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個人間のやり取りで信頼を築く社会

近い将来、個人の活動内容を含むさまざまな情報が記録・管理・活用されるようになるといわれています。この社会では、人と人、人と組織の関係がいまとは変わることが考えられます。そこで、TRUST/2030ではこれらの関係の異なる3つの社会像を設定し、そこで生まれる新しい「信頼のかたち」を探索しました。そのひとつ"Decentralised & Transparent"と題した社会では、個人と個人による直接的なつながりによる信頼構築が重視されています。
この社会では、特定の企業に所属するのではなく、自分で仕事を見つけて働く「ギグワーカー」と呼ばれる人たちが増えていると想定しています。ギグワーカーは自らのスキルや実績をアピールしなければ仕事を請けることは難しく、仕事を頼む側も、過去の取引などを明らかにすることが求められるでしょう。
このような社会では、どのような情報がやり取りされ、どのように個人間の信頼を築いてゆくのでしょうか。

個人どうしが仕事に関する実績や評価などのデータを組み合わせて、信頼をやり取りする。

細かな実績の組み合わせで自分の信頼を築く

ギグワーカーは、ひとつの決まった仕事ではなく、スキルを活かしたさまざまな新しい仕事を生み出すことが考えられます。いまは、インターネットで請ける仕事の多くは星の数などで評価されます。しかし、仕事の内容が変わりやすいギグワーカーにとって、これは充分な仕組みとは言えなくなるかもしれません。
そこで例えば、仕事の実績を細かく記録し、それらを組み合わせることで自分のことを周囲へ伝える仕組みがあったらどうでしょう。プレゼントを用意して最高のタイミングで配達する「ギフトコンシェルジュ」という仕事をしていた人が、あるこどもの誕生日にプレゼントを配達したとします。すると、取引ログや仕事をお願いした人による評価から、「荷物を壊さず配達した」「時間通りに行動した」「子供に関わる仕事をした」など、分解された行動が記録されます。
このギグワーカーが新たに「ベビーシッター」にチャレンジしたいと思ったとき、これらの蓄積した実績を自ら組み合わせて、例えば自分が時間を守る人間で、子供に関わる仕事の経験があることを伝えられるようになるのです。

企業に代わって、ギグワーカーであることを証明するIDカードデバイスには、仕事の内容に応じて変わる自分の実績情報が表示されます。クライアントが信頼するのは「企業ロゴ」や「役職」ではありません。

仕事での行動は、成果だけでなく仕事へ取り組む態度まで細かく分解され、記録されます。この仕事に関する自分の実績は、仕事を請け負う信頼を築くために自分が活用するためのデータです。

感謝に添える短い言葉が人柄や仕事の質を語る

仕事を誰かに頼むとき、仕事の質や人柄なども、その人が信頼できるか判断する情報になるはずですが、ただ記録可能な実績を残すだけでは、こうした情報はデータには残りません。インターネットを介して仕事を依頼するサービスの多くは、ワーカーの実績にクライアントからのコメントが添えられていることがあります。しかし、そのようなクライアントは稀で、判断に足るだけの情報が流通することは難しいでしょう。
そこで、例えば仕事の終わりに、クライアントからワーカーに、感謝の気持ちとともにほんの短い言葉を贈ることのできる仕組みがあれば、人柄や仕事の質の情報が流通し始めるのではないでしょうか。
「ギフトコンシェルジュ」として働いていたワーカーが、クライアントの子どもへのプレゼントのお礼として「子ども心が分かる」という言葉を贈られたとします。すると、そのワーカーは、その言葉を子ども心の理解が欠かせない「ベビーシッター」という仕事を得るための情報として活用することができるのです。

対話により情報の背景や意味を深く理解する

透明性のある情報のやり取りだけでは誤解が生じることもあるかもしれません。情報の背景や意味の少しの食い違いが、仕事を得たいギグワーカーにとっても、ギグワーカーに頼りたいクライアントにとっても、自分を信頼してもらえるかを左右することになります。
たとえば、ベビーシッターをしているとき、預かった子どもが怪我をしてしまったとしましょう。すると「子どもが怪我をした」といった実績が残ります。でももしかすると、その怪我は子どもの不注意が原因だったかもしれません。
このシステムでは、詳しい説明が必要な情報については対話することを促します。ちょっと面倒にも思えますが、やみくもに情報の透明性を高めるのではなく、当事者どうしがその情報の背景や意味を共有できる仕組みが、誤解のない信頼関係を築きます。怪我をした子どもが自分の不注意だったと正直に話したとしたら、勇気ある行動を褒める言葉を贈ることだってできます。時にはネガティブな実績も、信頼を得るための情報に変えるのです。
このように、客観的に記録された活動の実績や評価などのデータを、個人が自分でコントロールして使いこなしていくことで、1対1の信頼を築くことができるのです。