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Hitachi


利用する電力のCO2をオフセットできるモバイル機器向けACアダプターのプロトタイプ

文/今村玲子

iF DESIGN AWARD 2022受賞

個人が脱炭素に動く時代

二酸化炭素を含む温室効果ガスによる環境破壊は深刻さを増しています。国や企業の努力に頼るだけでは二酸化炭素の排出を抑えることは難しく、個人消費者の意識改革が急務です。こうしたなか、日立では個人と再生可能エネルギーをつなげる新しいユビキタスグリーンエネルギーを構想しています。

現在、個人の消費者が、太陽光や風力などの再生可能エネルギーに関わる手段は限られています。自宅で再生可能エネルギーを使おうとすると、まずそれを供給する電力事業者を調べ、契約の変更手続きをする必要があります。そうではなく「もっと小さな電気から気軽に始められないか」と日立が着目したのが、コンセントに差し込むACアダプターです。携帯電話やモバイルパソコンと一緒に持ち歩くこの小さな機器で、いつでもどこでも再生可能エネルギーを使えるようにできないか。スーパーで売られている“生産者の顔が見える野菜”のイメージで、同じ電気代を払うなら、再生可能エネルギーを普及させようと頑張っている事業者から買いたいという消費者もいるはずだと考えたのです。

サービスとしては、既存の電力会社との契約はそのままで、家で使った電気代も普通に支払います。そのうち専用のACアダプターを通して使った電力については、再生可能エネルギー由来のカーボンオフセットすなわち「環境価値」が紐付けられ、その対価が再エネ発電事業者に還元されるというものです。

J-クレジット制度を活用

日本では、二酸化炭素など温室効果ガスの削減に取り組む事業を促進するため、国が認証・発行する「J-クレジット」を売買できる制度があります。例えば、風力発電事業者がJ-クレジット創出者となり、二酸化炭素を削減した分だけJ-クレジットを売ることができます。一方、大企業などは自社努力では削減できない分を、J-クレジットを買えば、カーボンオフセットしたことになり、環境貢献企業としてのPR効果や企業評価の向上を期待できます。

つまり、J-クレジットの情報を専用のACアダプターに紐付けることで、これを通じて使った電力はカーボンオフセットされたものとされ、その分のJ-クレジット購入代金が再エネ発電事業者に行くのです。専用のACアダプターを使えば使うほど、脱炭素に貢献する事業者を応援できるという仕組みです。現状、個人がJ-クレジットを活用できる仕組みはありませんが、専用のACアダプターを介在させることによって、個人と再エネ発電事業者を仮想的につなげることができるのです。


モバイル機器で常に再生可能エネルギーの使用状況や貢献度をモニタリング。

環境価値と経済価値

このACアダプターのユーザーを認証できれば、自宅以外のコンビニやレストランなどでも使うことができます。また家電に組み込めば、その製品の販売先でも消費した電力についてカーボンオフセットできる可能性があります。コロナ禍でリモートワークが進むなか、従業員の働く場所がオフィスから自宅に移っても、このACアダプターを導入することで、企業として脱炭素に貢献できるでしょう。

現在、日立では、こうしたアイデアに興味を持つ企業と共同研究契約を結び、実現に向けて検討しているところです。個人に向けて環境価値を可視化し、簡単に取引できるサービスには大きな可能性があります。電気が当たり前に使える状況で、環境価値と同時に経済性や実利的なメリットをどのように打ち出していくか。地球温暖化を食い止める正念場ともいえる今、このプロジェクトを人々の意識を変えるきっかけにしたいと日立は考えています。

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