
診断情報と経過を時系列に一覧表示するハイパーフローシート
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わが国最大級の病院での大規模なプロジェクト
東京女子医科大学病院は,1日の外来患者数4,000〜5,000人という,わが国最大級で,世界的に見ても屈指の規模を誇る病院です。それほどの規模に加え,作業期間もわずか1年強(2002年4月から2003年7月まで)しかないことから,電子カルテシステムの導入は簡単ではありませんでした。今回のプロジェクトでは,特に,「標準化対応」,「三原則対応」,それに「信頼性確保」に努めました。
「標準化対応」とは,厚生労働省から認定された医療情報のためのデータ交換標準規格“HL7(Health Level 7)”や,医用デジタル画像と通信に関する標準規格“DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)”の採用を意味しています。具体的には,HL7で患者情報・オーダー情報・実施情報・検査結果などが電子カルテシステムと部門システム間でやり取りされ,検査部門では,受け取った情報をDICOMのサービスクラスであるMWM(Modality Worklist Management)とMPPS(Modality Performed Procedure Step)を利用して,モダリティ(検査機器)と通信します。すべてのモダリティを含むシステムがシームレスに連携することで,患者番号などの誤入力がなくなるとともに,患者情報・オーダー情報・画像を含む検査結果などが有機的に結び付きます。
また,標準化があまり進んでいないレポートなどの文書フォーマットについては,仕様が公開されているPDF(Portable Document Format)やXML(Extensible Markup Language)を採用しました。
次に「三原則対応」についてですが,「真正性」については本人認証や改ざん防止といった基本機能に加え,システム間での整合性を確保するために,NTP(Network Time Protocol)による時刻の同期合わせもしています。「見読性」については仕様が公開されているPDFとXMLを採用することで,「保存性」については更新系システムと独立した形で参照系システムを構築することでそれぞれ対応しました。
最後の「信頼性確保」については,企業の基幹システムと同様に,ノンストップでの稼動が求められています。特に電子カルテサーバはわが国最大規模ということもあり,膨大なトランザクション(10万件/h)とデータ(6Gバイト/d)が発生します。このトランザクションをUNIX*サーバ1台(ハードウェアパーティションによるクラスタ構成)で処理できるようにしたことで,信頼性の高い,しかもTCO(Total Cost of Ownership)を抑えたシステムを実現しました。さらに,万一のサーバ障害に備えてカルテ参照専用システム(ロードバランシングによる複数台構成)を構築することにより,24時間診療情報の提供を可能にしました。部門システムについても,基本的にサーバを二重化しています。
安心生活の基盤である医療へ,情報システムの面から貢献
電子カルテシステム導入による最大の利点は,情報の共有だと考えています。紙の書類では検索に時間がかかるうえ,数か所で同時に参照することも不可能ですが,電子化,データベース化されていれば,たとえ他の診療科の情報であっても短時間で参照できます。情報伝達も迅速かつ正確であるうえ,院内での情報オープン化により,運用する側の意識改革も図れ,いっそう安全で快適な医療の実現につながると期待できます。
東京女子医科大学病院のシステムは,第一期としてまず外来部門に,第二期として病棟部門に適用を進めています。今後は,物品消費の管理や患者さんの本人照合など,リスクマネジメントを考慮した機能も拡充していきます。
さらに第三期には,経営支援システムも提供し,総合医療情報システムを形成する計画です。今後は医療機関にも一般企業と同様の経営概念が求められるようになると予想され,そうした部分でも,日立製作所の技術やノウハウが生かせると考えています。
今回の事例をきっかけに病院単位での電子カルテの導入が進み,それが将来の地域医療連携につながります。その実現までには,セキュリティの確保や膨大なデータの管理といった数多くの課題がありますが,その一つ一つに対応していくことで,情報システムの面から,安心と健康を支える医療分野のいっそうの発展に貢献していきたいと考えています。
*UNIX |
X/Open Company Limited がライセンスしている米国ならびに他の国における登録録商標である。 |
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