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Hitachi


AIによるレコメンド画面。

文/今村玲子

異業種アナロジー

「NEXPERIENCE」のワークショップでは参加者全員でアイデアを発散させるプロセスがあります。お客さまやエンドユーザーがどういった課題を持ち、それを解決するためにどんな新しいソリューションやサービスが必要かを一緒に考えていくプロセスです。

さまざまな問題が複雑に絡み合う現代においては、既存の発想にとらわれないジャンプが解決のカギを握ります。しかし、同じ業界の人間が集まって頭をひねっても、想像できる範囲のアイデアしか出てこないもの。そこで「異業種アナロジー(類推)」というキーワードの下、さまざまな業界の知見を統合して、課題に立ち向かうことで、ブレークスルーできないかと考えたのです。これには日立という多岐にわたる業種をカバーするコングロマリット(複合企業)としての強みを生かせるのではと考えました。

キーワードを幅広く捉える

開発したのは、異業種の成功事例を参考にしてアイデア発想を支援するワークショップとツールです。これまでも識者を集めて知見を共有することはありましたが、ワークショップで毎回その機会を設けるのは困難です。そこでAIを活用し、日立グループ全体で過去5年の1,000件を超える事例のデータベースから参考例をレコメンドさせることにしました。一見つながりの薄そうな異業種の取り組みを見ることで、業界の常識から離れて発想のジャンプを促そうというわけです。

例えば、新しいIoT家電サービスのアイデアを考える場合。3年後を想定し、家電の枠を取り払って別の業界と組みながら何かできないかというアイデアを探索した事例です。ワークショップでは、参加者が発話したアイデアを、AIがリアルタイムに音声認識し、過去の事例や関連する事象から、アイデアのヒントとなりそうな事例をレコメンドします。例えば、「日々の生活の中で趣味の時間をとれない」という課題に対してAIがレコメンドしたのは、「ストレスを減らして職場を活性化する」という働き方改革の事例です。従業員のストレスを可視化するという内容ですが、AIは「家事ストレス」に置き換えて提案したのです。これに触発された参加者たちは「IoT家電で家事ストレスを視覚化し、家族で分担する」というソリューションを考案ししました。

なぜ、AIが意表を突くような内容をレコメンドできるのか。それはキーワードの検索方法にあります。こちらが欲しいと思うキーワードそのものではなく、関連しそうなものを幅広く拾うようにしているのです。例えば、「駅のホームでベビーカーを押すのは大変だ。」と音声入力すると、AIは、「駅」であれば英語の「ステーション」に加え、「停留所」「インターチェンジ」にまで拡張して検索をかけます。業種ごとに用語が異なるため、異業種間の類義語辞典をつくるようなイメージです。ヘルスケア業界で「安心」といえば、金融業界では「保険」といった具合です。

AIが、人間が想像できる範囲を超えて、意味の全く違う言葉を出してくことによって、人間の発想も飛躍できるのです。

AIも参加者のひとりに

AIのレコメンド結果が表示される画面はかなりシンプルです。まずタイトルがパッと目に入り、内容もキーワードを追えば感覚的にざっくりとつかむことができます。ワークショップにはさまざまな立場の人が参加します。研究者、デザイナー、事業を担う人それぞれに刺さるポイントが異なるため、ストーリー、技術、サービスパターンという3つの視点で情報を整理し、一目でわかるようにしました。

さらにAIツールの開発に加えて、ワークショップもセットで設計しました。一連の流れの中で、どこで参加者に動機付けするのか、ツールを使うシーンでは何を話すかまで、精緻なシナリオがあってこそ、ワークショップの成果につながります。これまでのように「ワイワイガヤガヤ」と熱気あるワークショップとは違い、卓上にマイクを設置し、AIの人工音声も聞こえてきます。子どものAIが一生懸命提案してくれているというように、AIが一緒に参加している雰囲気のもとで、ワークショップは盛り上がっていきます。

これらによって、業種横断型のアイデアの創出が約2倍に増えました。アイデアを出す楽しさはもちろんのこと、他の業界での考え方も知ることができます。今後、日立では、このツールを使ったワークショップの実践を続けることで、NEXPERIENCEならではの特徴あるプロセスとして確立していきたいと考えています。

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