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シンポジウムタイトル


2022年11月21日、「Hitachi Sports Summit 2022」が開催されました。人生100年といわれ、健康寿命の延伸に向けて様々な施策が求められる昨今、日本ではスポーツ人口の割合減少や子どもたちの体力低下、コロナ禍の影響による運動不足などスポーツ離れが課題として挙げられています。

日立製作所基礎研究センタでは、ライフサイエンスの探索的研究において、どのライフステージにおいても心身の活力や個人の成長、地域社会の活性化につながる「スポーツ」という概念を、今こそ見直すべきものと位置づけました。そして、その本質的な価値を可視化し、人々のウェルビーイングを支える社会の基盤として提供することをめざしています。

本イベントでは、様々な領域でスポーツに携わる方たちが一堂に会し、研究発表・プレゼンテーション・ディスカッションを通して、「スポーツって何だ!?」という問いかけから多様な視点や情報を導き出しました。もっと自由でワクワクするスポーツ文化とは…。これからの社会環境や仕組みづくりに向けて、「スポーツが有する本質的な価値」を考えました。

ダイジェスト版動画(2分27秒)

ダイジェスト版動画(2分27秒)

ウェルビーイングを高める心身、身体性の研究の発展をめざす

丸一日をかけて開催されたサミットは、研究発表会からスタート。日立の身体計測やスポーツテクノロジーの研究成果や脳科学を使ったコミュニケーションツールなどのポスター発表に加え、オンラインでは広島大学による研究発表が行われました。展示や研究発表には、第2部プレゼンテーションの登壇者や参加者からのフィードバックが寄せられ、実際のスポーツの現場や地域の中からのリアルな反応を得られる機会となりました。また会場には、国体から「国スポ」に生まれ変わる「SAGA2024」、世界パラ陸上競技選手権大会「KOBE2024」のポスターも展示され、多様なフィールドから集った方たちが意見交換する姿が見られました。

シンポジウムの様子

地域で始まるスポーツへの挑戦

午後の部前半は、実際にスポーツの現場に携わる登壇者たちのプレゼンテーションです。様々な地域や立場を越えた協創への期待を込めた研究開発グループ長の鈴木教洋の挨拶を皮切りに、基礎研究センタ主管研究長の神鳥明彦が開催趣旨プレゼンを行い、「スポーツって何だ!?」という本イベントのテーマを掲げました。

プレゼンテーション登壇者のみなさま(敬称略)
プレゼンテーション登壇者のみなさま(敬称略)

最初の登壇者は、SAGA2024 国スポ・全障スポのプロジェクトアドバイザーを務める倉成英俊氏。大会の名称変更という大きな転機において、まさにスポーツを概念から見直し、「スポーツだからできること」を追求するプロジェクトの骨子や方策についての発表がありました。「より自発的に」「より自由に」「より気軽(身近)に」「より楽しく」などのキーワードの下、佐賀から全国に向けて、スポーツを通じてよりよい未来をつくることにトライしているというSAGA2024のコンセプトが会場に共有されました。

SAGA2024 国スポ・全障スポ

SAGA2024 では、佐賀県内外で活躍する実在のアスリートの写真を元に、大会ピクトグラムが制作された
SAGA2024 では、佐賀県内外で活躍する実在のアスリートの写真を元に、大会ピクトグラムが制作された

続いて、「『楽しい』と思える運動環境をめざして〜スポーツ文化の定着を目指すまち、北海道岩見沢市のイマ〜」と題し、北海道岩見沢市より、奥田知靖氏、栗林千奈美氏、松重宏和氏の3名が登壇しました。

シンポジウムの様子

北海道教育大学岩見沢校の教授であり、総合型地域スポーツクラブ「スポーツライフデザイン岩見沢(SLDI)」と連携している奥田氏は、「スポーツは楽しいもの」であるという大前提を共有。地域の子どもたちに提供している「楽しさ」と「多様性」を包含するスポーツプログラム(CAPS-Child)のコンセプトについて解説し、「ワクワクするようなスポーツ文化の定着を目指したい」という言葉で締めくくりました。

