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Hitachi

リチウムイオン電池の寿命を非破壊で延長できる容量回復技術を開発

電池内部で充放電に寄与できないリチウムイオンの状態を診断し、電気化学処理により再活性化することで蓄電容量を回復

2021年10月29日
株式会社日立製作所

図1 リチウムイオン電池の電気化学処理による容量回復技術

図1 リチウムイオン電池の電気化学処理による容量回復技術
(a) 電池内部の診断とリチウムイオン(Li+)の再活性化、(b) 蓄電容量の回復による寿命延長

日立は、電力系統の再生可能エネルギー主電源化と、モビリティの電動化促進に向け、蓄電システムに搭載されるリチウムイオン電池(以下、LIB)の寿命を非破壊で延長できる容量回復技術を開発しました。LIBは充放電を長期間繰り返すと蓄電容量が減少し、蓄電システムとして十分な機能を維持できなくなった場合は交換が必要となります。本技術は、LIB内で失活*1して充放電に寄与しないリチウムイオン(Li+)の状態を非破壊で定量的に診断し、新規な解析プログラムにより求めた条件で電気化学処理を施すことで失活したリチウムイオンを再活性化させるものです。標準的な材料を用いたLIBセル*2において、初期の80%まで低下した蓄電容量を5%回復することにより、寿命を20%延長可能なことを確認しました*3。また、本処理を施してもLIBを構成する部材の劣化は認められませんでした。日立は本技術を、送配電事業者や電動モビリティのオペレータ等に広く利用いただくことで、高効率かつ持続可能な蓄電システムの普及を促し、脱炭素社会の実現に貢献します。
本成果の一部は、2021年11月5日に英国グラスゴーで開催されるHitachi European Innovation Forumにおいて発表する予定です。

LIBは、再生可能エネルギー利用時の定置用蓄電システムや電気自動車の動力源として今後需要の増加が見込まれますが、電池に使用されるレアメタルは産出量や流通量が限られ、今後受給が逼迫する可能性があります。また、LIBの製造および廃棄には多量のエネルギーが必要となります。そのため、持続可能な資源循環社会の実現に向けて、使用中の性能劣化の抑制と寿命の延長により、LIBを多用途にリユースしながら効率よく使用する取り組みが求められます。今回、日立は、LIBの寿命延長に向け、電池内部の劣化状態を非破壊で定量的に診断し、その蓄電容量を回復する基礎技術を開発しました(図1)。本技術の特徴は、以下のとおりです。

開発した技術の詳細

1. LIB劣化状態の非破壊・定量診断技術

LIBの蓄電容量が低下する要因は、(A)正極劣化、(B)負極劣化、(C)電解質中のリチウムイオンの失活に大別されます(図2(a))。日立はこの中で、失活したリチウムイオンに外部から電気化学処理を施し再活性化することで蓄電容量を回復する技術に着目しました。すなわち、LIBの負極内に留まり充放電に寄与しないリチウムイオンを引き出すため、通常使用する電池電圧の下限値を超える範囲まで放電し負極の電位*4を一時的に高めます。その際、LIBの部材劣化や発火等が起こらない安全な通電量を決定するため、LIB内部の劣化状態を非破壊で定量的に診断する技術を開発しました。具体的には、LIBの蓄電容量と電圧の関係を表すグラフ(以下、容量―電圧曲線)において、電池の劣化とともに曲線長が収縮することに着目しました。予め測定された正極および負極の容量―電圧曲線のデータベースと、劣化した電池の容量―電圧曲線を比較することにより、上記で説明した3種類の要因別の容量低下量を算出します。その中で、(C)の電解質中で失活したリチウムイオンの量は、正極と負極の容量―電圧曲線の位置のずれから算出し(図2(b))、この値と独自の解析プログラムを用い、リチウムイオンを安全に再活性化するために許容される通電量を算出しました。

図2 リチウムイオン電池内部の劣化状態の非破壊・定量診断技術

図2 リチウムイオン電池内部の劣化状態の非破壊・定量診断技術
(a) 蓄電容量が低下する要因、(b) 各劣化要因および蓄電容量回復による蓄電容量-電圧曲線の変化

2. パルス電流制御による蓄電容量回復技術

上記技術により算出された通電量であっても、連続して通電すると電極の外部端子の近傍に電流が集中し、その部分の材料が劣化することが分かりました。そこで、これまで日立に蓄積されたLIB制御技術の知見に基づき、通電を数秒以下のパルス電流*5に分割し、各パルス電流の合間でリチウムイオンを活性化する反応を緩和させる方法が材料の劣化抑止に有効であることを見出しました。パルス電流制御の様々な条件を最適化した結果、標準的な材料を用いたLIBセルにおいて、充放電の繰り返しにより初期の80%まで低下した蓄電容量を、パルス電流制御された電気化学処理により5%回復し、その寿命を20%延長できることを確認しました。さらに、寿命が延長されたLIBを解体し、構成する部材の構造や化学組成を分析した結果、電気化学処理を施しても構成部材の劣化がないことを確認しました*6

今後は、LIBを用いた蓄電システムの長寿命化を求めるお客さまと連携し、様々な条件で使用された蓄電システムに対し本技術の効果を検証し、お客さまのシステム運用期間伸長、運用コスト削減、稼働率向上、資源使用量・廃棄エネルギー消費の削減をめざします。

*1
失活: リチウムイオンがリチウム化合物に変化したり、負極内で拘束されて充放電に寄与しなくなること。
*2
セル: 電池の最小構成単位。大型の蓄電システムでは多数のセルを組み合わせて使用する。本研究では、負極に黒鉛、正極にリチウム-ニッケル-コバルト-マンガン酸化物を用いたセルを使用した。
*3
寿命: 蓄電システムの容量要件を満たさなくなるまでLIBの容量が低下すること。本研究では、残容量が初期容量の80%に低下するまでの期間と定義した。50℃で1Cの充放電レートによる充電率0 – 100%の充放電サイクル試験において、電池の診断・容量回復処理を施すことで、蓄電容量が初期の80%に到達するまでのサイクル数が20%伸長することを確認した。1Cの充放電レートとは、電池容量を1時間で完全に充電あるいは放電する電流値のこと。
*4
電位: 粒子や物体が帯びている電気の量(電荷)に係る位置エネルギー。
*5
パルス電流: 短時間に瞬間的に流れる電流のこと。
*6
X線回折分析・ラマン分光分析により、容量回復処理前後で正極および負極材料の結晶構造に劣化が見られないこと、および誘導結合プラズマ発光分析により容量回復後の電解液中に電極由来の金属イオンの溶出が見られないことを確認した。

電池のライフサイクル管理に関する動画

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照会先

株式会社日立製作所 研究開発グループ