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Hitachi

日立、イトーキ、トクヤマ、太陽光パネル板ガラスをそのままオフィス家具へ、アップサイクル実証

低温熱分解法と非破壊評価で板ガラスを粉砕せずに建材・家具部材へ再利用、CO₂排出量最大50%削減を見込む

株式会社日立製作所
株式会社イトーキ
株式会社トクヤマ

[画像]太陽光パネルから回収した板ガラスを再利用した会議ブースの試作品(外装)
太陽光パネルから回収した板ガラスを再利用した会議ブースの試作品(外装)

  株式会社日立製作所(以下、日立)、株式会社イトーキ(以下、イトーキ)、株式会社トクヤマ(以下、トクヤマ)は、資源循環型社会の実現をめざして、廃棄が課題となる太陽光パネルから回収した板ガラスの家具部材へのアップサイクル*1を実証しました。具体的には、トクヤマの低温熱分解法で高品質な板ガラスを回収し、日立の非破壊強度推定技術により「亀裂」*2や「アルカリ溶出」*3などの劣化の影響を評価することで、板ガラスをそのまま再利用することを可能にしました。さらに、イトーキは、回収した板ガラスの個性を活かした会議ブースを試作し、再生材の新たな価値を提案しています。これにより、オフィスや公共空間において、環境配慮と美しさを両立したサステナブルな空間づくりが可能となり、利用者は社会貢献とデザイン性を併せ持つ新たな価値体験を得られます。本取り組みは、太陽光パネルから回収した板ガラスを粉砕せずにオフィス家具に再利用する初めての事例であり*4、廃棄物削減とともに、新規にガラスを製造する場合と比較してCO₂排出量最大50%の削減が見込まれ、持続可能な社会インフラの構築を後押しします。今後、本取り組みの実用化に向けて、オフィス家具のほか建材分野など多様な領域のパートナーと連携し、サプライチェーンの構築や事業モデルの検討、さらなる品質検証と評価技術の標準化を進め、脱炭素および資源循環型社会の実現を加速します。

*1
アップサイクル: 本来は捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生すること。「創造的再利用」とも呼ばれる。
*2
亀裂: 太陽光パネルへの飛来物により発生するガラス表面の微小な割れやへこみ
*3
アルカリ溶出: 屋外使用により水やアルカリ性の溶液に長期間さらされると、ガラス表面のアルカリ成分(ナトリウムなど)が溶け出す現象
*4
日立、イトーキ、トクヤマ調べ(2025年8月時点)

背景および課題

  2030年代以降、寿命を迎えた太陽光パネルの大量廃棄が増加し、国内では最大で年間50万トン程度まで達する見込みです。こうした状況を背景に、欧州連合(EU)をはじめとする世界各国でリサイクル義務化や厳格な廃棄規制が進められています。太陽光パネルに使用される板ガラスは重量の約6割を占めており、太陽光パネルのリサイクル率の向上には板ガラスの高付加価値な再利用が重要となりますが、現状では、粉砕して路盤材*5やガラス原料として活用する方法が検討されています。一方、板ガラスをそのままアップサイクルできれば新たな価値創出が期待されますが、長期間の屋外使用による「亀裂」や「アルカリ溶出」などの品質劣化を評価せずに再利用することは安全性や耐久性の面で課題となっていました。
  こうした課題に対応するため、日立、イトーキ、トクヤマの3社は2024年9月から共同研究を開始し、太陽光パネルから回収した板ガラスをそのまま家具部材として再利用する新たな取り組みに着手しました。

*5
路盤材: 道路の舗装構造において、表層や基層の下に敷かれる材料。道路の強度や耐久性、安定性を高める役割を担う。

課題を解決するために開発した技術・ソリューションの特長

  今回、3社が太陽光パネルから回収した板ガラスを安全かつ高品質なまま再利用するために開発した技術およびソリューションの特長は以下の通りです。

1. 高品質板ガラスを効率的に回収する低温熱分解法

  トクヤマは、独自の低温熱分解技術を用いて、使用済み太陽光パネルを構成する板ガラスやセル、インターコネクタを高品質に回収できる技術をNEDOとの共同研究により確立しました*6。熱分解条件と処理工程を最適化することで、主な部材の原料化(水平リサイクル)の取り組みに成功しています。さらに板ガラスをそのまま製品化するための課題を抽出し、品質管理や処理工程に反映することで、より高品質な部材供給を可能にします。

*6
太陽電池モジュールの低温熱分解法によるリサイクル技術開発(2019年7月〜2025年3月)

2. 劣化要因を考慮した非破壊強度推定技術

  日立は、ガラスの劣化要因である「亀裂」と「アルカリ溶出」の強度への影響を複合的に評価し、劣化要因を判別する画像処理と組み合わせることで、回収ガラスの強度を推定する技術を開発しました。これにより、回収ガラスの安全性と耐久性を確保したアップサイクルを実現します。さらに日立は、再生材マーケットプレイスの構築*7、アップサイクル技術の開発*8、日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ*9におけるグランドデザインの策定など、多様な取り組みを推進しています。これらの活動と連携し、本技術をOne Hitachiで社会実装し、再生材マーケットプレイスにおけるラインナップの拡大と、環境・幸福・経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現をめざします。

