日立が考えるフィジカルAI活用による未来のロジスティクス
EC拡大による小口・高頻度化、約34%のドライバー不足が見込まれる2030年問題(2030-logistics-problem)、CLO(Chief Logistics Officer)設置義務化など、物流業界は「運べなくなるリスク」と「装置産業化」が同時進行する大きな変化のなかにあります。AGVや自動倉庫といった「自動化」設備の導入は進んできましたが、物量の波動や工程間のアンバランスなど、現場のゆらぎに対応しきれない場面が増えています。
その先に求められているのが、AIが状況に応じて自ら判断し、現場やサプライチェーン全体を動かし続ける「自律化」です。本記事では、フィジカルAI/Agentic AIによってこの自律化を実現する考え方と、日立のソリューション群を、Hitachi Physical AI Dayで発表された内容をもとに解説します。
フィジカルAIとは
現実世界を認識・理解し、自律的に判断して実際に行動する能力を備えたAI。
安全性については、これまで通りWCSや設備側の仕組み(ガードレールの設置など)により確保されます。
1. 物流における「自律化」とは
物流における「自律化」とは、
「あらかじめ決められたルールどおりに設備を動かすのではなく、現場やサプライチェーン全体の状況・データに応じて、AIが自ら判断・適応しながら全体を動かし続ける運用」をさします。
AGVや自動倉庫といった「自動化」設備が普及してきた一方で、物量の波動、工程間の業務量アンバランス、トラック遅延や緊急出荷などの突発事象に、人手で対応しきれない現場が増えており、その先に求められるのが「自律化」です。
ECの拡大による小口・高頻度化、2030年に約34%と予測されるドライバー不足、CLO(Chief Logistics Officer)設置義務化やトラックGメンといった法規制強化――。
こうした「運べなくなるリスク」と「物流の装置産業化」が同時進行するなか、点ではなく全体を動かす自律化が求められるようになっています。
自律化は、物流のさまざまなシーンで価値を発揮します。
主要なシーンと役割を整理すると、以下のようになります。
| シーン | 目的 | なぜ自律化が必要か? |
|---|---|---|
| サプライチェーン計画 | 生産・在庫・出荷・配送の調整をAIが自律判断する。 | 物量や業務の「波」を平準化し、設備稼働率とROI(投資対効果)を高めるため。 |
| 物流センタ運用 | 物量変化や突発事象に応じて、レイアウト・人員・設備を動的に組み換える。 | 従来の自動化では拾えない変動を吸収し、稼働率を維持するため。 入出荷ピークの融通でROIが大きく改善する。 |
| 個別作業 | ロボットが認識精度や状況に応じて自律的に行動する。 | 多品種・不定形品にも、人手を介さず作業を継続するため。 認識の確信度に応じて自律的に行動し、作業継続性を高められる。 |
2. 「自動化」と「自律化」の違い
自律化と混同されやすいのが「自動化」です。
いずれも省人化・効率化を目的とする取り組みですが、判断主体と変化への対応力が根本的に異なります。
| 項目 | 自動化 | 自律化 |
|---|---|---|
| 判断主体 | 人があらかじめ定めたルール・プログラム | AI(Agentic AI/フィジカルAI)が状況に応じて自ら判断 |
| 変化への対応力 | 想定外の状況には人手介入が必要 | データ・センサ情報から自ら計画を再構築 |
| 対象範囲 | 個別工程・設備単位 | サプライチェーン・センタ全体 |
3. 「自動化」が突き当たる3つの限界
これまで物流業界は「自動化」を旗印に、AGV・自動倉庫・ソーター・ロボットなど、さまざまな設備を取り込んで生産性を高めてきました。
しかし、設備を入れて終わりという従来の「自動化」アプローチには、大きく3つの構造的な限界があります。
限界1:物量の波動への耐性が低い
ピークに合わせて設備を導入すると、平時の稼働率が下がりROI(投資対効果)が見合わなくなります。
逆に平時に合わせて設計すれば、繁忙期に処理しきれず物流が詰まります。
限界2:工程間のアンバランス・非同期で稼働率が落ちる
入荷・保管・ピッキング・出荷を別々のベンダーで個別最適化すると、工程間のスループットがそろわず、結果として全体の稼働率が思うように伸びません。
限界3:固定化された動きが新たなボトルネックになる
プログラムで固定された設備の動きは、商品の多様化やオーダー形態の変化に追従しにくく、現場の柔軟性をむしろ奪ってしまうことがあります。
これらはどれも、「自動化」を点で導入したことに起因する構造的な課題です。
設備を増やすのではなく、設備と業務の動かし方そのものを変える――そこに「自律化」の必要性があります。
4. 代表的な自動化アプローチの比較
