本文へジャンプ

ミドルウェア

uVALUE 実業×IT

Hitachi

※「株式会社リクルート キーマンズネット2007/09/18より転載」

製品コンセプト INSIDE REPORT その背景を探る 〜日立製作所が自社開発データベース製品を提供する理由とは?〜「高信頼データベースがIT社会の根幹」という強い信念

IT化が進む現代社会では、わずかなシステムのトラブルも許されない。例えば、24時間稼働が求められる金融機関や各種社会インフラなどのシステムでは、"当たり前のように"確実に動作することが求められている。高度な要求を確実にこなす――このような社会基盤の実現は、実は高信頼の「データベース」の存在抜きには語れないのだ。

「データベースには、今後もますます高性能・高信頼、ノンストップ運用、顧客サポート能力が問われることになる」。そう語るのは日立製作所 ソフトウェア事業部の土屋宏嘉氏。今回は、多くの社会基盤とも密接なつながりを持つ日立製作所のデータベース「HiRDB」の開発の背景とともに、今日のデータベースのあり方から今後の展望までをうかがった。
(取材・キーマンズネット)


――現在、データベースは企業や官公庁をはじめとして、様々な場所で幅広く利用されているように思います。その中にあって、御社が開発したデータベース「HiRDB」は、1994年のリリース以降、信頼性において高い評価を得ているとうかがっています。御社がなぜデータベースの自社開発に至ったのかと、これまでの実績を教えて下さい。

確かに、データベースはITの根幹を支える上で重要なものです。また、生活に必要なインフラ――例えば金融機関、通信や各種発券システムなどとも関係が深いものです。ですから、データベースは24時間の絶え間ない業務に対応したり、故障することなく動いたりと、高いレベルの要望をクリアしなければなりません。

現在、「HiRDB」はこうした様々なニーズに応えた結果、多くのユーザから高い評価を得てきましたが、それは、私たちがデータベースに取り組んできた歴史が評価されたものとも言えます。そもそも、日立製作所のデータベース製品開発は1970年代までさかのぼります。当時、メインフレームのシステム構築などを行っていた中で、「データを管理するしくみ」の重要性を感じ、データベースの製品開発がスタートしました。

高い信頼性が求められるメインフレーム上で稼働するデータベースですので、何があっても「止めない」という設計思想に基づき開発を行ってきました。その後、オープンシステムでも高信頼システムを構築したいという要望が多くなり、そのニーズに応えて「HiRDB」が誕生するわけですが、メインフレーム時代から培ってきた、「止めない」という思想をしっかり継承しています。その結果、下図(図1)のように、ミッションクリティカル分野において豊富な実績を残すことができたのです。

図1:HiRDBの主な導入実績

証券取引所

株式売買システム

銀行

営業店印影データベース
営業店システム
情報系システム

損害保険会社

保険代理店データベース

電話会社

ゲートウェイシステム

官公庁

電子申告システム
ペーパレスシステム

自治体

戸籍データベース
介護保険データベース

鉄道会社

発券、座席予約データベース

医療

電子カルテデータベース

電力会社

配電総合オンラインシステム
営配システム

鉄鋼会社

新倉庫システム



など多数


▲このページの先頭へ




――具体的には、これまでどのような要望や事例がありましたか?

やはり、多くのお客様が求めるのは、「高性能・高信頼」「ノンストップ運用」「サポートの充実」の3つです。サポート面では、やはりすぐ近くに開発者がいるということが、お客様にとって大きな安心につながっています。しかし、「高性能・高信頼」「ノンストップ運用」の2点に関しては、技術的にいくつもの課題がありました。例えばお客様から「ストレスなく、障害なく動いてほしい!」「24時間365日システムを止めたくない!」という要望があり、こういったニーズに応えていくためには、これらの技術的な課題を乗り越えなくてはならないのです。

