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企業情報研究開発

  • デザイナープロフィール画像:中江 達哉

    中江 達哉

    社会イノベーション協創センタ
    社会課題協創研究部
    リーダ主任研究員


救急需要予測システムの画面。予測結果に基づいて最適な隊の配置を図る。

文/今村玲子

出動件数の増加

昨今、119番通報による救急隊の出動件数が急速に増えています。総務省消防庁によると、年間約660万件(平成30年)で、20年前に比べて80%もの増加。原因として、独り暮らしのお年寄りや、夏季に熱中症にかかる人が多くなっていることが考えられます。このままでは10年後にはピークに達し、救急隊の現場到着が大幅に遅れることになる可能性があります。特に患者が心肺停止の場合は一刻を争うため、到着の遅れによって、救命率が低下するおそれもあります。

国内の消防機関では、現場の到着時間を短縮するために様々な対策を講じてきました。統計データや職員の経験値をもとに「今日は出動が多くなりそうだ」という場合には、非番の救急隊を増員し、時間帯によって隊を移動させて待機させることもあります。しかし人間の経験や勘には限界があります。件数が増えると、署の管轄をまたぐ大きなエリアに対象を広げて、機動的な配置を検討したほうが良いとも考えられるのです。

このように、短時間でより確実な意思決定が求められるなか、日立はある消防機関から「AIを活用した救急需要予測の可能性」についてご相談を受けました。

独自技術で予測結果の根拠を示す

日立では従来から119番通報の指令システムを消防機関に納めており、保守・運用も担ってきました。

新開発のAIによる救急需要予測システムでは、対象エリアを1キロ四方のメッシュに区切り、各メッシュにおける「通報件数」「現場到着時間」のふたつを予測します。予測するために、消防機関から提供される隊の配置情報をはじめ、人口の分布や気象情報、病院情報など20〜30のデータを活用。これらの膨大なデータをAIに学習させ、傾向を覚えさます。そのうえで、気温や降水量、曜日や時間帯などの条件を与え、そのメッシュ内でどのくらい出動件数が発生するかを予測させます。さらに、このシステムでは、最適な隊の配置や、途中で隊の配置を入れ替えた場合に現場到着時間がどう変化するかも予測可能です。

このシステムのポイントは、予測結果と併せてその根拠を示すことにあります。なぜなら、AIの精度が高くても、その理由がわからないために不安を感じ、使っていただけないということがありうるからです。そこで日立独自の技術で、AIがどのデータをどの程度重視したかを表示することにしました。例えば、ある駅の周辺では出動件数が少なく、近くに救急隊も配置されているにもかかわらず、「現場到着時間が長くなる」という予測結果が出たとします。このとき、「病院が遠いため、一度隊が出動すると拘束時間が長くなる」という根拠がわかれば、納得でき、確信をもって配置替えなどの指示ができるのです。

このシステムは、一部地域ですでに運用が始まっています。AIが、100平方キロメートルほどのエリアで、最も到着時間が短くなる隊の配置をレコメンドし、その結果をもとに日々の判断がなされています。

従来、このようなAIによる救急需要予測については、現場で運用している例はほとんどなく、日立が最も早く取り組んできました。今後は、システムの精度をさらに高めながら、消防だけではなく、病院など、その他組織のシステムとも連携し、全体の最適化を図っていくことをめざしています。

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