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コラム・インタビュー

CLOはサプライチェーン全体最適をどう実現するか? 日立製作所・松井氏が語る「生販物一気通貫」とROIC向上の勘所

生販物 : 生産・販売・物流

2025年4月、改正物流総合効率化法(通称:物効法)が施行され、物流は新たな時代を迎えました。特に、一定規模以上の荷主企業には「物流統括管理者(CLO)」の選任が義務付けられ、物流はもはや現場のオペレーション課題ではなく、企業価値を左右する「経営マター」として再定義されたのです。
多くの経営層や事業責任者が、「法改正にどう対応すべきか」「目前に迫る“2024年問題”をどう乗り越えるか」といった喫緊の課題に頭を悩ませていることでしょう。しかし、これらの変化を単なる「コスト増・規制強化」という守りの視点で捉えるだけでは、本質的な解決には至りません。
重要なのは、この変革期を、サプライチェーン全体の非効率を解消し、新たな企業価値を創造する「攻めの経営改革」の絶好の機会と捉えることです。
本記事では、オンラインセミナー『物流維新2026』における株式会社日立製作所の松井邦彦氏(チーフプロジェクトマネージャ)による講演「改正物流効率化法へのアプローチ」の内容を基に、法対応の先にある「サプライチェーン全体の最適化」と「企業価値向上」を実現するための具体的なアプローチを、専門ライターの視点で再構成し、詳説します。

株式会社日立製作所 トータルシームレスソリューション統括本部 TSSコンサルティング本部 松井 邦彦

【第1章】なぜ今、SCM改革がROIC向上に直結するのか?

松井氏はまず、荷主企業が直面する4つの外部環境の変化を提示しました。

  1. 労働力不足の深刻化: 少子高齢化によるドライバー不足と、時間外労働の上限規制(2024年問題)。
  2. 法令改正への対応: CLOの選任と、KPI(荷待ち・荷役時間、積載率)を盛り込んだ中長期計画の策定・定期報告の義務化。
  3. 物流コストの高騰: 燃料費や人件費の上昇。
  4. 環境配慮: GHG排出量削減(SCOPE3)への対応。

これらの課題は、もはや物流部門単体で解決できるものではありません。だからこそ、法改正で求められるCLOには、従来の「物流部長」とは全く異なる役割が期待されています。それは、CEO直下の役員として、経営戦略と連動しながらサプライチェーン全体に責任を負う変革のリーダーとしての役割です。

SCM:Supply Chain Management    GHG:Greenhouse Gas

そして、この変革が直接的に貢献するのが、株主や投資家が重視する経営指標「投下資本利益率(ROIC)」の向上です。
ROICは、「税引後営業利益 ÷ 投下資本(有利子負債+株主資本)」で算出されます。サプライチェーン改革は、この計算式の分子と分母の両方にアプローチできる、極めて強力な経営手段なのです。

  • 分子(利益)の改善: 物流業務の効率化は、輸送費や保管費といったコスト削減に直結し、利益を押し上げます。
  • 分母(投下資本)の圧縮: SCM改革の真骨頂は、在庫の削減にあります。適正な在庫管理は、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC) CC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を短縮させ、事業運営に必要な投下資本を圧縮します。

つまり、物流を「コスト」としてだけでなく、「投下資本」の一部である在庫を管理する視点から捉え直すこと。これこそが、資本コストを意識した経営、すなわちROIC経営への貢献の本質なのです。

ROIC解説


【第2章】個別最適の限界と、日立が描く未来像「生販物同期化」

では、サプライチェーン全体の最適化は、どのように実現すれば良いのでしょうか。松井氏は、多くの企業が陥りがちな「個別最適の罠」を指摘します。

現状の壁(As-Isモデル):

  • 生産部門: 生産効率を優先し、大ロットでの生産を計画する。
  • 販売部門: 機会損失を恐れ、多めに在庫を確保しようとする。
  • 物流部門: コスト削減を求められ、非効率な輸送(低積載率、長距離輸送)を強いられる。

このように各部門がそれぞれのKPIだけを追求した結果、サプライチェーン全体としては過剰在庫、欠品、機会損失、物流コスト増大といったさまざま問題が引き起こされているのです。
これに対し、日立が提唱するのが「生販物同期化」という未来の姿(To-Beモデル)です。これは、生産・販売・物流の各機能をサイバー空間(デジタル)上で一気通貫に連携させ、全体最適化を図るアプローチです。
この中核をなすのが「デジタルツイン」技術です。 フィジカル空間(現実世界)のサプライヤー、工場、倉庫、輸送網、お客さまといった各拠点から得られるリアルタイムのデータ(在庫量、稼働状況、位置情報など)を、サイバー空間上に寸分違わず再現。この仮想モデル上で、AIが、複雑に絡み合う膨大な制約条件(生産能力、輸送リードタイム、拠点ごとの在庫基準、コストなど)をすべて考慮しながら、「サプライチェーン全体の総コストが最小になる計画」を自動で立案します。
これにより、これまで熟練者の経験と勘に頼らざるを得なかった高度な意思決定を、データドリブンかつ迅速に行うことが可能になるのです。

