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「飲食店の安全性の見える化」を実現する「デジタルトラスト」の仕組みづくり

[ English / Japanese ]

COVID-19の感染拡大は、あらゆる産業に経済的ダメージを与えています。

特に深刻な状況に陥っているのが、飲食業界です。飲食店のリサーチサービスを行う「飲食店リサーチ」によれば、およそ8割のお店が売上減に直面しているという調査結果を発表しています。

出典:飲食店.COM(株式会社シンクロ・フード)調べ。調査「テイクアウト・デリバリーの対応状況について」(調査期間:2020年4月3日〜2020年4月6日)

飲食店を危機から救うには、どのような取り組みが必要なのか。今回は日立製作所と飲食店のテナント管理などを手掛けるイーヒルズ株式会社(以下、イーヒルズ)との取り組みについてご紹介します。

第1章:Withコロナで飲食店が直面する課題

まず、飲食店がなぜ危機に陥っているか、その要因を探ってみましょう。

COVID-19の感染拡大を受けて、政府は「3密の回避」を国民に呼びかけています。また緊急事態宣言の発出などの影響で、飲食店は時短営業を余儀なくされているケースもあります。これらの要因が客足を鈍らせ、売り上げの減少を招いているのは事実でしょう。

一方で、飲食店を利用したいというお客さまのニーズもあります。実名型グルメサービスを展開するRetty株式会社(以下、Retty)の調査によれば、飲食店を「これまでと同じように利用したい」と回答した割合は半数近くに及びます。

Q. 緊急事態宣言「解除後」、どれくらいの頻度で外食を利用したいですか?

Q. 緊急事態宣言「解除後」、どれくらいの頻度で外食を利用したいですか?

出典:Rettyによるアンケート「緊急事態宣言解除後の外食意向(アンケート期間:2020年5月29日〜6月3日)」から一部抜粋

本当はこれまでどおり飲食店を利用したい。しかし、COVID-19のリスクを考えると、利用したくても利用できない。これが飲食ビジネスを取り巻く現状と考えられます。

実際、Rettyのアンケート調査によれば、飲食店舗に対してCOVID-19の感染拡大リスクを低減させる対策を求める声も寄せられています。手指やテーブル、入り口の消毒を求める人は90%を超え、店員の健康管理、密にならないよう座席の間隔をあける、定期的な換気を求める人も70%以上になります。

Q. 飲食店にどのような対策を求めますか(複数回答可)

Q. 飲食店にどのような対策を求めますか(複数回答可)

出典:Rettyによるアンケート「緊急事態宣言解除後の外食意向(アンケート期間:2020年5月29日〜6月3日)」から一部抜粋

もし、飲食店がCOVID-19の感染リスクが低く、安全な場所だと証明できたら…。売り上げの減少も現在のような水準にならないと考えることもできます。

このような状況を踏まえて、多くの飲食店がCOVID-19の感染拡大防止対策を講じています。例えば3密を回避するため、座席数を減らしたり、動線の改善を図っています。また、従来より換気を徹底し、手洗いだけでなく消毒や店員の体温測定など国や自治体のガイドラインに基づいた対策に取り組んでいます。

飲食店は安全である。このことを伝えるために、各店舗ではさまざまな対策をしてそれを店頭で示すことで、安心して来店してもらえるよう努めています。

しかし、対策をしていることをお客さまに確実に伝えるには、さらなる工夫の余地がありそうです。
例えば、手洗いやマスクの着用など「目に見える安全対策」はお客さまにも伝わりやすい部分かと思います。

ところが、感染拡大のリスクを低減させると言われている、換気などの店舗環境に関する「目に見えない安全対策」の情報は、お客さまに伝えることが難しい部分です。
サーキュレーターなどを置いて換気を実施していても、実際に店舗内の換気が十分なのか、空気が滞留している座席はないかなど、具体的な数値をもって証明できている店舗はなかなかないのが現状ではないでしょうか。

対策を講じているにもかかわらず、飲食店が安心・安全であることを理解してもらうのが難しい。これが飲食店が直面する大きな課題といえそうです。

第2章:日立製作所が構築する「飲食店の信頼性評価システム」

それでは、飲食店の安全性を示すためにどのような仕組みを構築すればよいのでしょうか。

日立製作所ではイーヒルズと共同で、飲食店の安全性を見える化して情報発信するシステム「おみせのトラスト」の実証を進めています。この取り組みは、内閣府が主導する国家プロジェクトSIP第2期「IoT社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティ」の一環で実施され、サプライチェーンの信頼性の確保が可能か検証しています。

