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デジタルプラットフォームでは、プロジェクトの経済的効果と環境的効果、社会的効果の3つの指標を可視化。

文/今村玲子

市場拡大を阻む課題

金融業界において、温室効果ガスの削減など環境問題の解決を促進する環境投資が注目を集めています。2000年代後半から世界経済フォーラムで環境(E)、社会(S)、企業統治(G)に配慮した投資の重要性が説かれ、その流れを生むきっかけとなったといわれています。先進的なEUを中心に市場は大きく成長し、特に環境関連に資金用途を限定した債券「グリーンボンド(環境債)」の発行額はうなぎ上りの状況。2020年は前年比35%増の3,500億ドルに達すると見込まれています(英国クライメートボンド・イニシアチブより)。有数の大企業がグリーンボンド発行体となり、環境に配慮したプロジェクトの資金調達を行っているのです。今や、経営計画に環境投資を組み込むことがトレンドになっていると言っても過言ではありません。

一方、グリーンボンドの発行体や投資家にとって煩雑かつ不透明なプロセスが、さらなる普及のハードルになっているという見方もあります。そのプロセスとはレポーティング。発行体は、毎年、二酸化炭素の排出削減量や環境改善効果などのインパクトレポートを提出しなければならないのです。プロジェクトのモニタリングや外部評価を含む、このレポートに関する業務が大きな負担となっています。多くの場合、定量的に効果を測るのではなく、見積もりベースとなるため、投資側にとっては比較検討が難しく、金融商品としての不透明性も普及を阻む要因になっています。


再生可能エネルギーの発電状況をモニタリング。

プロセスを安全かつ自動化

そこで日立が着目したのがIoTとブロックチェーン。これらのデジタル技術をグリーンボンドと結びつけることで、レポーティングの負担を軽減し、透明性も高められると考えました。

例えば、グリーンボンドの発行体が再生可能エネルギーの発電装置にIoTの監視センサーを取り付け、そこから取得した生データをブロックチェーン上に記録。その生データをKPI(重要業績指標)に変換し、どのくらい定量的な効果があったかを自動的に算出してインパクトレポートまで作成します。一連のプロセスに人の手が介在しないため、データの改ざんがなく、高い信頼性を保てるのです。

2019年には、英国にある太陽光発電設備を使って、プロトタイプの技術検証を実施。発行体や投資家など関係者向けフロントエンドのUIでは、複数のプロジェクトを容易に管理し、インパクトレポートを自動作成するようにしました。ポイントは、プロジェクトの経済的効果、環境的効果、社会的効果、3つの指標を可視化したこと。効果を定量的に検証でき、投資家にとっても判断の材料になります。

このプラットフォームでは、レポーティング機能に加え、環境配慮型のプロジェクトのために資金を必要としている組織と、透明性の高いプロジェクトに出資したい組織をマッチングする機能も検討しています。

日立としては、このプラットフォームを足がかりに、発行体がどのような投資プロジェクトを実施するのかという段階から協創し、IoTを組み込んだ設備の設計や導入までを担っていきたいと考えています。

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