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Chief Lumada Business Officer 対談シリーズ

激変するビジネス環境へ――日立の挑戦
金融機関の新しい価値創造を「DX」と「GX」の2軸で支えていく

2022年9月 日経ビジネス電子版 SPECIAL掲載

激変するビジネス環境へ――日立の挑戦 金融機関の新しい価値創造を「DX」と「GX」の2軸で支えていく

ビジネス環境の変化を受けて、新たな領域に挑戦する金融機関が増えている。従来の金融業務に加え、FinTechの導入やSDGs/ESGなどへの取り組みにファイナンスを通じて関与するなど、既存の枠組みを越えた新しい取り組みを進めているのだ。ただし、その道筋は容易ではない。そこで日立製作所(以下、日立)では、DX(Digital Transformation)とGX(Green Transformation)という2軸から、金融機関の成長戦略を支えようとしている。日立との協創によって金融機関はどのような価値創造や社会課題の解決を実現できるのか。金融ビジネスユニット Chief Lumada Business Officerの服部 善成と、AI関連のスタートアップ企業の会長で、日立のLumada Innovation Hub Senior Principalを務める加治 慶光が語り合った。

金融機関が新たなビジネス領域へチャレンジ

株式会社日立製作所 金融ビジネスユニットCOO、Chief Lumada Business Officer 理事 服部 善成

―近年、多くの金融機関がDXや異業種連携、ESGやSDGsへの対応など、従来のビジネス領域に留まらないチャレンジを積極的に進めています。その理由はどこにあるのでしょうか。

服部:金融機関を取り巻く環境が大きく変化したからです。日本の金融機関は従来、規制に守られながら安定的な経営を維持してきましたが、逆に言えば規制に縛られているがゆえに、新しい領域への進出は厳しく制限されていました。

この規制が緩和されてきて、成長に向けたビジネスチャンスが生まれる一方、FinTech企業などによる異業種からの参入で、既存の枠組みを越えた金融サービスが多く創出され、競争が激化しています。取引形態もリアルからネットへの移行が急速に進み、こうした顧客ニーズの多様化に金融機関が対応できるかどうかが、今後生き残れるか、そして成長できるかの明暗を分けることになります。

そこで金融機関は、内部改革に向けたDXの推進、顧客体験の高度化、チャネル戦略の再構築など、様々な事業課題へ急ピッチで変革を進めているわけです。

もう1つ、金融機関の変革を促す大きな要因となっているのがSDGs/ESGへの対応や地域経済再生といった社会課題解決への期待です。SDGs/ESGに金融が関係することは今や世界的な潮流となっており、グローバル市場も含めた、様々なステークホルダーの支持や信頼の向上に向け積極的な貢献が求められています。多くの金融機関がこうした一連の取り組みを、既存業務を超えて進めているのです。

加治:よりグローバルな視点で捉えると、国内市場においては、著しい人口減少や長期化するマイナス金利により金融機関が収益を上げることが難しくなったことも大きな要因です。世界市場を開拓しなければ生き残れないため、5年ほど前からメガバンクのアジアシフトが始まりました。それまでアメリカの金融機関に投資していた日本の銀行が、今度は成長著しいアジアに目を向けて、ベトナム、タイ、フィリピン、インドネシアといった現地の銀行に積極的な提携や買収を行っており、地銀大手もこれに続いています。

一方、FinTechに力を入れる損保や生保は世界中のスタートアップに対して出資や協業を進めています。シリコンバレーに子会社を作り、それを通じて企業を買収するなど、成長の源泉をグローバルに求める動きを活発化しています。このようにビジネス領域を世界に拡大しているのも金融機関の新しいチャレンジです。

「金融DX」と「金融GX」の2軸で成長戦略を支援

株式会社 日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal 株式会社シナモン取締役会長 兼チーフ・サステナブル・デベロプメント・オフィサー 加治 慶光

―そのような状況を受け、日立はどのように金融機関を支援できるのでしょうか。

服部:日立は「プラネタリーバウンダリー*を越えない社会の維持」と「人々のウェルビーイングの実現」の両立を掲げています。データとテクノロジーでサステナブルな社会を実現する社会イノベーション事業で、社会と個人のよりよい未来につながる好循環を作っていきたいと考えています。

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プラネタリーバウンダリー: 人類が生存できる安全な活動領域とその限界点を定義する概念。地球の限界、あるいは惑星限界とも呼ばれる。

それを踏まえて我々金融ビジネスユニット(金融BU)では、デジタル技術と国内外のネットワークを生かした「金融DX」、そしてサステナブルな社会の実現を目指す「金融GX(Green Transformation)」という2軸から、金融機関の成長戦略を支えていきたいと考えています。

前者の金融DXでは、お客様ニーズに応じてモジュール化された事業やサービスを組み合わせ、スピーディに再構成することで金融ビジネスのイノベーションを支援。もう1つの金融GXは、サステナブル社会の実現に向けたESG情報の開示、企業間データ連携プラットフォームの構築などが中核的な施策となります。

