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  • The Reality of DX/GX Vol.3

    GXの象徴 実践編 
    生産効率と脱炭素化をデジタル基盤で可視化、
    協創を加速する日立製作所の「大みかグリーンネットワーク」構想

    2023年1月 日経 xTECH Special掲載

    GXの象徴 戦略編 カーボンニュートラルは「茨の道」か? 実現へのロードマップと、成功モデルにかかる期待

    カーボンニュートラルへの取り組みが進んでいる。まずは各企業がCO2排出量の削減に取り組むべきだが、その先のバリューチェーン全体の脱炭素は、個社の努力だけでは実現が難しい。産官学金の連携によるエコシステムを形成し、データやノウハウを共有しながら協創によって推進していく必要がある。世界経済フォーラム(WEF)から世界の先進工場「Lighthouse」に日本で初めて選ばれた日立製作所の大みか事業所は、その先駆的な例だ。デジタル技術の活用で先進的な脱炭素化を図り、その成果を地域全体に広げようとしている。


    日経BP総合研究所 フェロー
    桔梗原 富夫

    日立の大みか事業所を見学したことがありますが、製品の生産過程をIoT活用で改革し、成果を上げています。その大みか事業所が今、カーボンニュートラルの達成に向けて先進的な取り組みを始めています。そのポイントは、大みか事業所単体で考えるのではなく、同事業所を起点に地域のネットワークを構築し、地域企業や行政、教育・研究機関などを巻き込みながら、社会全体のCO2排出量の削減を達成しようとしていること。事業活動と環境負荷低減の両立をめざす新たなモデルとして大いに期待したいと思います。

    世界の先進工場「Lighthouse」に日本から初選出

    日立は環境対策の長期目標として「日立環境イノベーション2050」を策定している。その中で、2030年度までに事業所(ファクトリーとオフィス)のカーボンニュートラルを実現し、2050年度にはバリューチェーン全体のカーボンニュートラルを達成すると宣言した。これに基づき、「2024中期経営計画」では2024年度末までにCO2の排出量を2010年度比50%に削減することを目標に、再生可能エネルギーや省エネルギー関連に3年間累計で370億円の設備投資を行う。

    脱炭素の取り組みでグループ全体をリードしている生産拠点が、日立製作所の大みか事業所(茨城県日立市)だ。1969年の設立で53年の歴史を持ち、約4000人が勤務する。配電制御システムや運行管理システム、上下水道監視制御システムなど、信頼性の高い情報制御システムやコンポーネントを開発、製造している。


    日立製作所大みか事業所(茨城県日立市)

    大みか事業所は2020年1月、日本の生産拠点として初めて世界経済フォーラム(WEF)の「Lighthouse」に選ばれた。これは第4次産業革命をリードする先進的な工場を認定するプログラムだ。世界で114工場が選ばれている(2022年10月時点)。

    WEFが同事業所を評価したポイントは幾つかあるが、特に過去20年以上にわたって取り組んできた生産改革が挙げられる。製造現場で蓄積してきたノウハウとデジタル技術を融合させ、効率の高い生産モデルを実現している。製造現場のデータを収集し、分析して対策を講じる循環型の改善により、代表製品の生産リードタイムを50%短縮した。現場の状況を4M(huMan、Machine、Material、Method)データで可視化し、分析可能にしたことで、さらに高度なデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している。

    また、エネルギーマネジメントについても評価を受けたポイントだ。事業所内の約900カ所における電力使用の状況をデータによって可視化し、より正確な電力需要の予測と管理を可能にした。生産計画と設備稼働計画を連動させることで、電力使用のピークを抑え、太陽光発電や蓄電池設備を導入して再生可能エネルギーの活用と省エネを推進。エネルギー管理の最適化により、契約電力の使用量を約29%低減した。CO2の削減とBCP(事業継続計画)の強化につなげている。

    「大みかグリーンネットワーク」で協創によるGXをめざす

    このように、大みか事業所ではDXによる生産管理の最適化と高度なエネルギー管理によって脱炭素の取り組みをある程度成功させてきた。しかし2050年度にめざすバリューチェーン全体のカーボンニュートラルは、同事業所が単独で努力しても達成は難しい。共通の課題を持つパートナー企業や外部のステークホルダーと協力し、地域とサプライチェーンを含めた活動が必要になる。

