組み込みデータベース「Entier」の採用で
検索スピードの性能アップと開発効率の向上を実現。
汎用性の向上で今後のビジネス展開にも期待
株式会社ゼンリン(以下、ゼンリン)は、パソコン用地図ソフト「Zi(ジー)10」に、日立製作所(以下、日立)と日立ソフトウェアエンジニアリング(以下、日立ソフト)が共同開発した組み込みデータベース「Entier(エンティア)」を採用。 高速かつ高度な検索機能を有効に活用するとともに、開発効率やメンテナンス性、汎用性などの大幅な向上を実現した。 今後は、ゲーム機や携帯電話などの組み込みアプリケーションにもEntierを活用して、地図コンテンツのビジネスチャンスを拡大したいと期待を寄せる。
株式会社ゼンリン
商品開発部
商品開発課
課長
原口 幸治 氏
必要なときに必要な場所で、店舗情報や道路情報などの多様な地図情報をビジネスや趣味に活用したいというニーズが広がっている。住宅地図のゼンリンも、現在では、カーナビを中心に地図関連の総合的なコンテンツを提供する電子地図関連事業に積極的に取り組んでいる。
「地図コンテンツの用途は、インターネットはもとより、ゲーム機や携帯電話などへ拡大しています。さまざまな活用シーンに対して、いかに鮮度の高い地図データを提供するかが、課題のひとつになっています」と原口氏は語る。
ゼンリンが提供しているパソコン用地図ソフト「Zi」は、1998年に発売され、シリーズ全体で累積70〜80万本の販売実績を誇る。 タウンページや住所情報など約1,000万件の多彩な情報が登録されており、電話番号や施設名を使って検索ができる。
さらに高度化するユーザーニーズに応えるため、ゼンリンは、2007年2月に発売した「Zi9」で、操作性や機能を大きく向上させた。
「それまでのバージョンでは、一覧表から選択していたものを、名称入力ですぐに検索できるようにするなど、新機能をたくさん盛り込みました。しかし、収録エリアの拡大や店舗情報の詳細化など、情報量が増加するなかで、検索レスポンスの性能を思うように上げることができない部分もありました」(原口氏)。
株式会社ゼンリン
商品開発部
商品開発課
マネージャー
松尾 隆史 氏
次バージョンでは検索の高速化を実現したい。そこで注目したのが、組み込みデータベース「Entier」だった。
Entierは、組み込みアプリケーションに高度なデータ管理機能を提供するコンパクトなデータベースである。高速、軽量、高機能という特長は、カーナビなどのデバイスへの組み込みはもとより、Ziのようなパソコン用ソフトでも有効だ。
「真っ先に確かめたのは、検索スピードです。特に、『九州』と入力しただけで『北九州』も抽出できるといった全文検索(部分一致検索)機能のスピードが速かった」と松尾氏は評価する。
Entierはこのほかにも、「ガソリンスタンド」と入力しただけで「サービスステーション」も対象として一緒に検索できる繰り返し列機能(別名検索)、1文字入力するごとに次候補文字を自動表示する絞り込み検索(インクリメンタルサーチ)機能など、検索機能が充実している。
その他にも、東京駅から半径500mといった指定が簡単にでき、検索した経路に沿って左側にある駐車場だけ抽出したり、目的地からの距離順で表示する機能なども備えている空間検索機能も高く評価した。
「Entierを使えば、高速化という当初の目的に加えて、新機能の追加も容易にできる」(原口氏)という点から、次バージョンの検索エンジンに採用することになったのである。
株式会社ゼンリン
商品開発部
商品開発課
アシスタントマネージャー
泉 陽一 氏
Entierを組み込んだ最新バージョン「Zi10」は、2007年11月に発売された。
「国内開発データベース製品ならではのサポートが、すばやく的確でした」とEntierのサポートについて原口氏は語る。
「データベースの設計、インデックスの作り方、SQL文の書き方など、きめ細かく相談にのってくれました。さらに、こちらの要望が次の機能アップへきちんと反映される点も良かった」と松尾氏は付け加える。
Entierの採用により、Zi10の検索機能は大幅なスピードアップを実現。前バージョンに比べて、最大で7倍程度の改善がみられた。
複数の検索条件を指定するAND検索機能を、開発負荷をあまり増やすことなく盛り込むこともできた。
「これまでは、新機能を追加するには、データの持ち方から検索方法までプログラムをすべて書き換える必要がありました。ところがEntierの機能を利用すれば、3分の1程度のコーディングの手間で機能追加ができたのです」と松尾氏は語る。
複雑な空間検索や高速な全文検索を、シンプルなSQL文で表現できるのもEntierの特長である。ゼンリンでは、SQL文を用いた開発により実装を短期間で行い、テスト、チューニング期間をこれまでより長く確保することができた。
「Entierの採用はアプリケーション開発者にとっても、アプリケーションの機能開発に専念できるという効果がありました」と泉氏は評価する。
「Entierの採用で開発効率が上がり、追加・修正が柔軟にでき、メンテナンス性も向上しました。しかし実は、『汎用性』こそがEntier採用の最大の効果なのです」と原口氏は強調する。
ゼンリンは今後、この汎用性を活かして、ゲーム機や携帯電話のデバイスに組み込む地図コンテンツにもEntierを利用していきたいと考えている。
ゲーム機用コンテンツは、メーカーや機種ごとにプログラムを変えなければならないが、Entierを活用すれば機種ごとの違いへの対応が容易になる。
また、携帯電話の組み込みアプリケーションは、機能の多様化と開発期間短縮の要求がますます厳しくなっているだけに、キャリア対応・機種対応が容易になることは大きな効果につながっていく。
Entierはデータベースであるから、地図情報をすばやく差分更新したり、店舗情報に「禁煙席の有無」といった項目を追加することも容易に対応できる。つまり、地図コンテンツ利用の新しい可能性を広げる糸口にもなるのだ。
「Entierの多彩な機能を研究していると、さまざまなアイデアが浮かびます。地図情報の「緯度・経度」に加えて、「高さ」や「時間」といった要素を加えて、3次元の情報管理を実現していくなど、ゼンリンならではの地図活用も提案していきたい」と原口氏は力強く語る。
開発者の創造力を刺激し、あるいは、新しいビジネス領域へ踏み出すための敷居を低くするのもまた、Entierならではの導入効果なのである。
USER PROFILE
株式会社ゼンリン
[本社] 福岡県北九州市小倉北区室町1-1-1
リバーウォーク北九州
[設立] 1961年4月
[資本金] 65億5,764万円(2007年3月31日現在)
[従業員数] 1,967名(2007年3月31日現在)
住宅地図情報を基盤として、出版やソフトウェアなど多彩な形態で地図情報を提供する地図業界のリーディングカンパニー。最近では、カーナビ用地図データ等の電子地図関連事業を中核事業としている。