annealing)
*6
日立製作所ニュースリリース「お客さまやパートナーとのオープンな協創により、イノベーションの創出を加速する研究開発拠点「協創の森」を開設」 https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2019/04/0411.html
*7
QUBO: Quadratic Unconstrained Binary Optimizationの略称。組合せ最適化問題の一種。
*8
NVIDIA および Teslaは、米国および/または他国のNVIDIA Corporationの登録商標です。
*9
IBM および POWER8 は、世界の多くの国で登録された International Business Machines Corporationの商標です。

照会先

株式会社日立製作所 研究開発グループ

掲載先

このトピックスは、以下のWebサイトに掲載されました。

2019年8月30日