加治:いまお話のあったDXとGXは、政府が2022年6月に閣議決定した経済政策「新しい資本主義」のグランドデザインにも謳われています。「人」「科学技術」「スタートアップ」「GX/DX」の4分野に重点的な投資を行うことが柱となっていますが、そこには日立の会長を務めた故・中西宏明さんが経団連の会長時代に「Society 5.0 for SDGs」という理念を掲げ、サステナブルな資本主義の確立に向けて取り組まれた内容が強く反映されていると思います。

服部:日立は金融だけでなく、産業・流通、鉄道、ヘルスケア、エネルギー、水・環境といった裾野の広い事業体を持ち、その総合力で社会を変革する社会イノベーション事業を推進しています。そのため、様々な事業領域の現場で、お客様の課題や悩みを深く理解し、マルチステークホルダー・プロセスでの意思疎通や合意形成にもそのポテンシャルを発揮できる場面がたくさんあると考えています。

DXとGXという2つのTransformationのエンジンとなるのが「Lumada(ルマーダ)」です。これは、日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション/サービス/テクノロジーの総称です。金融BUとしても、その強みを活かすことが重要な使命と考えており、日立が全領域で蓄積してきたノウハウ、ソリューションをデジタルで掛け合わせるLumadaを武器に、金融機関のお客様の成長戦略を支えていきたいと考えています。

加治:これからの金融機関はDXとGXの双方で、今までにない新しい取り組みを進めていかなければなりません。しかし新しいチャレンジなのでノウハウがない。異業種連携を行う際に課題となる壁を乗り越える術がない。それに対してLumadaは、システムやプラットフォームといったデジタルの道具立てだけでなく、幅広い事業領域で培ってきたノウハウやソリューション、デザインシンキングなどの手法を柔軟に組み合わせることで、壁を乗り越え、新たな価値を発見し、実装できる。これは非常に大きなポイントだと思います。

異業種連携で価値を拡大する「金融DX」

―金融DXでは、具体的にどのような施策があるのでしょうか。

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服部:我々が提供しているソリューションは金融機関向けに留まらず、他業種との連携による適用領域の拡大が進んでいます。その一例となるのが、シニア層の社会参加を可視化、促進するスマホアプリ「社会参加のすゝめ」です。

超高齢社会である日本では、介護保険の給付費が年間10兆円を超えており、豊かで持続可能な社会を構築していく上で大きな課題です。日立は日本老年学的評価研究機構(JAGES機構)の20年にわたる調査結果から明らかとなった、「シニアの社会参加が活発であるほど要介護認定の割合が低い」という相関データに着目し、外出・行動状況の測定と見える化、そのデータに基づいた健康アドバイスを提供するアプリを、2022年6月から提供しています。まずは個人の利用者に楽しみながら社会参加のきっかけづくりをしていただき、シニア一人ひとりが自身に合った社会参加の方法を見つけて選択できるサービスの開発を目指していきます。現在、多くの企業や団体から、連携に向けたお話を頂いています。

もう1つが、IoTデータを用いた課金計算、決済手段、蓄積データの利活用などをお客様と協創する「IoT決済プラットフォームサービス(以下、IoT決済プラットフォーム)」です。我々は2019年に鉄道ビジネスユニット(鉄道BU)と連携し、イタリアの公共交通機関向けにデジタルチケッティングサービスの実証実験を行いました。その基盤となったのがIoT決済プラットフォームです。専用アプリがインストールされたスマホを持つだけで、乗客は紙のチケットやICカードを使わず自動的に料金を決済でき、よりシームレスで快適な移動を行うことができます。

図 異業種×金融DX「IoT決済プラットフォームサービス」

図 異業種×金融DX「IoT決済プラットフォームサービス」
「IoT決済プラットフォームサービス」は、IT×OT×Financeによる新たな価値の創出をコンセプトに、
IoTデータを用いた課金計算、決済手段、蓄積データの利活用等を顧客企業と協創するプラットフォームだ。
構築した課金モデルをマネタイズ/決済へとつなげることで、新規ビジネス創出の促進を支援する

また2022年3月からは長崎市で、ゼンリン様の地図データベースとIoT決済プラットフォーム、社会BUの「権利流通基盤」を利用したデジタルチケッティングなどのLumadaソリューションを組み合わせた「観光型MaaSサービス基盤」の実証実験を開始しました。観光による地域振興は地域経済の持続可能性を向上させる重要な施策の1つです。今後はこの実証実験で得られた成果を基に、各地域に寄り添った地域創生を支援していきます。

加治:どの取り組みも非常に興味深いですね。特にイタリアで行われたIoT決済プラットフォームの事例は、最初に鉄道BUが欧州市場に進出を果たし、金融BUが加わって鉄道も含めた公共交通機関に電子決済のサービスを持ち込む。今度はそこに社会BUが加わり、日本の地域創生にMaaSという形でフィードバックしている。顧客の課題解決に最適なソリューションを柔軟に拡大再生産できる好循環は、まさに業種や国境の壁を越えてデジタルイノベーションを創造できるLumadaならではの強みだと思いました。

