もっとも、国内製造業を取り巻く環境は厳しさを増しており、少子高齢化は加速度的に進むとともに脱炭素化に対する要求も高まる一方だ。
その意味でも各社には、さらに一歩踏み込んだ対応が求められる。これまでは「人手不足」については生産管理部門、「エネルギーの最適利用」についてはエネルギー管理部門がそれぞれ対応していた。しかし、こうした個別最適の取り組みは限界を迎えており、得られる効果も“頭打ち”となっている。生産管理部門とエネルギー管理部門のKPI(重要業績評価指標)が競合し、ときには部門ごとのKPIが優先されるため全体最適が進んでいないのだ。
人手不足とエネルギーの最適利用という2つの観点から製造業の在り方そのものを変える必要があり、社内に潜む“構造的な壁”を払拭しないことには、次世代の工場に向けた進化を促進できない。
こうした新たな課題を捉え、日立が2025年3月に発表したのが計画連携ソリューション「TSPlanner」である。
日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の正木祐樹氏
日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の正木祐樹氏はTSPlannerを次のように紹介する。
「日立が新たに開発したAIエンジンを活用することで、社内の複数部門を横断した生産計画とエネルギー調達計画の最適化を実現します。これまで多くの製造業は生産効率を向上するための計画策定に主眼をおいてきましたが、TSPlannerでは生産計画を立案する際に同時にエネルギー効率や環境負荷低減も考慮します。これにより生産計画の最適化のみならず、省エネや創エネ、CO2排出量削減にも寄与する総合的なソリューションを提供します」
さまざまな制約条件を加味して生産計画を自動立案するシステムと、エネルギー消費量の低減を支援するシステムを連携させることで、エネルギー効率を考慮した生産計画を自動的に立案するのである。
「TSPlanner」*の仕組み 提供:日立製作所
*TSPlannerは、株式会社日立製作所の登録商標です。
「TSPlanner」*の仕組み[クリックで拡大] 提供:日立製作所
*TSPlannerは、株式会社日立製作所の登録商標です。
実際にTSPlannerはどのような形で製造現場に適用するのだろうか。
「第1ステップとして過去の生産データとエネルギーデータから相関関係や因果関係を分析し、効果検証します。その結果、投資対効果が高いと判断されたなら、第2ステップとして実際の業務に即した詳細な生産計画ならびに利用エネルギーの制約条件/評価指標などヒアリングし、コアロジックを作成します。そして第3ステップとして、このコアロジックを組み込んだ計画立案システムを構築して実用化に向かいます」(正木氏)
なお、日立はTSPlannerのリリースと同時に、住友化学との協創による検証を開始している。多様な化学製品を生産する住友化学では、大規模なエネルギー管理と複雑な生産計画の立案の両立をめざした。しかし、生産計画部門とエネルギー管理部門では意思決定プロセスや使用システム、業務フローが異なっていたことから、工場全体のエネルギー効率を考慮した生産計画の立案が困難だった。加えて合成樹脂の生産計画の策定および変更に伴う調整は、熟練者が経験/ノウハウを基に手作業で行っており、業務負荷の軽減と脱属人化が急がれていた。
今回の事前検証はこの課題解決に向けた効果を実証するもので、住友化学の千葉工場(袖ケ浦地区)において実際にTSPlannerを適用することで、エネルギー消費量を一定量削減できることを確認できた。
住友化学では上述の検証結果を受けて第2ステップのコアロジック作成に乗り出すとともに、国内6工場への横展開に向けた検討を開始している。
こうした成果の発表も大きな契機となって、TSPlannerはさまざまな製造業から注目を集めるところとなり、多数の引き合いが寄せられる中、既に数社が第1ステップの効果検証に着手しているという。正木氏は「省エネの要素は各施設や設備の日々の運転だけでなく、計画の中にも潜んでいます。その意味でもまだ“伸びしろ”があるエネルギー効率化の可能性をTSPlannerから見いだし、広い製造業のお客さまに提示していきます」と意気込む。
この効果はMLCPやEMiliaのビジネスにも波及する。
MLCPを担当する滝口氏は「TSPlannerが登場したことで、人手不足への対策とエネルギーの最適利用を包括したトータルソリューションをお客さまに提供することが可能なりました。先に述べた通り、MLCPは過去8年間で60サイトへの導入実績を上げてきましたが、今後はこれを上回るペースで拡販を加速していきます」と強調する。
EMiliaを担当する竹下氏も「TSPlannerによって可能となる生産情報との連携により、必然的にEMilia自体の提供価値も飛躍的に向上します。特に製造業において生産管理とエネルギー管理は表裏一体の強い因果関係があり、お客さまが本来求めていた全体最適のソリューションを、満を持して提供することが可能となりました。EMiliaとしても決して後れを取るわけにはいきません」と述べ、TSPlannerならびにMLCPと足並みをそろえたビジネス展開にアクセルを踏み込んでいく考えだ。
TSPlanner、MLCP、EMiliaが三位一体となった展開は、フロントラインワーカーの減少を中心とした人手不足、企業のSDGs達成に向けたエネルギーの最適利用という製造業の2つの課題の解決に大いに貢献しそうだ。
転載元:MONOist
MONOist 2025年9月4日掲載記事より転載
本記事はMONOistより許諾を得て掲載しています。