    そこで同事業所では、外部のステークホルダーが参加できるエコシステムを構築するため、2022年に「大みかグリーンネットワーク」という新たな取り組みをスタートさせた。大みか事業所をハブとして、様々な企業が連携し、脱炭素の技術や施策を実証したり、ノウハウを共有できる場を提供する。産官学金が連携しやすい脱炭素支援のネットワークを構築し、協創によってグリーントランスフォーメーション(GX)をめざす。

    まずは大みか事業所内でGXの実証を行う。これまで進めてきた「工場経営のDX」と「環境経営のGX」を融合させ、さらなる効率化とCO2の削減に挑む。


    生産管理とエネルギー管理を融合する大みか事業所のGXの取り組み

    具体的には、両者のシステムを日立のデジタル基盤で統合し、あらゆるデータを一元管理して多方面の目的に活用できる仕組みを作る。これを「大みかGXモデル」として体系化し、自社だけでなくパートナー企業や「大みかグリーンネットワーク」の参加者が活用できる形に整備していく。日立が実現してきたGXの事例としては、「CO2削減効果シミュレーション」や「CO2排出量削減計画・実績の可視化」がある。これを自社内だけでなくパートナー企業にも展開する計画だ。

    日立は2002年ごろから、省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)に対応するため、環境情報の一元管理とレポーティングを支援する「EcoAssist-Enterprise」をパートナー企業に提供し、環境経営を広く後押ししてきた実績がある。これには「Scope3」のCO2排出量算定や中長期削減計画の策定支援など、脱炭素経営に向けた機能やサービスも実装されている。難解な脱炭素経営を推進するための基盤として、業界を問わず多くの企業に採用されている。


    企業の脱炭素経営を支援する、環境情報管理サービス「EcoAssist-Enterprise」。
    2021年からはESG投資指標の向上を目的とした「CO2算定支援サービス」の提供を開始

    Scope3:自社の排出量だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した「サプライチェーン排出量」を表す指標。自社の事業活動に加え、原材料の調達、社員の通勤、購入者による製品の使用、廃棄まで、企業の事業活動が影響する範囲全体が対象となる

    地域とサプライチェーンを包含するエコシステムでScope3を実現へ

    「大みかグリーンネットワーク」では、大みか事業所で成功したGXモデルを地域やサプライチェーン全体に展開し、Scope3の実現をめざす。

    まず地域の取り組みでは、再生可能エネルギーによる創エネルギー(創エネ)や、太陽光や風力のような不安定な電力を安定供給するための蓄エネルギー(畜エネ)技術を最大限に活用する必要がある。日立は国内外で展開してきた分散電源制御ソリューションを茨城地区の近隣事業所と実証し、さらに広い地域に適用する構想を進めている。このノウハウも「大みかGXモデル」に加え、地域のエネルギーマネジメント基盤としてフレームワーク化していく考えだ。

    サプライチェーンの取り組みでは、まずデータ基盤を統合し、製品別のライフサイクル分析(LCA)を活用したCO2排出量の算定と可視化を実現する。金融機関とも連携し、サプライチェーン全体を視野に入れた環境経営を支援していく。

    これを実現するには、まずサプライチェーンに関わる多くのステークホルダーと協働し、脱炭素に向けた取り組みをリアルなデータと活動で実証していく必要がある。データドリブンなエコシステムを形成することで、サプライチェーンのあらゆるステークホルダーが認識を共有し、カーボンニュートラルに向き合えるようにする。

    ステークホルダーと足並みをそろえた活動はすでに始まっている。日立市が進める「中小企業脱炭素経営促進コンソーシアム」だ。大みか事業所のある同市は、CO2排出量の約半分を製造業に関連した企業が排出している。そこで同市では、企業や産業支援センターなどが参加するコンソーシアムを作り、域内の中小企業を中心に脱炭素経営をサポートしている。日立もそこに参画し、CO2排出量の可視化と削減に向けたシステムの提案や、環境経営の情報開示などを進めている。


    日立が構想する「社会インフラエコシステム」

    日立はこうした取り組みを通じて先進的な社会インフラとエコシステムを形成し、協創によってカーボンニュートラル社会をめざす。大みかグリーンネットワークは、Lumadaのコンセプトである「つなぐ」を体現する試みと言える。社会全体のカーボンニュートラルという大きな社会課題に対し、地域やステークホルダーが多数参加するエコシステムによって解決していく。

    GXの象徴 戦略編 カーボンニュートラルは「茨の道」か? 実現へのロードマップと、成功モデルにかかる期待

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    本記事は日経 xTECH Specialに掲載されたものを転載したものです。
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