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英国王室による初の鉄道旅行から175年を記念した式典にて、エリザベス女王と日立の車両「AT300」(Class800)。

文/今村玲子

鉄道事業100年

日立が鉄道事業に取り組んで100年が経ちます。1921年に山口県に笠戸工場(現笠戸事業所)を設立し、蒸気機関車、電車、路面電車、新幹線、モノレールなどの車両に加え、制御装置、信号システム、保守・メンテナンスまで、鉄道という日本の重要な輸送インフラを支えてきました。こうした国内の取り組みとともに、90年代後半から英国をはじめとするグローバル市場にも目を向けてきました。

英国は鉄道発祥の地ですが、日本のように鉄道会社が線路と車両を所有して自らオペレーション(運行)まで行うわけではありません。国が線路や駅舎などのインフラを所有し、それを使用して路線の鉄道オペレーションを担う運行会社を入札で選びます。そして、運行会社は車両メーカーなどから車両を購入、あるいはリースをして走らせるのです。英国の運行会社にとって特に重要なのは、いかに線路を摩耗させず、壊れず、走り切れる車両であるかという点です。

そのなかでデザインに求められるのは、利用者の快適性や利便性とともに、欧州や英国の鉄道規格を満たすこと、日立が自社でメンテナンスを行うこと、そして車両メーカーとして日立のブランドを表現するということでした。

「鉄道の日立」としての信頼

1998年に英国への進出を決めてからいくつもの失敗や経験を経て、2005年に初めてロンドンとケント州を結ぶ「Class395」を受注。2009年6月に先行営業運転を開始し、その後も安定した運行で「鉄道の日立」としての信頼を獲得しました。

その後はじまったIEP(Intercity Express Programme、都市間高速鉄道計画)は、ロンドンと英国北部および西部を結ぶ2路線に866両の車両納入と27年半の保守契約という桁違いのプロジェクトです。日立はClass395での実績を活かして入札に参加、車両の製造工場を新設するという踏み込んだ現地化の提案を行い、2012年にこれを受注しました。Class800は2017年10月に営業運転を開始。これは英国で20年をかけて確立した日立ブランドの上に実現したプロジェクトだといえます。


イースト・コースト本線を走る車両「アズマ」。東海岸を走ることから名付けられた。

規格を“超える”デザイン

Class800は、当時の英国における最速の高速鉄道らしいシンボリックなイメージをアピールしたデザインが評価されましたが、デザインにとって最大の壁は欧州規格と顧客要求でした。契約では、法律として守るべき「スタンダード」と、運行会社の要求である「リクワイアメント」をどちらも満たす必要があります。例えば、運転士の視界の範囲、ヘッドライトの光る面積、ワイパーで雨滴を拭き取る範囲などが細かく定められ、弁護士がデザイン会議に立ち会い、それを守っているかどうかチェックしながら進んでいきます。

エクステリアデザインのハイライトは、車両の“顔”となる先頭車両。欧州規格を満たしながら、日立ブランドとしてのアイデンティティも表現するために、規格などを徹底的に分析し、衝突安全性と空力性能を両立させる「4本のカーブと1本の直線」というコンセプトを打ち出しました。その特徴は、車両の先頭から胴体にかけて、一筆書きの流れるような曲線とシャープな直線によって構成した、なめらかな外観フォルムです。

インテリアについては、規格に基づく大量の項目をクリアする必要がありました。運転台は原寸の木製モックアップを準備し、視界の確保、各種スイッチやモニター類の操作性や配置について人間工学的な観点から検討を実施。客室もスタンダードクラスとファーストクラス、さらにユニバーサルトイレも含めて1両の半分の原寸モックアップをつくり、シートレイアウトや通路幅、荷物や自転車置き場など運行会社の要求を取り入れながらデザインしていきました。

標準でありながら、テーラーメイド

Class800の運用が始まって約3年。866両すべての納品が完了し、現在はClass800をベースとした標準車両AT300の拡販を進めている段階です。通勤の足として定着しただけでなく、利用者からは「カッコ良くてアメニティも素晴らしい最高の車両」と評価も高く、「アズマ」と日本名の愛称がついた車両が走る路線もあります。

2023年には、英国で走る日立製車両は約2,000両に上る予定。日立の良さは、標準車両でありながら、お客さまの要求に全力で応える技術と経験、知恵があることだと考えています。日本にはさまざまな新幹線が走っているように、鉄道会社ごとの個性を求めるお客さまの要求に寄り添う設計とデザインを長年続けてきました。日立はこれをグローバル市場でも強みにし、利用者のQuality of Lifeまでを見据えた鉄道事業を展開していきます。

AT300の外観とファーストクラスのインテリア、運転席。

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