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Hitachi IoT Platform Magazine

新規事業戦略で必用なストーリー、インサイド・アウトの発想、ゴールの設定

― 事業開発者・リーダーのためのITトレンド理解と実践講座 ―

ITコンサルタント斎藤昌義氏が、企業の事業開発者のために贈るITの導入と活用方法のレクチャー。第六回は戦略策定において心がけるべきポイントを紹介します。


新規事業戦略で心がけること

ストーリーとして描くこと

新規事業の進め方やお客様へのアプローチ、事業展開といった戦略を「ストーリー」として描き、そこに足りない情報を補うという視点が必要です。経営企画や現場の事業に携わる人たちは、とかく分析をしたがる傾向にあります。しかし、これから新しい事業を始めようと言うときには、それとは逆に事業の全体を総合的に捉え、それを時間軸に沿ってどのように実現してゆくかのストーリーとして捉える視点を持つ必要があります。そして、そのストーリーを描くのに必要な情報を調査し、そのストーリーを手直ししつつ補強するといった態度が必要です。

そのストーリーに沿って新規事業をすすめてゆく過程では、様々な出来事が起こりますが、そこでは分析的態度を発揮して、うまくいったことや改善すべき点を冷静に捉え、ストーリーを修正してゆくことが必要です。

戦略は総合的な視点でストーリーとして描き、実践は分析的な視点で改善を積み上げることが成功のためには欠かせません。

インサイド・アウトで考えること

「世の中はこうなるだろう」という予測に基づいて戦略を決定するのではなく、「世の中をこうしたい」や「お客様をこうしたい」という自分たちの意思に基づいて戦略を決定することです。

前節の「ストーリーを描く」とき、世の中のことを分析的に捉え、世の中がこうなるからそれに合わせて、こうしようというアウトサイド・インの発想では、どうしてもユニークな発想は生まれず、明確な差別化を生みだすことはできません。むしろ、積極的に理想や夢を描き、自分たちが思い描くあるべき姿をどうすれば実現できるかといったインサイド・アウトの発想を持つことで、魅力的な新規事業を描いてみるべきでしょう。

もちろん、単なる一方的な思い込みだけであるべき姿を描くのではなく、先に述べた現場の課題を実感することから発想しなければならなりません。つまり、その課題を対処療法的に解決しようとするのではなく、その課題の根本にある事実を突き詰め、その課題を含む全体の仕事の流れや仕組みを含め、大きなストーリーとして、自分たちの目指すあるべき姿を描くことです。

「世の中はこうなるだろう」を参考にしつつも、「世の中をこうしたい」という積極的な視点を持つことこそ、魅力的な戦略を生みだすことにつながります。

何をしないかを決めること

「何をするか」ではなく「何をしないか」を決定することで、競合他社との違いを作る事が大切です。競争優位を築こうとするとき、他社と自社とで、どちらがより優れているかで違いを示すやり方と、優劣のつけられない本質的な違いを示すやり方があります。

例えば、前者は、価格や大きさなど数値的尺度で測れるもので「量的な差別化」です。後者はデザインやアプローチする市場などで差異化する「質的な差別化」です。新規事業では、後者を重視しなければなりません。それを考える時、「何をするか」ではなく、「何をしないか」を考えることが重要になります。

それは事業には常に資金や人材、スキルなどの制約がつきまとうからです。それを無視することはできません。だから、できるだけ多くのことを「何でもやろう」と考えるのではなく、ターゲットとする顧客や市場の現実的なニーズを見極め、質的な差別化を実現できることに絞り込んで、積極的に「何をやらないか」を決めることです。そうすれば、自ずと「何をやるか」が決まります。

できることは何でもやるでは資源も足りず、スピードも担保できません。まずは、本質的な差異を生みだすためにやるべきことを絞り込み、「何をやらないか」を決めて、いち早く市場へ投入することです。そして、必要に応じて徐々にやることを増やしてゆくことが大切です。

新規事業戦略で注意すること

「新規事業計画」作成を目的としないこと

「何を売りたいのですか?」

新規事業についての説明をうけて、こんな質問を投げかけたことがあります。

「皆さんに何ができるかは分かりました。でも、それをどんなビジネスに仕立てようとしているのでしょうか。」

まだそこまでは考えていないとのことでした。

「一般論としてのニーズは分かります。しかし、具体的に、だれが、どのようなシーンで、何に困り、どのようにしたいと考えているのでしょうか。その実感を持っていますか?」

リアリティのある生身の「使う人」が存在しない想像だけのビジネスがうまくいくはずのないことは、容易に想像できます。それにもかかわらず、自分たちのできることと一般論を都合良くつなげて、新しい事業を描き、あたかも大きな可能性があるかのような「つじつまの合った事業計画」を作ってしまう。そんな現場に幾度となく立ち会ってきました。なぜ、そんなことをしてしまうのでしょうか。

