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Hitachi IoT Platform Magazine

ITを活かした新規事業の作り方:「ビジネスモデルと実現シナリオ」を描く

― 事業開発者・リーダーのためのITトレンド理解と実践講座 ―

ITコンサルタント斎藤昌義氏が事業開発者のためのIT活用を解説する、連載の第四回目は「戦略、作戦、戦術」の考え方とあるべき姿の描き方です。


実践のための3つのステップ


実践は、戦略、作戦、戦術の3つのステップですすめてゆくといいでしょう。

  • ステップ1:戦略(Strategy):
    目指すべきゴール、すなわち「あるべき姿」を明らかにし、それを実現するためのシナリオである「ビジネス・モデル」を描く取り組み。
  • ステップ2:作戦(Operation):
    この戦略を実現するためのひとつひとつのプロジェクトである「ビジネス・プロセス」を組み立てる取り組み。
  • ステップ3:戦術(Tactics):
    そのプロジェクトを遂行するための手段や道具である「使い勝手や見栄え」を作り込む取り組み。

それでは、ひとつひとつ見てゆくことにしましょう。

ステップ1:戦略(Strategy)

あるべき姿を明確にする

手段を使うことが目的ではありません。現場の課題を解決しビジネスを成功させることが目的です。そのためには、「成功したときの状態」=「あるべき姿」を具体的に描き、それを実現することに取り組まなければなりません。

「あるべき姿」とは、

  • 結果としてどうなっていたいのか
  • これができたら「成功」と言い切れる姿
  • 理想のゴール

を表現したものです。これを明確にすることが最初の一歩です。例えば、

  • この分野では業界トップの地位を確保したい
  • 顧客満足度ナンバーワンの評価で顧客を虜にしたい
  • 「一時的な売上の積み上げ」から「長期継続的な収益の積み上げ」に事業転換を図りたい

どうやって実現するかではなく、結果として「どうなっていたい」の具体化が最初です。
このとき、「とてもいまの自分たちにはできそうにない」などといった「現実」は一旦棚上げしてください。「現実」を考えはじめると、それらが足かせとなり、大胆な発想はできなくなってしまいます。「どうなっていたいのか=結果」を純粋に追求することです。「現実」にはやがて向き合うことになりますが、まずはこの段階では理想を求めることが大切です。

ビジネス・モデルと実現のシナリオを描く

次に、この「あるべき姿」を実現するためのビジネス・モデルやそこに至るシナリオを「思想としてのIT」を前提に大胆な発想で考えてゆくといいでしょう。例えば、

  • これまではコストがかかりすぎてとても考えられなかった
  • 高度な熟練が必要で人間にしかできなかった
  • 業務の連携や人のつながりが簡単には作れなかった など

かつての非常識はいまでは常識になっていることも少なくありません。「そんなことはできるはずはない」といった思い込みをしないで、テクノロジーのトレンドやデジタル・ビジネスの事例を丁寧に調べ、新しい常識で可能性を探ることです。
例えば、商品を買ってくれたお客様がどのような使い方をしているのかを知るためには、登録されている顧客情報を頼りにアンケートをお願いするか、調査会社に調査を依頼するしか方法がありませんでした。そのため、そういう調査に協力的な一部のサンプルしかデータを集めることができず、不完全なデータから推測するしかありませんでした。

しかし、センサーや通信装置が小型・高性能化して単価も劇的に安くなったこと、さらには誰もがスマートフォンを持ち歩くようになったことで、状況は一変しました。
商品に予めセンサーや通信機能を組み込んでおき、スマートフォンと連携して商品の付加価値を高めるサービスを提供します。そのサービスは使いたい、あるいは使わないと損だと思わせるような魅力的なものでなくてはなりません。そうしておけば、お客様の利用状況がリアルタイムで、しかも完全に把握することができます。

また、なんらかのオンライン・サービスを提供するに当たり、利用者ひとり一人の使い方や趣味嗜好を捉え、それに合わせてメニューを変えてサービスの魅力を高めたい、あるいは、適切なオプション・サービスを提案して収益を増やしたいとしましょう。そのためには、高度な分析機能やその結果の解釈、それに基づく推奨機能などを組み込む必要があります。それには高額なパッケージ・ソフトウエアを購入し、専門のエンジニアを雇わなくてはなりませんし、そんな仕組みを自ら開発しなければなりませんでした。これにはなかなかの覚悟が必要です。

しかし、いまではこのようなことをやってくれる人工知能サービスがクラウドから提供されています。しかも使った分だけ支払う従量課金型のサービスですから、先行投資リスクもありません。これを自社のサービスに組み込むこともできる時代になりました。
もちろんそれを使いこなすスキルは必要ですが、技術的難しさは軽減され業務のプロフェッショナルであっても、ちょっと勉強すれば使えるようなサービスも登場しています。 こんなことは、数年前までは非常識なことだったかもしれませんが、いまでは十分に実現可能となっています。