*7
日立と積水化学が、再生材の活用促進を支援する「再生材マーケットプレイスシステム」を用いた実証を完了 : 2024年6月5日
*8
使用済み製品のアップサイクルを実現するスマート再生ソリューション : 日立評論
*9
日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ

3. 再生ガラスの個性を活かした会議ブースの試作

  イトーキは、回収ガラスの微細な凹凸を残し視線を遮る意匠材として活用したWeb会議ブースを試作しました。板厚が限定されサイズも不均一な回収ガラスを効率的に再利用する為、合わせガラス化で安全面へ配慮するとともに、ガラス面とスチール面を混合させて強度保持できるパネル構造を再設計しました。再生材の新たな価値を提案することで、SDGs*10への意識向上にも寄与します。試作品の中では天板素材やソファ張地にイトーキが取り組んできたアップサイクル素材も組み合わせています。

[画像]太陽光パネルから回収した板ガラスを再利用した会議ブースの試作品(内装)
太陽光パネルから回収した板ガラスを再利用した会議ブースの試作品(内装)

*10
  SDGs: 持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals)

確認した効果

  回収したガラスの強度を推定し、合わせガラスに仕上げることで、オフィス家具部材として使用可能であることを確認しました。また、新規にガラスを製造する場合と比較し、CO₂排出量を最大50%削減できると推算されました*11

*11
  新規に合わせガラスを製造する場合と、回収ガラスを使用して合わせガラスを製造する場合の比較からCO₂排出量の削減効果を算出。新規製造の場合は、原料採掘、ガラス製造、中間膜製造、合わせ加工および、それらに伴う輸送から構成され、本取り組みの場合はガラス分離、中間膜製造、合わせ加工、およびそれらに伴う輸送から構成されます。共通の工程に伴う輸送距離は同等として算出。本取り組みでは、CO₂排出量が多い、原料採掘およびガラス製造に関わる部分が省略されるため、約50%のCO₂削減効果が試算されています。
CO₂排出に関わる排出係数はIDEA環境省排出係数一覧等を用いています。

今後の展望

  今後、3社は、サステナブルな製品の開発を求める多くのお客さまのニーズに応えるため、オフィス家具のほか建材分野など多様な領域のパートナーと連携し、サプライチェーンの構築や事業モデルの検討、さらなる品質検証と評価技術の標準化を進めます。業界全体での協創や標準化を呼びかけ、持続可能な脱炭素および資源循環型社会の実現とリサイクルの社会実装を加速します。
  なお、本成果の一部は2025年9月2日から4日に北海道大学で開催される2025年度資源・素材関係学協会合同秋季大会で発表予定です。

日立製作所について
  日立は、IT、OT(制御・運用技術)、プロダクトを活用した社会イノベーション事業(SIB)を通じて、環境・幸福・経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現に貢献します。デジタルシステム&サービス、エナジー、モビリティ、コネクティブインダストリーズの4セクターに加え、新たな成長事業を創出する戦略SIBビジネスユニットの事業体制でグローバルに事業を展開し、Lumadaをコアとしてデータから価値を創出することで、お客さまと社会の課題を解決します。2024年度(2025年3月期)売上収益は9兆7,833億円、2025年3月末時点で連結子会社は618社、全世界で約28万人の従業員を擁しています。

イトーキについて
  株式会社イトーキは1890年創業。ミッションステートメントに『明日の「働く」を、デザインする。』を掲げ、オフィス家具の製造販売、オフィス空間デザイン、働き方コンサルティング、オフィスデータ分析サービスのほか、在宅ワークや家庭学習用家具、公共施設や物流施設向け機器など、"Tech×Design based on PEOPLE"を強みに、さまざまな「空間」「環境」「場」づくりをサポートしています。
  近年では従業員エンゲージメントを経営の重要指標の一つとし、オフィス環境への投資やインターナルコミュニケーションの強化、DE&I推進など人的資本の最大化に取り組んでいます。また、環境に配慮したサステナブルな製品開発や資源循環促進なども通して、ビジョンステートメント『人も活き活き、地球も生き生き』する社会の実現を目指しています。

トクヤマについて
  トクヤマは、1918年、山口県徳山町(現在の周南市)で、当時輸入品に依存していたソーダ灰の国産化を目指して設立されました。化学品やセメントの伝統的な基礎素材のほか、現在では半導体用多結晶シリコンなどの電子先端材料分野、フォトクロミック用メガネレンズ材料や歯科器材などのライフサイエンス分野に注力しています。また廃石膏ボードや使用済み太陽光パネルのリサイクル技術を確立し、環境分野への事業展開も推進しています。

お問い合わせ先
株式会社日立製作所
研究開発グループ
問い合わせフォーム :

株式会社イトーキ
問い合わせフォーム :

株式会社トクヤマ
広報・IRグループ
電話番号
03-5207-2552

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