「ROIが見合わない」「波動に弱い」「人材が確保できない」といった現場の課題は、現在採用している自動化アプローチの構造的な限界から生じているのかもしれません。
改善策を検討する第一歩は、自社の方式が持つメリットと、避けられないデメリットを正しく認識することです。
ここでは、代表的な3つのアプローチを比較し、それぞれの長所と短所を分析します。
| アプローチ | 概要 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 手動運用+ 部分機器 |
人手主体で、一部にハンディターミナルやPDA(Personal Digital Assistant)、搬送機器を導入。 |
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| 単体マテハン 導入 |
AGV/自動倉庫/ソーターなどを工程単位で導入。 |
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| 統合制御による 自律化 |
上位制御層(WCS/Agentic AI)で異種設備を協調させ、計画と現場をつなぐ。 |
|
|
- 手動運用+部分機器: 柔軟性と引き換えに、人材依存という構造的なリスクを抱えています。
- 単体マテハン導入: 個別最適は実現しますが、「点」の自動化にとどまり、全体ROIの伸びは早期に頭打ちになります。
- 統合制御による自律化: 投資対効果と柔軟性を両立できる一方、現場と経営が一体となった準備が不可欠です。
この比較から分かるように、各アプローチに一長一短があります。
いきなり最上位の自律化を狙うのではなく、まず手元の自動化資産を全体最適の文脈で整理することが、自律化への効果的な第一歩となります。
5. 自律化に向けた現場の準備
「いつかは自律化したい、でも何から始めれば?」と感じる方に向け、現場で取り組める準備のステップを4つに整理します。
個別の施策にとどめず、将来的に倉庫全体・サプライチェーン全体を一つのシステムとして動かすことを見据えて取り組むのが大切です。
① データの一元化とKPIの可視化
運行実績・入出庫実績・在庫実績など、散在する物流データを一元化し、コスト・稼働率・荷待ち時間といった主要KPIを可視化します。
これは、AIに判断を任せるための最初の前提条件になります。
② マルチベンダー前提の設備選定
新規設備を導入する際は、上位制御から統合できるマルチベンダー対応のWCSを前提に選定します。
後から異種設備を加えても全体最適を保ちやすくなり、特定メーカーへの依存も避けられます。
③ 工程間データ連携の確認
入荷・保管・ピッキング・出荷の各工程で、設備や人の状態がリアルタイムに上位制御へ届く仕組みになっているかを点検します。
こうした工程間データ連携が、GTP・OTP搬送の同期や、動的なオーダー投下にもつながります。
OTPとは
Order To Person。出荷箱(オーダー)を載せたAGVが必要な作業ステーションを回流し、出荷オーダー単位で人手を介さずに搬送する方式。商品を作業者のもとに運ぶGTPと対になる考え方です。
④ ボトルネック工程の絞り込み
全工程を一気に自律化する必要はありません。
物量変動が大きい、人材確保が特に厳しいといった工程を1〜2つ特定し、そこから動的なリソース配分や個別ロボットの自律化を試すのが現実的です。
6. Adaptive Orchestrated Automationの考え方
「投資して自動倉庫を入れたのに、なぜか倉庫全体のROIが上がらない…」
これは、自動化で失敗する典型的なケースです。
原因は、特定の工程だけを改善しようとする「点の自動化」にあります。
前後の工程・前後の事業プロセスとのつながりを無視した自動化が、現場に以下のような課題をもたらします。
「ボトルネック」が移動するだけの状態
特定工程の能力を上げても、隣の工程に新たなボトルネックが発生します。
例えば自動倉庫の出庫能力を高めても、ピッキング・荷合わせ・トラックバースが追従しなければ、
全体スループットは伸びません。
設備稼働率と波動の不一致
工程ごとにピーク対応で組まれた設備は、平時には稼働率が大きく落ち込みます。
従来の自動化のままでは、設備ROIと現場柔軟性の双方が崩れていきます。
このような課題を生まないためには、以下のような対策を取ることが必要です。
- 各工程の能力差・状態をリアルタイムに把握し、上位から協調制御する
- ピーク・平時の双方で稼働率が最大化するよう、アセット配分を動的に組み換える
- 戦略層(計画)と実行層(現場)をデータでつなぎ、波動が起きる前に手を打つ
つまり、真の生産性向上を実現するには、個々の自動化(部分最適)ではなく、戦略から現場までを一気通貫で連動させる
「自律化(Adaptive Orchestrated Automation)」のアプローチが有効なのです。