現在の飲食店であれば「サービスを提供するさまざまな工程(サプライチェーン)」の1つにCOVID-19の感染拡大防止策も含まれます。これが適切に行われているか、エビデンスを持って証明できるようにするのが目的です。そして、飲食店の信頼向上を通じて、コロナ禍の外食産業の一助になることを期待し、その成果が社会にとって有効かどうか検証します。

「おみせのトラスト」では、テーブルの間隔や換気状況などの「3密回避状況」や検温実施、消毒実施に関する「衛生対策状況」などを飲食店ごとにまとめ、検索サイト、飲食店情報サイト、飲食店のホームページを通じてアクセスできるようにしています。また、将来的には各サイトのビューに統合できるようAPIの提供も検討しています。

「おみせのトラスト」の情報は飲食店の方が実施状況を入力し、発信できるのも特徴です。情報発信を通じてお客さまの信頼向上を実現し、来店者増加につながるかもしれません。

「おみせのトラスト」の仕組み

「おみせのトラスト」の仕組み

「おみせのトラスト」の信頼性を高めるため、情報の取り扱いについてはさまざまな方針を立てています。

例えば、飲食店の利用者に向けては掲載情報の二次利用や外部から個別コンテンツへのリンク生成は許可する一方で、誤解が生じる表現の利用などは禁止とします。また、情報を登録する飲食店に対しては、真実性・適法性について責任をもって入力することを求め、入力したデータや情報を第三者へ提供可能にするため、著作権を「おみせのトラスト」に譲渡することに合意していただきます。

「おみせのトラスト」のWebイメージ

「おみせのトラスト」のWebイメージ01

このように適正なルールを設けて、「おみせのトラスト」の信頼向上にも取り組んでいます。

第3章:「IoT」を活用した安全性の客観的評価をめざす

「おみせのトラスト」は、人が入力したデータだけでなく、IoTなどを用いたセンサリングのデータも公開して効果の検証を進めています。日立製作所ではイーヒルズとともに、店舗内におけるIoTの活用について実証を開始し、IoTデバイスを用いた客観的なデータを収集・公開しています。

「おみせのトラスト」のWebイメージ

「おみせのトラスト」のWebイメージ02

飲食店のお客さまが求める感染拡大防止対策の1つに「換気」があることはお伝えしました。このニーズに呼応するように、飲食店も換気に関するデータを求めています。

店舗の換気がなされているかどうか、それを測定する方法の1つがIoTの活用です。空気の流量を測定できるデバイスを店舗内部に複数設置して、そのセンサリング情報をインターネットを通じて集約し、換気が十分になされているか評価します。

このようにIoTを用いた客観的なデータが得られれば、飲食店の安全性に対する信頼が増すことが期待されます。

また、IoTは二酸化炭素濃度の測定や騒音の計測にも活用ができる可能性があります。二酸化炭素濃度によって換気がなされているか判断できる可能性があると指摘する研究もあり、流量と合わせて評価を行えば、店舗の換気についてより正確な評価が可能になるかもしれません。

騒音については、騒音レベルが大きいと自然と声が大きくなり、会話によって飛沫が多く飛んでいる可能性があります。IoTで騒音の大小を計測して見える化することで、お客さまからの信頼が高まり、将来的に来店していただける可能性が高まるかもしれません。

飲食店の危機をデジタルトラストによって救う取り組みは、まだ始まったばかりです。今後は、小規模な飲食店までデータを収集して、「おみせのトラスト」の価値を高める取り組みを進めてまいります。

また、データが多すぎるがゆえに、逆にお客さまが飲食店の信頼性を判断できない可能性もあります。実際にどのようなデータを公開すれば飲食店とそのお客さまにとって有益なサービスになるかの検討も必要です。

飲食店に関わる人々にとって最適なサービスになるよう、これからも「おみせのトラスト」のアップデートに取り組んでまいります。

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本技術開発の一部は、内閣府が進める戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)
IoT 社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティ」(管理法人:NEDO)によって実施されています。
NEDO:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構

この記事は、2021年3月3日に掲載しています。