国内製造業の工場を悩ませる「人手不足」と「エネルギーの最適利用」への対応は個別最適ではもはや限界を迎えつつある。両課題に対応する部門の壁を超えた全体最適こそが解決の糸口になるだろう。
国内製造業を取り巻く課題は多岐にわたるが、中でも工場などの現場で共通項となっているのが次の2つだろう。
1つは、生産年齢人口減少に伴う「人手不足」だ。経済産業省が公表した「2024年版ものづくり白書」によれば、製造業の有効求人倍率は約1.26倍。2018年に1.64倍を記録した後、コロナ禍を経てそこから低下したものの人手不足は慢性的に続いている。特に、現場に立つフロントラインワーカーの減少が著しい。全就業者に対する34歳以下の若手就業者数の割合も、2000年代に30%を切ってから現在は24.5%程度まで減少している。
もう1つは、脱炭素化に向けた「エネルギーの最適利用」である。2000年代から地球温暖化対策に向けた取り組みが進んでいるものの、一方ではAI(人工知能)技術の普及に伴い電力需要が増加しており、2050年のカーボンニュートラル達成に向けては、さらなる省エネや創エネに対する施策が求められる状況にある。企業のSDGs(持続可能な開発目標)の達成でも重要な役割を担っており、ESG(環境、社会、ガバナンス)視点でも企業価値を左右すると言っても過言ではない。
日立製作所(以下、日立)は、長年にわたる自らのモノづくりの知見やノウハウを生かした多様なソリューションを製造現場に提供することで、これら2つの課題解決にアプローチしている。
人手不足への対応で貢献しているのが「Hitachi AI Technology/計画最適化サービス(以下、MLCP)」である。「状況に応じて計画を組み替える。デジタル化したのは職人の“機転”です」という製品コンセプトを掲げ、さまざまな製造現場で計画業務に当たっている熟練者の経験やノウハウをシステム上で再現することで、最適化された計画を即座に立案することが特徴だ。
日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の滝口偉氏
日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の滝口偉氏は、MLCPを次のように説明する。
「一口に製造現場の計画といっても生産計画や要員計画など多々あり、それぞれの課題を整理した上で、実際に熟練者がどのように計画を立てているのかというノウハウの所在を明確にします。統計手法によって熟練者が独自に持つ計画パターンを抽出する『制約インタプリタ』と、さまざまな制約条件ならびに熟練者の計画パターンを考慮して最適な計画を作成する『数理最適化エンジン』の日立独自の2つのエンジンを活用し計画立案業務の最適化を支援します」
このようにMLCPは、さまざまな計画に対してそれぞれの課題を整理した上で、2つのエンジンを活用して計画を最適化できる高い汎用性を有していることから、業種や計画種別を問わず、多くの製造業で導入が進んでいる。2017年にリリースされたMLCPは、現在まで4カ国の60サイト、合計88計画に適用されている。滝口氏は「食品メーカーや化粧品メーカー、自動車部品メーカーなど、組み立て系からプロセス系まで幅広い製造業のお客さまに採用をいただいています」と語る。
一方の課題である「エネルギーの最適利用」に貢献してきたのが、統合エネルギー・設備マネジメントサービス「EMilia」だ。工場内のさまざまな施設やシステムを接続し、エネルギーと設備の最適な運用を支援するプラットフォームを提供する。
日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の竹下紀之氏
日立 インダストリアルAIビジネスユニット インダストリアル事業統括本部 ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部の竹下紀之氏はEMiliaについて次のように説明する。
「EMiliaは、製造業におけるエネルギー管理業務の効率化および最適化を実現するために開発したソリューションです。日立はエネルギーシステムの豊富な導入実績を有するとともに、自らも省エネ実施を支援するエネルギーサービス事業のESCOを手掛けてきました。これらの事業で培ってきた設備管理の高度なノウハウを最大限に生かすことで、製造現場における省エネ活動の促進、エネルギーの需要予測、発電設備や空調設備の効率的な制御などを支援する機能を提供しています」
なお、2015年にリリースされたEMiliaは既に10年以上の実績を有しており、導入実績は75サイトに上る。電力をはじめとするエネルギーに関わる施設や設備、システムを所有/運用している企業であれば、業界業種を問わず利用できる。竹下氏は「EMiliaは製造業以外のお客さまにも幅広くご採用をいただいています。病院やオフィスビル、チェーンストア、ショッピングモールの他、再開発地域といったかなり広域な街区全体のエネルギーマネジメントを支える統合プラットフォームとして導入された事例もあります」と述べる。