日立はこのコンセプトを、Adaptive(適応)×Orchestrated(協調)×Automation(自律化)の3要素の重ね合わせとして整理しています。
7. 日立のフィジカルAI/Agentic AIソリューション
これまで論じてきた「点の自動化」の限界、波動・ベンダー分断による構造的課題。
これらを根本から解決するソリューションとして、
日立が提供するフィジカルAI/Agentic AIソリューション群をご紹介します。
これらは、単に倉庫の動きを制御するだけのシステムではありません。
サプライチェーンを横断した戦略立案から、現場の進捗状況をリアルタイムに把握し、計画を動的に「再計算」する高度な制御までを含みます。
つまり、「サプライチェーン計画」「倉庫制御」「個別ロボット」を一気通貫でデータでつなぎ、全体を最適に制御する統合ソリューションです。
戦略層 × 実行層:HDSL/IEAとLogiRiSMで波動を吸収する二階層協調
戦略層では、HDSL/IEA(Hitachi Digital Solution for Logistics / Insight and Execution Agents (HDLS/IEA))が、サプライチェーン横断の物流戦略をAgentic AIで自律判断し、
物量・業務の「波」を平準化します。
具体的には、物流データプラットフォームによるKPI可視化、施策シミュレーターによる効果検証、
グラフRAGに基づくAIエージェントが「KPI⇒原因⇒施策」を自律的に判断します。
実行層では、LogiRiSM*が、AGV・ソーター・ロボット・自動倉庫・コンベヤなど異種・マルチベンダーの設備を階層型に連携させ、
GTP(必要な商品が入ったケースや棚を作業者のもとに運ぶ)/OTP(出荷箱を載せたAGVが必要なステーションを回流する)搬送をリアルタイムに同期させます。
これにより、作業者と設備の待機時間が抑えられ、現場の動的最適化が実現します。
*「LogiRiSM」およびそのロゴは、株式会社日立製作所の日本における登録商標です。
個・群・全体:3階層のフィジカルAIで「考える物流センタ」へ
実行層を支えるフィジカルAIは、個体・群・全体の3階層で構成されます。
個の知能は、移動式協働ロボットの「ずらし動作」によるケース境目の再認識や、遠隔オペレーターへの自律支援要求など、現場のばらつきに対応する力を提供します。
群の知能は、前述のLogiRiSMやユニバーサルWCSが担い、異種設備を一元的に管制してGTP×OTPを同期させます。
全体の知能は、開発中のコンフィギュアラブル自動倉庫が担当し、トラック到着予定や時間帯別オーダー傾向に応じて、
入荷・出荷バースやマテハン設備の割り当てを動的に組み換えます。
「異種フリート混在制御」と「動的アセット配分制御」により、稼働率とROIを大きく改善できます。
8. 未来の競争力に向けて
貴社の倉庫・サプライチェーンは今、どの段階にあるでしょうか。
地道な手作業の改善で、まだ伸びしろがある段階でしょうか。
それとも、機械を入れてはみたものの、「ピークと平時のROIが両立しない」「ベンダー分断で稼働率が伸びない」という壁にぶつかっている段階でしょうか。
もし、現状に限界を感じているのであれば、視点を「現場(点の自動化)」から「サプライチェーン全体(自律化)」へ広げるタイミングかもしれません。
人材不足、物量や業務の波動、規制強化といった不確実性のなかで、従来の自動化だけに頼り続けることは、むしろ大きなリスクになり得ます。
日立のソリューション群は、特定メーカーに縛られない「マルチベンダー対応」を実現しています。
新たに導入する最新機器はもちろん、既に現場で稼働している他社製のAGVやソーターともシームレスに連携。
さらに、HDSL/IEAによるサプライチェーン横断の波動適正化、LogiRiSMによる現場の動的最適化、コンフィギュアラブル自動倉庫による全体運用の組み換えを段階的に組み合わせ、自律化への道筋を共に描きます。
日立は、貴社の「自律化」をコンセプトだけに留めず、現場の実運用に落とし込みます。
次のステージへ進むためのパートナーとして、ぜひ日立にご相談ください。
日立はトータルエンジニアリングで
物流センターDXを推進します
物流センターの構築は、多くの要素が複雑に絡み合うため、全体の最適化が困難です。
日立は構想から運用までのすべてのフェーズにおいてお客さまをワンストップでサポートし、
全体の最適化を支援します。
お客さまのニーズに合わせた最適な提案をしますので、
まずはお気軽にご相談ください。
- 構想・設計から運用まで一貫対応
- マルチベンダー対応
- 全体最適を実現するシステム連携
- AGV・自動仕分け機と柔軟に統合
執筆・監修
株式会社日立製作所
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