服部:海外事例としては、ベトナムでのファイナンシャルインクルージョン(金融包摂)の取り組みがあります。ベトナムでは経済成長に伴い、都市部では利便性の高いサービスが拡大する一方、地方ではサービスを受けられる場所や種類が限定的で、受けられる社会サービスの格差が広がっています。そこで金融BUは2017年に三井住友銀行様との協創で、国営のベトナム郵便が提供する社会保障補助金や年金の支給業務の電子化を開始しました。

図 ファイナンシャルインクルージョンへの取り組み

図 ファイナンシャルインクルージョンへの取り組み
誰ひとり取り残されることなく金融サービスの恩恵を受けられる
ファイナンシャルインクルージョンへの関心が世界的に高まっている。
日立は地域格差の高いベトナムで、エンドユーザーとオペレーターをビデオ通話でつなぐことで
ローンの申込・契約などを場所を選ばず可能にする、新たな金融サービスの確立を支援している

ESG情報開示と投資のデジタルプラットフォームを開発中

―金融GXに関する取り組みもお聞かせください。

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服部:ご存じのように企業にとってカーボンニュートラルへの対応は喫緊の課題です。特にこれは2022年4月に東京証券取引所の市場が再編されて始まったプライム市場とも大きな関わりを持っています。プライム市場の上場企業にはTCFD*の提言に基づく情報開示が求められているからです。そこでは自社の温室効果ガス排出量となるScope1/Scope2だけでなく、事業活動に関連する他社の排出量Scope3も対象となっている。つまり金融機関は自社の企業価値を高めるために、融資対象のお客様の排出量も把握していかなければなりません。そこで日立の社会BUは、各企業の環境情報をトータルに可視化して多角的に集計・分析できるソリューション「EcoAssist-Enterprise-Light(以下、EcoAssist)」を提供しています。

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TCFD:気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)

図 金融GXへの取り組み「EcoAssist-Enterprise-Light」

図 金融GXへの取り組み「EcoAssist-Enterprise-Light」
日立の環境情報ソリューション「EcoAssist-Enterprise-Light」は、顧客の環境経営をトータルに見える化し、
分析・改善を支援する。導入すれば、東証プライム市場の上場企業に求められている気候変動関連の事業リスクについても、
ステークホルダーにタイムリーに開示することが可能となる

我々金融BUでは、このEcoAssistを金融機関のお客様に提供するとともに、2021年11月には三菱UFJフィナンシャルグループ様、三菱UFJ信託銀行様と脱炭素社会の実現に向けた企業支援に関する協業を開始しています。こうした取り組みは他の金融機関とそのお客様にも広がっていくことが予想されます。

また、2022年6月に発表された日本取引所グループ様による国内初のデジタル環境債「グリーン・デジタル・トラック・ボンド」の発行においても、各種環境データを記録・管理する基盤として、「サステナブル・ファイナンス・プラットフォーム」を活用いただいています。

今後も、金融機関、株主、機関投資家のESG情報開示を通じた対話の促進や企業価値の向上をサポートするプラットフォームの開発を進めていきます。

加治:日本の金融機関は今、SDGsやESGへ対応するメリットを強く意識しています。そのために重要な役割を果たすのが、EcoAssistのような環境経営に関わるすべての情報を見える化するプラットフォームなのです。これはマルチステークホルダー的な視点がなければ発案できないもので、日立が持つ幅広いバリューチェーンのノウハウと、Lumadaによるデジタル連携の仕組みがあるからこそ具現化できたのではないかと私は思います。

金融をベースに一歩先の未来を見据えたイノベーションを創出

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―今後、金融BUでは社会イノベーションの創出をどう支援していくのでしょうか。

服部:金融機関のお客様を取り巻く環境が激変する中、金融DXや金融GXの流れはますます加速していくでしょう。今後、超高齢社会、地域創生、脱炭素といった“デジタル&グリーン”の社会課題に金融機関のお客様が立ち向かう際には、ぜひ日立を協創のパートナーに指名していただきたい。金融サービスをベースとしながらも、さらに一歩先の未来を見据えたイノベーションの創出に、必ず私たちはお役に立てるはずです。強い自信と信念を持って、これからも事業を推進していきます。

加治:つい先日もこちらの「Lumada Innovatioun Hub Tokyo」に複数の金融機関のお客様にお集まりいただき、DXに向けたビジョンやミッションを考えるワークショップを実施しました。日本の金融機関の皆さんは本当にイノベーションの創出に真剣に取り組もうとされています。そのためには各界の専門家たちが、企業、業種や国境を越えてつながり、互いの発想をかき混ぜ、新しい何かを生み出し具体的なカタチにしていく環境が必要です。そうした“場”をリアルでもバーチャルでもいち早く提供してきた日立は、まさに世界の課題解決に貢献できる企業だと実感しています。私もこうした協創の取り組みを全力で進めていきたいと思います。

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本記事は日経ビジネス電子版 SPECIALに掲載されたものを転載したものです。
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