マネジメント
日立では、サステナビリティは戦略に深く組み込まれており、これらは不可分の関係にあります。サステナビリティはまた、創業者小平浪平の強い信念に基づいた日立グループ・アイデンティティの中核をなすものであり、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念は、日立の110年以上にわたる歴史の中で脈々と受け継がれています。
日立は創業以来、独創的で革新的な技術を通じて社会の発展や人々の生活を支えてきました。そして、このような大きな目標の達成に貢献すると共に、日立自身も大きく成長しました。即ち、技術を通じた社会貢献と企業のサステナブルな成長は、相互に関連し、補強し合うことをこれまでの長い歴史を通じて体現してきました。
今日、日立のサステナビリティ経営は「プラネタリーバウンダリー」と「ウェルビーイング」に重点をおいています。そして企業理念に基づき、現在および将来を見据え、サステナブルな社会の実現に取り組んでいます。
私は、日立の経営陣の一員として、世の中が今日、そして将来何を必要としているかを総合的に理解した上で、意思決定を行うよう努めています。このような包括的なアプローチが、私のサステナビリティ・リーダーシップのあり方です。
また、日立のサステナビリティのリーダーとして、常に物事を多面的な視点から捉えることを大切にしてきました。あるグループに利益をもたらすことが別のグループにとって不利益となる場合もあります。また、目先の短期的な利益をもたらす行動が、将来世代にとっては課題となることも起こり得ます。
2024年度からは、従来のChief Sustainability Officer兼CDEIOとしての役割に、新たにCHROとしての責任が加わりました。
今日の社会課題は、従来の考え方では解決できないほど複雑化しています。こうした課題の解決には、創造性を発揮しつつ、新しく、柔軟で、包括的なアプローチが必要です。当社はさまざまな経歴を持つ人財を世界中に擁しており、こうした人財こそが革新的な思考と創造力の源泉です。そのため、日立では、サステナビリティ、人財マネジメント、ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)の統合に経営の最上位のレベルで取り組んでいます。従来の考え方から脱却し、一人ひとりの創造性をサステナビリティ分野で活かすことで、より効果的に社会課題に取り組むことができますし、日々の仕事を通じて社会課題の解決に貢献することで、従業員エンゲージメントがあがると考えています。
さらに、日立では、非財務的要素が財務的な成功の基盤となり、人財の個性を伸ばすことが長期的な財務面での成長につながると考えています。
日立は、サステナビリティ経営の枠組みの中で、6つのマテリアリティと15のサブ・マテリアリティを特定し、さまざまな取り組みを進めています。2023年度を振り返ると、サステナビリティに関する目標とKPIのほとんどを達成することができました。今後も、より高度なサステナビリティ経営の実現に向けて、進化を加速し、取り組みを強化していきます。
環境分野では、特に脱炭素およびサーキュラーエコノミーの取り組みにおいて、着実に進捗しています。
脱炭素の取り組みについては、社内の取り組みが順調に進んでおり、2010年度を基準年として事業所におけるCO2排出量を74%削減することができました。また、当社の社会イノベーション事業を通じてお客さまとともに社会全体のCO2削減にも取り組んでいます。2023年度時点では、約1億5,300万トン(2024中期経営計画期間3年平均)のCO2排出量の削減に貢献することができる見通しです。これには、送配電事業を担う日立エナジーが大きく貢献しています。
日立エナジーが世界各国で提供したHVDC技術による系統連系の合計容量は現在150GWに達しており、これは日本のピーク需要に匹敵するレベルです。このマイルストーンは、クリーンエネルギーへの世界的なシフトの高まりを反映しています。こうした需要の高まりに対応するため、日立エナジーは2020年以降、世界中で8,000人以上を新たに雇用し、製造、エンジニアリング、研究開発に30億ドルの投資を行ってきました。これらの取り組みは、長期的な戦略パートナーとしてお客様をサポートするという当社のコミットメントを示すものです。
サーキュラーエコノミーでは、水使用量原単位を2010年度(基準年度)比で30%削減し、75%の事業所で埋立廃棄物ゼロを達成しています。