このような情報をネットや書籍で調べることもできますが、ベンチャー企業や大学などとの共同研究、優れた技術やアイデアを集めるイベントの開催やコミュニティーへの参加など、感度を高く最新の事情に触れ、知恵や知識を持つ人たちとつながっておく取り組みも効果的です。事実、IoTやFinTech、人工知能などの分野では、大企業とベンチャー企業、大学などが一緒になってコンソーシアムを立ち上げる例が増えています。

ステップ2:作戦(Operation)

次の段階として「仕組みとしてのIT」を練り上げることです。どのような手順で、どのような手続きを行い、どのようなやり方で結果を出すか。そんなビジネス・プロセスや業務手順を明確にして、それを実現するために最良の手立てを考えてゆきます。
ここでもITの可能性を追求することです。例えば、

  • スマートフォンで写真を撮れば自動的に報告書のひな形が作成され、進捗の予実についても自動的にアップデートされる
  • 機械の操作を音声の指示だけで行い、関係者への連絡や通知も音声だけで行い、必要とあればそれを文章にもしてくれる
  • データを入力すれば、そのデータの内容を分析し、自動的に最適な図表を作成してくれる

これらのことは既に実現可能です。このようなITのできることを前提に仕組みを作れば、仕事の効率や精度を飛躍的に高めることができるはずです。

ステップ3:戦術(Tactics)

次は「道具としてのIT」の使い方です。例えば、

  • どのタブレット端末はコストパフォーマンスが高いか
  • どのパッケージ・ソフトウエアが最適か
  • どの開発ツールを使えば開発の生産性を高かめられるか  など

これから行おうとしている「作戦」にふさわしい手段として最適なものはどれか、また、それを使えるようにするための手順や使いこなすためのスキルをどのように身につければいいのかをITの専門家である情報システム部門やITベンダーに提案を求めるとよいでしょう。

注意すべきは、実績や経験にこだわり新しいことを躊躇する保守的な人たちの存在です。「失敗を許さない減点文化」の企業には、このような人たちも少なくありません。しかし、これまでも度々申し上げてきたとおり、ITの進化は日々常識を塗り替えています。その前提に立ち、その時々の新しい常識で「道具としてのIT」の選択肢を模索しなければ、成果も制約されてしまいます。

「できるかもしれませんが、責任は持てません。」

十分な説明もなく、こんなことしか言えない相手とはつきあわない方が賢明です。

「こういうことには使えます。ただ、こういう制約もあります。」

テクノロジーの可能性と限界を知っている相手であれば、きっとこんな説明をしてくれるはずです。
そんな人たちの力を借りて試行錯誤での取り組みを許容する態度が、これからのビジネスを創りあげるためには必要なことなのです。

具体的にどこを狙えばいいのか?

心構えや進め方は分かりました。では、どのような点に着目し、ビジネスのアイデアを組み立ててゆけばいいのでしょうか。

市場拡大の加速度に着目する

2009年、インターネットにつながっていたモノは25億個あったとされていますが、2015年には180億個に、そして2020年には500億個に達するであろうという予測があります。IoTはそんな勢いで市場を急速に拡大しつつあります。 急速に拡大する市場への参入は技術も未成熟で変化も早く、その動きに追従し、さらには先取りして取り組むことは容易なことではありません。また、そこで使われている様々な技術が将来生き残るかどうかも市場の評価が固まっていない段階ですから、リスクがあります。一方で、市場に加速度がありますから、ちょっとしたアドバンテージが短期間で大きな差を生みだす市場でもあるのです。

新しい事業は、このような市場の加速度があるところに着目すべきです。既に確立された大きな市場は強豪がひしめいています。そのような市場で闘うことは容易なことではなく、先行企業の圧倒的な競争力で潰されるか価格競争を強いられるかのいずれかであり、ビジネスとしてのうまみはなかなか得られません。

いまは規模が小さくても加速度のある市場にいち早く参入することです。自分たちが未熟であってもお客様も競合他社も未熟です。だからこそ、ITの動向を見据えて、自分たちだけでやろうとはせず、オープンにできる人たちを巻き込むことです。そうやって一歩先んじることで市場でのイニシアティブを確保することができるのです。

「きっと誰かがやる」ことに着目する

建設工事自動化サービス「スマートコンストラクション」を提供しているコマツは、ブルドーザーやパワーショベルなどの建設機械を作り販売している会社でもあります。そのコマツが自社の製品を販売せずサービスとしてお客様に提供することは自分たちの本業の足を引っ張ることになるのではないかと、コマツの事業責任者に尋ねたことがあります。すると彼は次のように話してくださいました。