そこで、自社開発であることが必要不可欠なわけです。つまり、製品をどう作り直せば、あるいは改良すれば実現に近づくか、という予測がある程度は立つからです。

実際の例を挙げますと、ある証券売買システムのケースです。証券取引の操作に"遅延"は許されませんし、システムが止まるなんてもってのほかです。また、ある小売業の受発注システムのケースですと、オンラインストアへのアクセスを止めずにバッチ処理を行う――今では24時間オンラインでの運用というのは当たり前のような話ですが、少し昔は実現可能とはなかなか考えられませんでした。

これらを実現するためにいくつもの技術的な課題を乗り越えた結果、この2つのケースのように導入後にトラブル発生もなく、ストレスのない運用が可能なシステムを実現することができました。こうして考えると、難しい要望でも1つひとつ乗り越えてきて、その積み重ねによって製品自体も随分と進化してきたように感じます。


▲このページの先頭へ



――先述の「高性能・高信頼」「ノンストップ運用」の様な高いレベルの要望をクリアするための、「HiRDB」ならではの機能とはどのようなものがあるのでしょうか?

まず、「HiRDB」というデータベースのアーキテクチャとして、サーバを増設することでリニアに性能を上げられるShared Nothing方式を採用しています。この方式は、サーバの台数に応じて性能を向上させられるスケーラビリティの高さが特長です。この特長により、大規模なシステムへの対応はもちろん、スモールスタートして、扱うデータ量が増えた場合にはサーバを増設して対応するという、柔軟な使い方も可能です。

下図(図2)ではShared Nothing方式と、ほかのいくつかのデータベースで採用されているShared Disk方式を比較しています。データベースはシステムの根幹であり、長期間使い続けるものですので、データ量の変化にも柔軟に対応できる拡張性を備えたShared Nothing方式の方が適していると考えています。

図2:Shared Nothing方式とShared Disk方式の違い

クリックして拡大

――では次に、「高信頼」という部分で、障害が発生した場合にはどのように対処するのでしょうか?

「HiRDB」の可用性・信頼性を支える機能の1つが「高速"系"切り替え」です。サーバに何らかの障害が発生した場合に、すばやく実行系から待機系のサーバに切り替わる、という機能です。また、系を切り替えている最中にもほかのアクティブなサーバがあれば稼働しますので、実質的なダウンタイムはゼロになります。ダウンタイムゼロは、先ほど説明したShared Nothing方式の利点とも言えますね。

なぜ、このようなことが可能になったのかというと、自社製のクラスタソフトウェア「HAモニタ」との連携で、高速で障害検知ができることが挙げられます。この技術が可能になるのも、実は自社開発ならではのメリットなのです。通常、数分は要する系切り替えが、数秒オーダでできるようになることのメリットは大きいです。

図3:高速系切り替え

クリックして拡大

――先ほどの、受発注システムの例のように、バッチ運用とアクセスを並行して行う際にはどのような機能が使われているのでしょうか。

「HiRDB」では、ストレージの技術を使い、マスタのデータを瞬時に複製し、複製側のデータとマスタのデータを並行運用できる「インナレプリカ機能」を搭載しています。これは、オンラインを実行したまま、バッチやデータベースのメンテナンスが可能になる機能です。例えば、オンラインストアのようなものをイメージして下さい。オンラインショッピングの利用者が絶えずいるにもかかわらず、毎日0時から朝8時にかけてバッチ処理しなければならないというケースです。下の図4を使って説明します。

通常の場合ですと、ショッピング利用者はマスタDBにアクセスしています。それが深夜0時になると、マスタDBが複製されてレプリカDBが作られるのです。すると、利用者は、自動的にレプリカDBに切り替えられてショッピングを行うことになります。利用者は、特に切り替えられていることを意識することはありません。ここで更新されたデータはレプリカDBに反映されています。

一方で管理者は、利用者がレプリカDBにアクセスしている間、マスタDBにアクセスしてバッチ処理を行います。この間、レプリカDBにはバッチ処理の負荷はかかりませんので、オンライン性能を維持することができます。また一方、マスタDBは、スクリーンショットみたいなもので、複製した時点から更新されませんので、日次処理が可能になるというわけです。

翌朝8時にはレプリカDBの更新差分はマスタDBに反映され、利用者はまた、マスタDBにアクセスするというしくみです。このような機能により、24時間連続ノンストップ運用が実現できるのです。

図4:インナレプリカ機能によるオンライン業務とバッチ処理の同時実行

クリックして拡大

――ほかにも「HiRDB」には特長的な機能はありますか?

