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インフルエンザ流行予報サービスの画面。

文/今村玲子

天気予報のように予測できたら

例えば、夫婦共働きで3人の子どもがいるとします。免疫が未発達な子どもはインフルエンザや手足口病などの感染症にかかりやすい。朝起きて突然発熱した子どもを看病しながら、「天気予報のように感染症の流行を予測できたら、事前に備えられるのに」と考えた。こんなアイデアから、「インフルエンザ流行予報サービス」は生まれました。

コロナ禍以前は、毎年約1,000万人が罹患し、6,600億円もの経済損失をもたらしていたインフルエンザ。国立感染症研究所や自治体などが流行情報を発信していますが、提供されているのは数日前の過去のデータです。それに対して、日立が考案したサービスが提供するのは予報、すなわち「4週間先にどこでどのくらい流行するか」です。

では、どのようにして未来を予測するのか? まず全国のインフルエンザ患者数の最新情報をメインに、複数の情報を集めます。メインで使用するのは、日本医師会ORCA管理機構が提供するORCAサーベイランスのデータ。全国4,000カ所以上の協力医療機関からの統計データを集約して公開されています。これらをAIに学習させて患者の発生パターンを割り出し、それをもとに将来を予測させるのです。

予報と同じくらい大事なのは予防です。インフルエンザ流行予報サービスでは、日本ヘルスケア協会の賛同を得て、予防に関するアドバイス情報も配信しています。4週間先までわかると、さまざまな対策が可能です。第一に予防接種。体内に免疫ができるまでに2週間程度かかるといわれていますが、予報を見てすぐに予防接種の予約をしても、流行のピークに間に合います。

また、このサービスを活用するのは生活者だけではありません。ドラッグストアなどの小売店は、ピークに備えてマスクや消毒液を多めに仕入れておくことができ、医療機関でも受け入れ体制を事前に整えることが可能です。予報期間が長ければ、インフルエンザの予防だけではなく、社会の生産性向上にも効果があると、日立では考えています。

さいたま市での実証実験

2019年12月から2020年3月にかけて、さいたま市で同サービスの実証実験を行いました。同市をはじめ、民間企業や団体からも実証実験の告知に関して協力を得ることができ、この活動を広義にCSR活動として捉えていただくことができました。

実証実験ではウェブ、SNS、サイネージなどで住民に向けて情報を配信。ウェブ上のメイン画面では、埼玉県全域の地図が現在の流行レベルによって色分けされています。流行の度合いをわかりやすくするため、前年との比較を指標に4段階(レベル0から3)に分けました。予報を見たい場合には、そのエリアを選択すると4週間先までの流行レベルが「マスク顔」のアイコンとともに表示されます。「小学生でもパッと見てわかる」よう、シンプルで明るいデザインが特徴です。

実験後に行ったアンケート調査では、ユーザーのうち約80%の方から「予報を見て、より積極的に予防行動を取った」、約70%の方から「予報サービスを今後も継続してほしい」という回答をいただきました。サービスによって人々の行動変容を促す効果があること、そして実際に便利だと感じていただいていることが確認できと考えています。

現在、日立情報社会サービスがインフルエンザ流行予報サービスのコンセプトを引き継ぎ、2020年10月から自治体向けに「感染症予報サービス」の提供を開始しています。また、民間企業向けには、在庫の調整やEコマースにおける商品レコメンドなどにも活用可能な予報サービスを開発中です。

今後の可能性としては、予報できる感染症の種類を増やすこと。インフルエンザ以外にも、子どもやお年寄り、家族を苦しめる感染症はほかにもたくさんあります。これからも「感染症にかからない世の中」というビジョンを掲げ、さまざまなステークホルダーの皆さんと、社会にとって有用なサービスを突き詰めていきます。

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