改正物流効率化法施行を受け、荷主企業に求められる実務対応とその背景を解説します。経済産業省、荷主、物流事業者、ITベンダーが登壇し、現場課題やデータ活用、持続可能な物流実現に向けた取り組みを紹介します。
2024年に施行された改正物流効率化法により、荷主企業には「物流統括管理者」Chief Logistics Officer(CLO)の設置や、中長期的な物流効率化計画の策定など、これまで以上に主体的な物流改革が求められるようになりました。背景には、トラックドライバー不足の深刻化や、荷待ち・荷役等時間の長時間化などの構造的な課題があります。本セッションでは、制度を所管する経済産業省、荷主企業、物流事業者、ITベンダーが一堂に会し、法改正の考え方や現場で直面する実務課題、データとテクノロジーを活用した改善の方向性について、多角的な視点から議論が交わされました。
改正物流効率化法がめざしているのは、個別最適の積み重ねではなく、サプライチェーン全体をふかんした「全体最適」の実現です。これまでの物流現場では、各社・各部門がそれぞれの立場で効率化を進めてきました。しかし、ドライバー不足や長時間労働などの課題が顕在化する中で、現場任せの改善だけでは限界があることが明らかになっています。
そこで重要となるのが、荷主企業を含めた関係者全体での構造改革です。特に荷主企業には、CLOの設置や中長期計画の策定を通じて、自社の物流を経営課題として捉え直す姿勢が求められています。物流を単なるコストではなく、企業価値や競争力を左右する戦略領域と位置付けることが、法改正の大きなポイントです。
こうした背景をふまえ、本セッションには、制度を所管する経済産業省をはじめ、荷主企業としてウエルシア薬局株式会社(以下、ウエルシア薬局)、物流事業者としてロジスティード株式会社(以下、ロジスティード)、そしてITベンダーとして株式会社日立製作所(以下、日立製作所)が登壇しました。物流統合型のサプライチェーンマネジメントや、物流効率化、SCM改革の方向性を検討するうえで重要となる論点を共有し、それぞれの立場から意見が交わされました。制度の基本的な考え方に加え、現場で顕在化している実務上の課題や、データとテクノロジーの活用による改善の可能性についても、幅広く意見交換が行われた点が本セッションの特徴です。
改正物流効率化法では、一定規模以上の荷主が「特定荷主」として指定され、物流に関する定期報告や中長期計画の策定が義務付けられています。なかでも多くの企業が難しさを感じているのが、荷待ち時間や荷役等時間の把握です。
定期報告では、努力義務の実施状況に加え、自社が利用する倉庫や事業所における荷待ち・荷役等時間を計測し、その実態を報告することが求められています。
経済産業省の佐藤氏は、制度設計の考え方として、すべての拠点や期間について網羅的な計測を求めているわけではなく、貨物取扱量の多い拠点など、影響の大きいところを中心にサンプリングし、実態を把握することが重要だと説明しました。
制度は現場を縛るためのものではなく、まずは現状を可視化し、改善につなげるための第一歩として位置付けられていることがうかがえます。
荷主企業の立場から登壇したウエルシア薬局の石黒氏は、制度対応を進める中で浮き彫りになった実務上の課題に言及しました。バース管理システムの導入によりセンター内の荷受け状況が可視化された一方で、指定時間通りに車両が到着しないケースや、早着や遅着といった運用面の難しさが依然として残っているといいます。
制度上の要請と、現場で起きている実態との間にあるギャップは、多くの荷主が共通して抱える課題といえます。このギャップを埋めるためには、単なるシステム導入にとどまらず、データを活用した運用改善が欠かせません。
物流事業者の立場からは、ロジスティードが取り組む全社的なデータ活用の事例が紹介されました。同社では、荷待ち時間や荷役等時間を把握するため、バース管理システムを導入しています。ただし、数百に及ぶすべての拠点に同一の仕組みを導入することは現実的ではなく、取扱量の少ない拠点では紙による管理が続いているのが実情です。