CAPS-Child

3人制プロバスケットボールクラブ「HOKKAIDO IWAMIZAWA FU」を運営する合同会社FU共同代表の松重氏は、スポーツへの多様な関わり方を醸成する取り組みを紹介。選手育成のほか、デジタル体験やコミュニティをつくり出し、地域とスポーツビジネスの新しい未来を創造するという、地方発信のこれまでにないスポーツクラブのあり方を提唱しました。

岩見沢市地域情報誌『これっと』編集長の栗林氏からは、中学校の部活動が学校から地域に移行されるにあたり、浮き彫りになった課題の共有がありました。子どもの成長にも大きく関わる部活動を誰がどのように担うのか。どうやったら指導者を育成できるのか。これは岩見沢市だけの課題ではなく、日本の社会全体の課題でもあります。「みなさまのお力を借りながら地域のスポーツ環境を整えたい」と栗林氏。

大人たちへのスポーツ教育

指導者の育成や子どものスポーツ環境については、ミズノ株式会社研究開発部主席研究員の上向井千佳子氏、北海道教育大学札幌校准教授の中島寿宏氏、そして早稲田実業高校専任アスレティックトレーナーの小出敦也氏からも問題提起がありました。

上向井氏のプレゼンでは、日本における子どもの体力低下や二極化、遊ぶ環境についての課題が示されました。そうした背景の下、「子どもたちの遊ぶ環境を整えるにあたり、運動用具だけでなく、子どもを見守る大人の育成に力を入れている」と上向井氏。子どもの運動遊びを支えるミズノプレイリーダーの育成および研究事例の成果が会場に共有されました。

続いて中島氏が「子どもたちをつなぐ」をキーワードに、日立のビジネス顕微鏡やデジタルツールを活用した小学校での調査について発表。子ども同士をつなぐための教員の関わり方の研究や、教員同士がつながり学ぶ場の創出などの取り組みが紹介され、大人や指導者へのスポーツ教育の重要性が示されました。

シンポジウムの様子

学校に常勤する専属のアスレティックトレーナーという、国内では数少ない役割で子どものスポーツ教育に携わる小出氏からは、日本のスポーツ現場におけるリスク・マネジメントの必要性が強調され、安全管理における、「ルールづくり」「講習会・啓蒙活動」「環境改善」という3つの大きなポイントが提示されました。

さらに、複数の登壇者に共通するもう一つのキーワードとなったのが、「勝利至上主義」でした。日本のスポーツ現場の大きな問題として、勝つことだけに価値を置く指導や風潮が挙げられ、スポーツの本来の価値である他者との競争から得られる楽しさや達成感、向上心などと、勝利至上主義的指導の関係についても、奥田氏や上向井氏から言及がありました。

誰もが楽しめるスポーツ文化の新時代をつくる

再生医療の研究施設と最先端の眼科医療施設、社会実証を行う情報ケア施設が一体となった「神戸アイセンター」内でリハビリや展示、セミナーなどのスペースの企画運営を行う、公益社団法人NEXT VISION事務局長の山田千佳子氏は、視覚に障害のある方もない方も一緒に楽しめるスポーツの取り組みを紹介。光と音で登れるクライミング施設や「ゆるスポーツ」など、障害の有無に関わらず楽しめるという、スポーツに対する考え方や参加の仕組みを、KOBE2024のレガシーとして提案していきたいと話しました。

目隠しをして点字ブロックのコースを歩いてタイムを競うスポーツ
目隠しをして点字ブロックのコースを歩いてタイムを競うスポーツ

また、日立製作所2021年度アイデアコンテスト「Make a Difference!」Sports DXチームの藤原誠人は、アマチュア選手が自ら考え挑戦し成果を出す仕組みづくりや、トップアスリートだけでなく誰もがスポーツを楽しめる社会への思いを発表しました。


科学技術からスポーツを見直す

最後の登壇者は、脳科学者・物理学者で日立製作所名誉フェローを務める小泉英明氏。運動による人間の進化や学びからもたらされる幸福感について、脳科学の観点からスポーツを俯瞰しました。また小泉氏は、人間の「無意識」の領域をどう育むかが教育全般において非常に重要であるとし、ウェルビーイングにつながる人間の脳の本質について考えを示しました。