環境負荷を減らすため、原材料、水、その他資源の利用を削減し、より効率的かつ持続可能なかたちで利用するビジネスモデルへの転換を進めています。製造業として長い歴史を持つ企業として、私たちは、新しい発想でモノづくりに取り組む必要があると認識しています。
また、「販売のみ」のビジネスモデルから、製品の所有だけでなく利用に焦点を当てた「サービス型」のビジネスモデルへの移行を進めています。この変革は、当社のサステナビリティ目標に合致しているだけでなく、変わりゆく市場において当社が有用な存在であり続け、競争力を維持するためでもあります。
日立はグローバル企業として豊かで多様な人財を擁しており、一人ひとりの多様な視点を経営や事業運営に取り入れることでイノベーションが生まれ、当社の成長に繋がると考えています。DEIは日立の成功の原動力であり、企業理念を実現していく上での重要なビジネスドライバーです。
世界中の約27万人の従業員の能力を最大限に引き出すためには、年齢、性別、セクシャリティ、家族構成、障がい、人種、国籍、民族、宗教といった、多様なバックグラウンドにかかわらず、すべての人にとってインクルーシブな環境をつくることが不可欠です。
DEI戦略では、ジェンダー多様性、文化的多様性、世代の多様性を3つの重要なトピックとして掲げています。2023年度には、LGBTQIA+、障がい、ニューロダイバーシティなど、目に見えない多様性をより包括的に尊重するためDEI方針を改訂し、具体的な施策を実施しています。役員層に占める女性および外国籍役員の比率はそれぞれ約12%と約25%となり、2030年度までに30%という目標に向けて着実に前進しています。また、日常業務にDEIを組み込むための重要な一歩として、従業員の人事評価にDEIのKPIを設けることにしました。これにより、よりインクルーシブな職場となるような行動変容と、考え方の転換が促進されます。このような取り組みを通じて、従業員が会社との関わりをより強く感じられ、重要な役割を果たしていることを実感できるようにします。
2023年、生成AIという画期的な技術が世界を席巻し、産業や社会に大きな影響を与えました。
生成AIは仕事の効率を大幅に向上させ、人々がより高付加価値で創造的な仕事に集中できるようにします。しかし、その利用が拡大するにつれてデータセンターの需要が増え、電力使用量とCO2排出量の増加につながります。
では、「プラネタリーバウンダリー」と「ウェルビーイング」の両立の観点から、この革新的な技術をどのように捉えるべきでしょうか。
日立では、環境への影響や倫理面での課題など、さまざまな観点から生成AIのポジティブとネガティブな影響を分析することをめざしています。私たちがめざすのは、プラネタリーバウンダリーを守りつつ、社会とそこに暮らす人々のウェルビーイングを向上させる最適なソリューションを導き出すことです。
こうした背景や主軸であるLumada事業を鑑みるに、日立にとって優秀なデジタル人財の確保は極めて重要です。2022年度で83,000人だったデジタル人財は、2023年度には95,000人となり、2024年度までに97,000人という当初目標に向け、今後もデジタル人財の獲得・育成に注力していきます。
日立は、「Hitachi Social Innovation is POWERING GOOD」というスローガンのもと、社会イノベーション事業を中心にビジネスポートフォリオの改革に取り組んできました。当社はこのコンセプトに基づき、さまざまな社会イノベーションの取り組みを通じてサステナブルな社会と人々の幸せの実現に貢献していきます。このような取り組みが、日立の株価、時価総額、ESG評価を含むサステナビリティ経営に対する評価に反映され、日立のサステナブルな成長を可能にしています。
グローバル企業として成長した日立は、社会イノベーション事業を通じて世界規模でポジティブなインパクトを与えるために、まだまだ多くのことができると確信しています。日立のChief Sustainability Officer兼CHRO兼CDEIOとして、地域や事業分野の垣根を越えたコラボレーションを推進し、当社の能力を最大限に発揮していきます。
世の中から日立に寄せられる信頼と期待の大きさを感じており、今後もその期待に応え、さらには超えていきたいと思います。
株式会社 日立製作所
執行役専務
Chief Sustainability Officer兼CHRO兼人財統括本部長兼CDEIO
ロレーナ・デッラジョヴァンナ