デジタルツイン構想図


【第3章】先進事例に学ぶ、AIとデジタルが可能にするSCM変革のリアル

日立は、この「生販物同期化」のビジョンを、具体的なソリューションとしてすでに顧客企業へ提供し、成果を上げています。講演で紹介された3つの先進事例を見ていきましょう。

事例1:AIによる「自動配車計画」で車両台数を平準化(製造業A社)

  • 課題: これまで熟練担当者の経験則で配車計画を行っていたが、日々の物量変動に対応できず、輸送コストの増大と属人化が問題だった。
  • 施策: まず「受注締切時間の大幅な前倒し」という業務プロセスの見直しを実施。これにより得られた時間的余裕を活用し、日立のAIソリューションが、物量予測に基づき出荷の前倒しや波動を考慮した最適な配車計画を自動立案するようにした。
  • 効果: 車両台数の日々のバラつきが劇的に減少し、輸送コストを平準化。ドライバーや車両を安定的に確保できるようになり、熟練者依存からの脱却も実現した。

事例2:飲料メーカーにおける「製造ロット計画の最適化」

  • 課題: 全国に複数の工場と倉庫を持つ中で、どの工場で・どの製品を・どれだけのロットで製造すれば、総コスト(輸送費+保管費+製造の段取り替え費)が最小になるか、という複雑な問題に直面していた。
  • 施策: 各拠点の在庫基準や物流制約などを条件としてインプットし、日立のAIがコスト最小となる生産拠点・生産ロットの組み合わせを自動立案した。
  • 効果: これまで人間では困難だった、様々なトレードオフを考慮した全体最適計画の策定が可能に。在庫の適正化と物流コストの双方を削減した。

事例3:多様なマテハン設備をシームレスに連携させる制御技術で、倉庫内作業の効率化や設備稼働率向上を実現

  • 課題: 倉庫内作業の生産性を向上させるにあたり、複数のメーカーのマテハン機器を使いたいが、制御の構築が難しい。
    また、ピッキング作業者の歩行距離の長さがボトルネックになっている。
  • 施策と効果:
    1. ユニバーサルWCS: 日立が開発したこの統合制御技術により、異なるメーカーの無人搬送車(AGV) やロボットアームなどのマテハン設備を一つのプラットフォーム上で連携させ、柔軟で拡張性の高い自動化を実現。
    2. LogiRiSM(GTP×OTP): オーダーされた商品を作業者のもとまで移動させることで歩行レスピッキングを実現する「Goods to Person (GTP)」に加え、出荷箱をAGVで自走させ、オーダーごとにまとめて荷合わせ作業を削減する「Orders to Person (OTP)」に対応した最適化エンジンにより、設備稼働率・人時生産性を向上。
2.LogiRiSM解説 (23分15秒あたり)


【結論】変革に着手するために。CLOと経営者が今すぐ始めるべきこと

本セミナーで松井氏が繰り返し強調したのは、法改正や2024年問題は、受動的に対応すべき障害ではなく、自社のサプライチェーンを根本から見直し、経営価値を高めるための絶好の「トリガー」であるという点です。
その鍵は、これまで部門ごとに分断されていた「生産・販売・物流」の情報をデジタルでつなぎ、「生販物一気通貫」で全体を俯瞰すること。そして、コスト削減だけでなく、在庫削減によるROIC向上という経営視点で改革をドライブすることにあります。
日立は、この変革の道のりにおいて、単なるソリューションプロバイダーにとどまりません。AIやデジタルツインといった先進技術(IT)と、長年の製造業で培った現場の知見(OT)を融合させる「HMAX Industry」というコンセプトのもと、顧客企業が持つ固有の強みや課題(ドメインナレッジ)を深く理解し、共に未来を描き、実現までを伴走するパートナーです。
今回の法改正を機に、サプライチェーン改革に着手したいとお考えの経営者、そしてその重責を担うCLOの皆さまは、まず自社の現状を可視化し、あるべき姿を描くことから始めてみてはいかがでしょうか。
日立では、本講演で紹介されたソリューションの詳細や、実際の機器が稼働する様子を体感できる協創拠点「Automation Square HANEDA / KYOTO」を用意しています。貴社の課題解決のヒントがありますので、ご覧ください。



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