「いずれ同じようなことを他の会社もやり始めるでしょう。ならば、他社がはじめる前に自分たちがはじめて、いち早くノウハウを蓄積し他社に先行することが得策だと考えたのです。」

コマツはいま現在この分野では他社の追従を許さない圧倒的な競争優位を築いています。また、少子高齢化が進み建設労働者が確保できない時代を迎えつつある一方で、建設需要は拡大しており、そんな需要に対応するためにもこのような取り組みが必要だともおっしゃっていました。まさにそんな市場の課題を先取りすることで需要は拡大し、先行して実績とノウハウを積み重ねられています。
誰かがやるならまずは自分たちが一歩先んじてイニシアティブを確保することはビジネスを成功に導く基本と言えるでしょう。

汎用目的技術に着目する

歴史を振り返れば、経済発展の原動力となり社会構造の変化に、新しい技術の登場は大きな役割を果たしてきました。しかし、全ての技術が等しく同様の役割を果たしたわけではありません。「様々な分野で広く適用可能な技術」が、その役割を果たしてきました。このような技術は「汎用目的技術(GPT:General Purpose Technology)」と呼ばれています。

例えば、18世紀後半〜19世紀中期の第1次産業革命を支えた蒸気機関は、ものづくりばかりでなく鉄道や船舶にも用途が拡がり、経済や社会の仕組みを大きく変えてゆきました。また19世紀後半〜20世紀初頭における第2次産業革命を支えた内燃機関(エンジン)や電力もまた社会の隅々に行き渡り、いまでも私たちの社会や生活を支える主要な技術として広く使われています。このような技術がGPTです。
これら以外にも、1940年代に登場するコンピューター、1990年代に普及が始まるインターネットなども私たちの生活や社会に浸透し、その活動に様々な影響や変化を与えてきたGPTと考えることができます。

次に来るGPTは「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」かもしれません。AIは既に特別な存在ではなく、様々なところに使われはじめています。例えば、機械翻訳や音声による検索、ショッピング・サイトでの商品の紹介やコールセンターでのお問い合わせに最適な回答を推奨する機能など、私たちの日常には既に多くのAIが使われています。また、医療現場での診断支援や自動運転自動車の登場は、AIのさらなる可能性を実感させてくれます。
このようにAIは私たちの日常の様々な分野へ広く適用可能な技術として普及しつつあり、GPTとしての要件を満たしています。

ところで、IoTはGPTと言えるのでしょうか。これにはいろいろな考え方があるようですが、個人的には「GPT」ではないと考えています。
IoTはGPTである汎用技術やそれを改良した応用技術を組み合わせたビジネスのフレームワークです。データを収拾するセンサー技術、コンピューターや電子機器を小型化する半導体技術、集めたデータをインターネットに送り出す通信技術、そのデータを解析し規則性やルールを見つけ出す機械学習の技術などを組合せ、それらを駆使して様々な価値を生みだそうという取り組みです。

ただ、解決したいビジネス課題が異なれば、集めたいデータも変わりますから、センサーはそれに合わせたものとなるでしょう。何を知りたいかも変われますから機械学習のアルゴリズムも変わります。また、事業の内容によってアプリケーションも異なるし、機器に関わるテクノロジーも様々です。このように考えてみるとIoTは様々な技術を駆使したビジネスのフレームワークであると考えることが自然です。

だからといって、価値がないというのではなく、その実用性は高く、先に述べたように市場の成長性も大いに期待されている分野であることは間違えありません。そういう視点でIoTを捉えることには意味があることだと思います。
いずれにせよ社会や経済の変革をGPTとその応用技術が生みだすとすれば、その動向に着目することで、この先にどのような未来が拡がっているかを予測することができます。そして、そんなGPTにビジネスの軸足をのせておけば、様々なビジネス分野への応用が利くこともまた事実です。そんな視点から「商品としてのIT」の事業領域を考えてみるといいかもしれません。


PROFILE

斎藤 昌義(サイトウ マサヨシ)

PROFILE

ネットコマース株式会社 代表取締役。1982年、日本IBMに入社、一部上場の電気電子関連企業を営業として担当の後、 1995年、当社を設立。外資系企業の日本で事業開発、産学連携事業やベンチャーの企業をプロデュース、 ITベンダーの事業戦略の策定、営業組織の改革支援、人材育成やビジネス・コーチングの他、ユーザー企業の情報システムの企画・戦略の策定などに従事。ITの最新トレンドやビジネス戦略について学ぶ「ITソリューション塾」を2009年より主宰し東京/大阪/福岡で開催。 著書:「システムインテグレーション崩壊」、「【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド」、「システムインテグレーション再生の戦略」、「未来を味方にする技術」、「【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド[増強改訂版]」(すべて技術評論社)。


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