それは彼らの目的が、「新規事業」を作ることではなく、「新規事業計画」を作ることになっているからです。

計画には承認者が納得できる合理性が必要です。そのために、これまでの経験や既存の顧客、巷の話題など、経営者に分かる言葉や数字をつなぎ合わせ、相手に無用なストレスを与えず、すんなりと納得してくれそうな計画を作ろうとします。わかりやすいことやロジックが優先され、それにそぐわない事実は切り捨てられてしまいます。

その結果、自分たちのできることや既存顧客といった既存の事業資産に都合が良い市場を創造し、その市場でこちらに都合の良いように振る舞ってくれる顧客を創造し、その市場や顧客に都合の良いデータとその解釈を与えることで、いかにもうまくいきそうな事業計画を創造してしまいます。

そもそも新規事業とは、新たな市場や顧客の開拓なわけですから「既知」や「既存」がそのままでは使えません。それにもかかわらず、既知や既存の延長でしか考えられないとすれば、それはもはや新規事業とは呼べません。

また、「新規事業」を既存事業の計画と同じフォーマットで説明できなければ承認しないといった意志決定プロセスも新規事業開発の足かせになります。「データとしての裏付けのある事業計画がなければ承認しない」という意志決定にこだわれば、良いアイデアをもった事業プランでも評価されることはなく、実行に至らないままに潰されてしまうからです。それでも、なんとかカタチにしなければとのプレッシャーから、「新規事業を実現し成功させる」ことではなく、「新規事業計画を作成し報告すること」ことが目的となってしまい、実効性のない取り組みに終わってしまいます。

「新規事業計画」を作ることではなく、「新規事業」を作ることを目的にしなくてはなりません。そうしなければ、いつまでたっても、成功する新規事業は生まれないでしょう。

業績評価基準を適切に設定すること

これまでの業績評価基準が売上と利益であり、それをそのまま新規事業に適用しても、現場のモチベーションを得られないことがあります。例えば、既存のビジネスが物販や役務の提供などが主体のフロー型事業構造であれば、業績評価基準が売上と利益となっているはずです。しかし、継続的なサービスを提供するストック型事業構造への転換を目指そうとすると、一時的には売上と利益の減少を伴います。それを許容し、それに合わせて業績評価基準を変えなければ、現場のモチベーションを保つことはできません。

その新規事業がどれほど優れたものであったとしても、業績評価の基準が、新規事業にふさわしくなければ、現場は動かず目的を達成することはできません。

最初のうちは、あるべき論や精神論で人を納得させて動かすこともできるかもしれませんが、頑張っても自分の業績評価に結びつかないようでは、現場はやがて息切れしてしまいます。

新規事業を成功させるためには、その事業にふさわしい業績評価基準も合わせて作らなくてはなりません。それができれば、現場は動きます。その結果として、その事業の意義は理解され、事業に取り組む現場の士気も醸成されてゆきます。

根拠のない思いつきの目標設定をしないこと

「3年後に10億円の事業を実現して欲しい」

こんな根拠のない思いつきの目標が与えられ、それがプレッシャーとなって新規事業開発に取り組む人たちの士気を下げてしまうことがあります。

「3年後には10億円」というフィルターにかけられてしまえば、例えいいアイデアが浮かんでも「これは達成できない。だめだなぁ」と自ら却下してしまいます。

もちろん事業にKPIや裏付けは必要です。しかし、最初から「3年後には10億円」ではなく、まずは「半年後に100万円」といった実現可能なKPIでもいいでしょう。あるいは、「将来の会社を支える事業の柱にして欲しい」といった夢でもいいかもしれません。そうすれば、例え失敗しても次につながる何かが残るかもしれません。

こうやって、アイデアの芽を摘むことなく、トライ・アンド・エラーを繰り返させることです。そして、その事業の巡航速度が見えてきたら「来年度は1億円、3年後は5億円」といったKPIを与えてはどうでしょう。このようなやり方を先に紹介した業績評価基準に反映させることで、現場の士気を維持することです。


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PROFILE

斎藤 昌義(サイトウ マサヨシ)

PROFILE

ネットコマース株式会社 代表取締役。1982年、日本IBMに入社、一部上場の電気電子関連企業を営業として担当の後、 1995年、当社を設立。外資系企業の日本で事業開発、産学連携事業やベンチャーの企業をプロデュース、 ITベンダーの事業戦略の策定、営業組織の改革支援、人材育成やビジネス・コーチングの他、ユーザー企業の情報システムの企画・戦略の策定などに従事。ITの最新トレンドやビジネス戦略について学ぶ「ITソリューション塾」を2009年より主宰し東京/大阪/福岡で開催。 著書:「システムインテグレーション崩壊」、「【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド」、「システムインテグレーション再生の戦略」、「未来を味方にする技術」、「【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド[増強改訂版]」(すべて技術評論社)。


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