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Hitachi

PROJECT STORY 05

デザインリサーチで熟練者の暗黙知抽出、
鉄道インフラシステムのAI化への挑戦

M / デザイナー
入社年 2019年

OUTLINE

日立入社前はエンジニアとして主にソフトウェアの品質管理、ユーザビリティやUXなどの向上に携わっていたMさん。「より上流の工程に携わって、お客様のニーズや実態に即したシステム開発に貢献したい」という思いから日立製作所に転職したという。入社後は一貫してデザインリサーチャーとして、お客様へのインタビューや業務観察によって業務の実態や課題を見える化・言語化する役割を担っている。数あるプロジェクトの中でも、チャレンジングな要素の多いJR東日本のATOS(東京圏輸送管理システム)に関するAIエージェントの開発について語ってもらった。

PROBLEM

鉄道運行にトラブルが生じた際、現行マニュアル等だけでは解決が難しい場合があり、より迅速に障害復旧ができ、かつ経験値に依存しない新たな仕組みが必要だった。

SOLUTION

デザインリサーチのスキルを活用しながら熟練者のノウハウを引き出し、AIエージェントに追加学習させることで、回答精度を一定程度向上させた結果、迅速かつ適切な判断が見込める仕組みづくりに寄与した。

立ちはだかった壁

インタビュー調査そのものは順調に進んだのですが、今回のプロジェクトの場合、抽出した情報を生成AIが学習しやすいようにデータ加工する必要があり、これに苦労しました。当然のことながら、人間にとって理解しやすいことと、AIにとって理解しやすいことはまったく違います。そのため、日立グループのデータサイエンティストや生成AI開発エンジニアと議論を重ね、事例ごとに指令員とAIエージェントとのやりとりを想定したQ&A形式にまとめ直したり、熟練エンジニアの判断プロセスをフローチャート化したりと、データ加工の方法について試行錯誤と実証を繰り返しました。

プロジェクトのはじまり

私は多種あるデザインの業務の中でも、デザインリサーチと呼ばれる業務を担っています。この仕事のゴールは、お客様の課題解決に向け、その業務に携わる担当者やその分野のスペシャリストへの詳細なインタビューや業務観察を通して、現場の実態やこれまで言語化されていなかった本質的な課題やニーズを抽出することです。それを基にデザイナーと連携して、新たなシステム、仕組みやサービスを創造していきます。近年、多くの業種で人手不足が深刻化しており、高齢熟練者の職人技をいかに後進に引き継ぐかが社会課題になっていますが、暗黙知となっているそうした技術やノウハウのナレッジ化にもデザインリサーチは有効です。

ここ数年、私がデザインリサーチャーとして携わっているJR東日本と日立によるATOS(東京圏輸送管理システム)のAIエージェント開発プロジェクトは、その中でもチャレンジングなものです。ATOSは首都圏の列車の安全・正確な運行のための鉄道運行管理システムで、JR東日本の東京圏在来線(山手線・中央線・常磐線など)を対象とし、管理している列車数は1日あたり数千本規模、駅数は200駅に及ぶ世界でも類を見ない規模と精度を誇るシステムです。このATOSにトラブルが起きた場合、指令員は監視画面のアラートや現場の情報などから原因を特定し、早急に復旧しなければなりません。そのためのマニュアルや障害対応履歴などすでに存在していたのですが、それだけでは解決が難しい場合があり、復旧に時間を要するケースも発生していました。そのような状況を解決するべく、指令員による障害対応を支援するAIエージェントを開発することになったのです。私のミッションは、このAIエージェントの開発に向けて、ATOSの開発拠点である日立 大みか事業所の熟練エンジニアにインタビュー調査を実施し、トラブル発生時に現場での実際にどのような対応を行ったかを具体的に聞き出し、そこからノウハウを抽出することでした。

具体的には、過去に起こった障害事例の中から、発生頻度や複雑さなどを加味しながらいくつかのケースを選定し、実際の対応について関連資料や実機を参照しながら、「どの情報を確認し、どのような判断をしているのか」「誰とどのようなやり取りをするのか」などを具体的にインタビュー。丁寧な対話を通じて、ドキュメントには書かれていない、熟練エンジニアならではの経験知や判断ロジックを抽出していきました。

日立だからできたこと

日立グループのデータサイエンティストや生成AI開発エンジニア、日立 大みか事業所の熟練エンジニアなど、多くのスペシャリストの協力を得ることができ、あらためて日立にはシステム開発や運用・保守におけるナレッジが大量にあることを実感しました。そして、このこれまで長い歴史の中で培ってきたナレッジやリソースこそが暗黙知を備えたAIエージェント提供の大きな原動力になると確信しています。

これからの展望

熟練者の高齢化が進み、多くの現場で担い手不足が深刻化している今、社会インフラを支える制御システムの安定稼働をどのように維持していくかは今回のATOSだけでなく、OT(制御・運用技術)分野全体にとって喫緊の課題になっています。熟練者が持つ隠れたノウハウや暗黙知を抽出し、生成AIを介してシステム運用に生かすことは、その有効な解決策となるはずです。
私は今回のプロジェクトを通して、鉄道以外の分野、例えば電力、製造、金融などの分野においても、ナレッジ化に貢献するAIエージェントを開発できる可能性があると感じています。今後、様々な業種での実績を積み重ねながら、スピード感をもってお客様の課題解決に貢献していきたいと考えています。

※掲載内容は取材当時のものです