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社会貢献をめざし未開の分野を開拓。
業界を牽引する日立のチャレンジ

2023-03-31

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川口 洋平

株式会社日立製作所 Lumada Data Science Lab.

リーダー主任研究員

株式会社日立製作所が2020年4月に設立した「Lumada Data Science Lab.」(以下、LDSL)に集う一人ひとりに光をあてるインタビューシリーズ。今回話を聞いたのは、LDSLのリーダー主任研究員、川口洋平です。音響技術の研究を重ね、2つのソリューションを製品化し、第29回日本音響学会技術開発賞を受賞。活動は社内に留まらず、国際コンペティションの主催、機械稼動音データセットを無償公開するなど、業界を牽引する存在に。「すべての活動は戦略的につながっている」と話す川口に、受賞に至った技術の背景と研究の原動力を聞きました。

入社してから、どのような技術開発に携わってきましたか?

幅広い分野の研究やシステム開発に携わり、社会に生かしていきたいとの思いから2007年に日立に入社しました。初めはビデオ会議システムや携帯電話向けの音響処理開発を担当しましたね。雑音の中から話者の音声を拾い上げ、聞き取りやすくする技術の開発に携わっていました。

その後、2011年頃から監視カメラの画像検索、爆発物検知システム、半導体エッチング装置、水中ソナー、DNAシーケンサーなどで活用される信号処理・機械学習技術の開発に携わってきました。日立は非常に幅広い業界に精通していたため、入社前に思い描いていた多分野の研究や技術開発に関わり、多種多様な経験と知識を積むことができました。

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その中で2021年、日本音響学会が主催する「第29回 日本音響学会技術開発賞」を受賞されたとお聞きしました。どのような技術なのでしょうか。

この賞は、音響技術の振興を目的として平成5年に創設され、優れた音響技術を使った製品に対していただける賞です。私たちは、機械の異常を音を使って検知する2つの異音検知ソリューション「IoTデータモデリングサービス」と「設備点検自動化サービス」で賞をいただきました。

1つ目の「IoTデータモデリングサービス」では製品の検品時に、音の高さやタイミングから、製品不良を検知することができます。2つ目の「設備点検自動化サービス」では、レトロフィット無線センサーと呼ぶデバイスによって、ポンプやモーターなどから発せられる稼働音を監視し、異常を検知できます。

こういった異常は、これまで熟練の点検員、保守員の耳によって見つけられていました。そのノウハウをシステムに落とし込むことで属人化を防ぎ、非熟練者であっても機械の異常を検知できるソリューションを開発したのです。

これらのソリューション開発をする前に、元となる技術開発自体は2013年頃から進めていました。

早い段階から技術開発を進めていたのですね。

技術自体の種はあっても、製品化というのは一筋縄ではいきません。

そもそも技術開発に着手した2013年頃は、音に基づいて機械の異常を検知する技術分野そのものが世界的に確立されていませんでした。

正確に言えば、個別の機械に対する技術検討は各社内で小規模に行われていましたが、知見の共有はされていませんでした。それは、個別の機械に対して使える技術という認識だったため、いろいろな機械に汎用性高く適用できるとは思われていなかったからです。しかし、日立で多種多様な機械の事例を貯めるにつれ、徐々に異音検知のパターンが見え、「どうやら多様な機械に対して汎用化できる可能性がある」というのが分かってきました。この技術は今後、きっと多くのお客さまに必要とされるだろうと感じ、だからこそ、できるだけ早く汎用性のある製品として社会に届けたいと考えていました。

とはいえ、この技術はどのように役立つのかイメージが湧きづらく、どうしたら社内外に実現可能性を感じてもらえるのか頭を悩ませました。

この状況を打破し、少しでも早い社会実装をめざすためには、ゲームチェンジが必要でした。つまり、正攻法的に精度向上の研究だけを続けるのではなく、まずは異音検知という研究分野を世界で確立し、社内外に分野を認知してもらうことで「このように役に立てられる」というコンセンサスを得ようと動き始めたのです。

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分野確立のために、何をされたのでしょうか?

最初に、社内外での共通言語を創出するため、異音検知のデータセットやベースラインプログラムを無償公開しました。特にデータセットの公開は、社外秘の情報となる評価結果を気兼ねせず使える実データを作ったことで、異音検知でどのような結果がでるかを社内外で共有する重要な役割を担ってくれました。また、ベースラインプログラムの公開も、技術をオープン化することで「異音検知とはどんな研究なのか」を定義し、認識を広める目的がありました。共通言語が生まれたことで分野が前進し、新しい技術も生まれ、研究が拡大していきました。

さらに、音響認識の国際コンペティション「DCASE2020-2023 Challenge」において、異常音検知タスク (Task 2) を企画・主催しました。いろいろな機械でも対応できる汎用性の高い異音検知システム開発のムーブメントを目論んだのです。国際コンペティションの主催で、分野の認知度が高まると目論みましたし、世界中の多くの研究者が参加し、それぞれの方が切磋琢磨することで、多くの研究成果が生み出され、知識が共有されるというエコシステムが発生すると期待しました。

この2つは狙い通りに進みました。これらは、日立だからこそできたのだと思います。データセット公開は社外からも注目を集め、実データを作ったかいがあったと実感しました。多分野・多業種に精通している日立ならではのポジションや技術力を生かすことで、ここまで期待通りに進められました。
これらの活動で社内外の気運を高めつつ事業部の協力を得て、先の2つのソリューションを製品化してもらい、2021年の受賞に至りました。

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川口さんは、なぜ日立で研究を続けるのでしょうか。

私にとって日立は、知的好奇心が掻き立てられる“面白い”会社です。多分野・多業種に事業展開しているからこそ、毎日のように「こんな製品やサービスがあるのか」「こんな面白い案件や顧客ニーズがあるのか」と、新たな出会いと驚きの連続。日立にいれば、ワクワクし続けられますし、“面白さ”が原動力だと思いますね。

今後の挑戦について教えてください。

今後も引き続き、日立が開発する技術で社会貢献していきたいと思っています。

今回お話しした異音検知システムのように、これまで人が行っていたことや手動で対応していたことを自動化するのは、システムの維持がミスなくスムーズにできるようになる一種の社会貢献だと思います。
今後はさらに、システムの維持だけでなく、お客さまのトップライン向上に資するとともに、お客さまの成長にもコミットしていきたいと考えています。新しい価値提供をするためには、日立という会社もますます成長しなければなりません。従来と同じことを継続するだけでなく、それ以上に何がどれだけお客さまや、お客さまのお客さま、そしてステークホルダーにとっての価値提供につながるかを多角的に検討する必要があります。どんなゲームチェンジをすれば社内外があっと驚くイノベーションが起こせるか。それを戦略的に考え、実現することの一端を私自身担っていきたいですね。

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