そこで、紙で管理されているデータについてもAIやOCRを活用してデジタル化し、バース管理システムのデータと統合したダッシュボードを構築しました。これにより、拠点ごとの特徴や課題を横断的に把握できるようになっています。
ロジスティードの櫻田氏は、これまで感覚的に捉えられがちだった荷受け状況についても、データを共有することで、荷主と物流事業者が同じ数値をもとに改善策を検討できるようになるとの見解を示しました。データを「共通言語」として活用できるようになった点は、今回の法改正がもたらした大きな意義といえるでしょう。
OCR:Optical Character Recognition
改正物流効率化法では、すべての荷主事業者に対し、積載効率の向上等、荷待ち時間の短縮、荷役等時間の短縮という3つの努力義務が課されています。特に積載効率の向上や荷待ち時間の短縮は、物流現場だけで完結するものではなく、発注リードタイムの設定や納品条件の見直しなど、サプライチェーン全体での対応が求められます。
判断基準の例としては、実態に即したリードタイムの確保や、荷主間の連携、バース管理システムを活用した納品日時の分散などが挙げられています。制度対応の第一歩として、まずはデータを計測・共有し、その結果を全社的な改善につなげていく姿勢が重要です。
ウエルシア薬局では、複数のWMSを統合管理するLMSを導入し、センター全体の物量や動きを可視化しています。その結果、在庫型センターで発生していた課題の要因が、入荷コントロールにあることが明確になりました。
石黒氏は、LMSを導入し、入庫から出庫までのデータを整理した結果、全体をふかんしながら調整できるようになったと振り返ります。
WMS:Warehouse Management System LMS:Logistics Management System
日立製作所の佐藤氏は、LMSを「物流の頭脳」と位置付け、需要予測やASN(事前出荷情報)と連携することで、入荷・出荷の平準化やバース滞留時間のアラート管理など、先回りした対応が可能になると説明しました。データに基づく制御により、荷主・物流事業者・取引先が一体となった持続可能な物流改革をめざしています。
従来の物流現場では、発注情報のみで荷受けや出荷対応を行うケースが多く、入荷内容や輸送状況を事前に把握できない非効率性が課題でした。本取り組みでは、店舗側が保有する需要予測データを物流側と早期に共有し、発注確定前でも一定の確度をもつ情報をもとに出荷準備を進める仕組みを構築します。
需要予測のブレを前提としつつ、下限値を活用することで過剰出荷のリスクを抑制し、リードタイムを実質的に延ばすことなく作業効率を高められます。櫻田氏も、需要予測データを早期に共有することで、物流事業者側の準備作業や人員計画の最適化につながるとの認識を示しました。
3つの努力義務の中でも、特にドライバーの拘束時間削減に直結するのが荷役等時間の短縮です。荷待ちや荷役は「運んでいない時間」であり、物流の生産性を大きく左右します。
判断基準としては、パレットやバーコード・タグの導入、物量に応じた荷さばき場の確保、作業員やフォークリフトの適切な配置などが示されています。
さらに、受付管理の自動化やロボット活用による省力化も進んでいます。日立では、限られたスペースにも設置可能な共同型ロボットを活用し、パレタイズやコンベア投入作業の自動化を推進しています。これらの取り組みの目的は、ドライバーが本来の業務である「運ぶこと」に専念できる環境づくりです。
ロジスティードでも、既存センターへの導入を前提としたロボット活用を重視し、歩行削減を目的としたピッキング支援AMRの導入に注力しています。今後、自動運転の進展も見据える中で、荷役分離や商習慣の見直しを含めた改革が重要になるといえます。
改正物流効率化法への対応は、短期的には業務負担の増加と受け止められる場面もあります。しかし本セッションを通じて、法対応をきっかけにデータを整備し、サプライチェーン全体を見直すことで、競争力強化につなげる可能性が明らかになりました。
国、荷主、物流事業者、ITベンダーが同じ方向を向き、データを共有しながら改善を進めていく。その中心に立ち、全体最適を導くCLOの役割は、今後ますます重要性を増していくでしょう。
