 |
 |
ブランドは第5の経営資源。ビジネスモデルを変革へ |
日立製作所が、経済のグローバル化、ボーダーレス化の荒波を乗り越えようと、果敢に経営改革の舵を切っている。昨年は6月に取締役を30人から14人に削減、意思決定を明確かつスピーディーにし、11月には連結ベースの中期経営計画を策定、2002年度の連結株主資本利益率(ROE)の目標を8%とするなどの内容を公表した。そして今年4月、ブランドマネジメントの展開に乗り出した。いずれも、地球規模での熾烈な競争を乗り越え、情報通信産業での勝者になるための戦略である。
一般に、日立のイメージといえば「技術力」であり「堅実性」だろう。だがそれは、従来のように優位性や美点を物語るものではなくなった。いまや消費者は「機能がいいのは当たり前。問題はデザインがいいか、サービスがいいかだ」というように、選択の優先順位を変更しているからだ。また、環境問題やITの進展もある。ITの道具であるパソコンでいえば、ハードよりもソフトが重要になっている。そのような潮流変化への対応が、ブランドマネジメント導入の背景にある。
日立のブランドマネジメントの考え方
|
現在、米国の企業などでは「ヒト、モノ、カネを経営の基本的な3資源とすれば、第4資源は情報であり、第5の資源はブランドである」という認識が浸透している。そもそもブランドは、他と違うという識別の手段から出発し、技術や品質を裏打ちとする信頼の目印となり、さらに価値を象徴するものに進化してきた。価値の象徴としては、いわゆる一流品を想い浮かべれば容易に理解されるだろう。それがいま、企業そのものの価値を凝縮したものと受け止められているわけだ。
つまり、企業価値としてのブランドは、製品やサービスの品質、経営の姿勢、社会との関係などすべて包含したものなのだが、しかし一体、それは誰に対してなのか。最近のROE重視の経営は、株主つまり投資家尊重の姿勢である。だが、顧客や社員にとっての価値も無視できない。顧客が価値なしとみれば買うのを控えるし、社員が価値なしとみれば勤労意欲は低下、新製品や新事業は生まれて来ない。そしてそれらは株主にとっての魅力低減をもたらすという循環になる。
 |
 |
「技術性」と「堅実性」は保持し、感性や挑戦力を付加 |
日立がブランドマネジメントの展開に乗り出したのは、このような認識によるものとみられる。だが具体的には、どのようなイメージを築き上げようとしているのだろうか。多分それは「人間性」であり「挑戦力」だろう。従来からの「技術力」と「堅実性」を基盤とし、「ヒューマン」な社風や「チャレンジ」する姿勢を上積みするのである。エコロジーの時代、パラダイムシフトの時代に、フロンティアとしての存在をアピールするものといってもいい。
だが、それを言葉で語るだけで信じてもらうのは無理というものだろう。問題は、いかなる行動をし、成果を生み出すかである。その行動計画となるのが「i.e.HITACHIプラン」、中期経営計画である。かいつまんでいえば、情報通信(i)とエレクトロニクス(e)を中核分野として、そこに資金や人材を重点配分する一方、重電機器や産業機械などでは不採算品目を削減し、収益体質を改善しようというものだ。それも、本社だけでなく、グループを挙げて行うのである。
いまやIT革命の時代である。話題のEC(電子商取引)でいえば、顧客企業にサーバーを提供し、それを管理・運用するデータセンター事業が伸びるのは間違いない。日立は、その安全な運用に不可欠な電子認証などのセキュリティー技術で先行しているし、ネットビジネスプラットホーム技術も確立している。世界の最先端を行く半導体技術や液晶ディスプレー技術もある。それらの「i」と「e」の分野でビジネスモデルの変革も成し遂げつつ、より魅力ある企業に変身しようというのだ。
その変身をアピールする格好の事業が、顧客の課題を解決するソリューションビジネスである。企業は情報投資に力を入れているが、システムには、業種や業態によって微妙な違いが出る。その個々のニーズにきめ細かく応えて行くことが、ソリューションビジネスで成功する要件ともいえる。それは技術の先端性を誇示するのでなく、ニーズを満足させる技術の使い方を編み出すことで価値を生み出すわけだ。いわばCS(顧客満足)重視、マーケットインの思想による事業展開である。
日立にとって、ブランドマネジメントの展開は、ビジネスモデル変革のためのエンジンのひとつといえる。それが社内の求心力を強化し、社会の期待感を醸成するからだ。それらのシナジー効果によって、系列とか株式の持ち合い、また年功序列などの旧来の日本的経営から抜け出し、グローバル資本主義時代のエクセレントカンパニーへ突き進むのが、ブランドマネジメントの本当の目的である。 その意味で、いつ人間が肌で感じられ、挑戦性が溢れ出ている企業イメージを獲得できるのか、今後の展開が注目される。