スポーツと先端の科学技術は非常に近い、と熱く語る小泉氏
スポーツと先端の科学技術は非常に近い、と熱く語る小泉氏


スポーツの可能性をもっと広げていくために

全てのプレゼンを終え、ここからは登壇者を3つのグループに分けてディスカッションの時間となりました。ディスカッションでは、プレゼンでも取り上げられていた「大人の学び」や「勝利至上主義」、「子どもへの関わり方」などがトピックとなり、課題の本質や新たな視点の共有など、示唆に富んだ議論が交わされました。

シンポジウムの様子

プレゼンとディスカッションを通し、スポーツの本質や、その価値を流通する仕組みについて考えた本サミット。現場で実際にスポーツに関わる方たちの言葉から、よりリアルに切実に、日本のスポーツ環境の現状や課題が見えてきました。地域からスポーツの仕組みを変えていくときに必要なのは、地域同士の横断的なつながりであり、登壇者たちのような草の根的アプローチをいかに増やしつないでいくかが重要です。また同時に、企業にとっては住民をはじめ地域社会との協創が鍵となります。

サミットの総括として、日本パラアイスホッケー協会理事長であり日立製作所執行役常務、日立アジア社・日立インド社取締役会長の中北浩仁が「TEAM(Together Everyone Achieves More)」の大切さを訴え、これからの持続的な協創への意欲を示しました。さらに基礎研究センタ長の西村信治が閉会挨拶に立ち、スポーツの本質を捉え直しウェルビーイングな社会への第一歩となった本サミットを締めくくりました。日立では今回のサミットを狼煙とし、多様な領域の方々と手を取り合い、スポーツの価値を流通するための基礎研究や社会基盤構築に取り組んでいきます。


登壇者後日談コラム

思い込みに気づき次の一歩へ  〜科学とスポーツのチカラ

岩見沢市地域情報誌 『これっと』編集長 栗林千奈美

たくさんのアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)におぼれる日常。試合に勝つためには毎日長時間の練習と『ど根性』が大事、中学校の先生は部活動で指導すべき、地域の問題は地域で解決しなきゃetc. スポーツにおいてもこうした思い込みは数々はびこり、時として他者を知らずに傷つけ、心を閉ざすことで自分の成長を妨げます。

この思い込みの危険に気づきブロックを外すためにまず有効なのは、科学的な実証と確かな知見に触れること。今回の「日立スポーツサミット」には、誰もがスポーツを楽しむための基盤となるサイエンスに満ち溢れていました。例えば、公園。誰にでも憩いの場であるはずが、日立や神戸アイセンターの皆さんの実験や研究によると、視覚に障害のある方にとっては歩行すら安全にできる場所にはなっていないとのこと。試しに私も目をつぶって公園の中を歩いてみたところ、入り口の柵を越えるのすら恐怖との闘いでした。そして、チームスポーツ。より良いチーム作りや人のコミュニケーションにおいても科学が活かされることを知り、新しい世界が見えてきました。

思い込みを修正する二つ目の有効手段、それはたくさんの人と話すこと。今回集まられた皆さんは、「スポーツ」というキーワードが共通しているだけで活動の場もジャンルもさまざま。いわば異種格闘技的な空間で、それぞれの視点に立ったお話を伺い意見を交換。(これそのものが、もしやスポーツ!?)私の中で、「こうあらねばならない」という思い込みがゆっくりと溶け出し、スポーツを通じて得られるこんな幸福感を地域の人たちとどうやって共有しよう?と止まらぬワクワクを胸に帰路につきました。

ところで、「四十にして惑わず」も思い込みだった事に気づいたのは四十歳をとうに過ぎてから。大人になったら迷ったり悩んだりしないものだと思い込んでいた私。でもきっと惑ったっていい。人はいつだってこうやって学び成長できるんだから。そんな仲間が増えていくといいなあ。


【アーカイブ動画】Hitachi Sports Summit2022 登壇者プレゼンテーション

参考情報:


【総合企画・全体進行:日立製作所 基礎研究センタ 担当部長 沖田京子、主管研究長 神鳥明彦】

本イベントの企画運営作業は、撮影・タイトルデザインなど株式会社タイズブリックにご協力頂きました。