近年、地震などの広域災害が発生し、データセンタが被害を受けることで基幹業務がストップしてしまっては困りますから、遠隔地にデータを転送するディザスタリカバリのニーズが高まっています。データの転送方式には、「同期」と「非同期」の2種類ありますが、それぞれ一長一短あります。

同期方式は、災害時にデータ損失が生じないようにデータを転送することができますが、その転送の負荷によりメインサイトの性能は低下します。非同期方式ですと、メインサイトの性能は維持できますが、災害発生時にデータ損失の可能性が生じる、ということになります。

そこで、日立製作所では、2003年から2007年にかけて、ストレージ・データベース融合技術開発を行いました(※)。その成果を製品化した機能が、遠距離バックアップを行う場合であっても、メインサイトの性能をなるべく維持しながら、災害時のデータ損失をゼロにする、同期方式と非同期方式の長所を組み合わせた「ハイブリッド方式」です。このような、産学共同による先進的な研究の成果が「HiRDB」には搭載されています。

※文部科学省が実施するリーディングプロジェクト「e-Society基盤ソフトウェアの総合開発」のストレージ・データベース融合技術(東大、日立)で技術開発。

図5:ディザスタリカバリのための、データ転送方式の比較

クリックして拡大


▲このページの先頭へ



――「HiRDB」が数多くの便利な機能を持っていることは分かりましたが、運用の際に難しい操作が必要ですと、管理者にとって負担になってしまうと思うのですが……?

もちろん、データベース自体は簡単な構造のものではありませんが、管理者の立場に立って、様々な機能をより便利に扱えるようなインタフェースの開発が進んできています。「HiRDB」の場合は、専用クライアントソフトからだけでなくWebブラウザでも操作できるGUIを搭載し、運用管理が容易に行えるようになっています。運用を容易にする機能の例を1つ紹介しましょう。データベースの性能を保つためには、管理者は断片化されたデータを定期的に再編成しなければなりません。そのタイミングを計るのが管理者にとっては難しいところなのですが、「HiRDB」は再編成すべき時期を予測したり、対処方法を提案したりする機能を搭載しています。例えば、経験の浅い管理者でも、状況に応じて適切に、しかもGUIで簡単に、断片化を解消できます。

――なるほど。それは管理者にとってうれしい機能ですね。「自社開発」であることのメリットも十分理解しましたが、他社製のサーバなどには対応しているのでしょうか?

「HiRDB」はオープンインタフェースを採用していますので、業界標準インタフェースに対応し、他社製のサーバでも問題なく使用できます。また、TPモニタやAPサーバともスムーズに連携できますし、デファクトスタンダードなクライアントツールにも対応、SQL(リレーショナル言語)の国際標準化にも貢献している製品です。将来的にも安心して使えるデータベースでありたい――そういう観点からも開発された製品なのです。


▲このページの先頭へ




――最後に、「HiRDB」の今後の展望と、これからのデータベースに求められるものを教えていただけますでしょうか?

内部統制や情報管理が重要視されている今日、よりセキュリティ面に取り組む必要があると考えています。「HiRDB」は、改ざん防止機能が可能になるWORM(Write Once Read Many)機能を搭載。電子カルテなど、長期保管が必要で、なおかつ不正アクセスから守らなければならない場合に有効な機能です。こうしたセキュリティ機能を強化するとともに、「HiRDB」は国際的な情報セキュリティ評価基準「ISO15408」を取得しています。

今後は音声、画像、動画といった多様なデータを、より自由にハンドリングできるデータベースが求められています。そのような動向の中で注目されているのが、XMLの管理ができるデータベースです。先日、「HiRDB」に、XMLをそのままデータベースに格納できる機能がリリースされました。標準的なXMLの言語であるXQueryを含むSQL/XML(SQLの標準規格)にも対応したもので、今後の活用が期待される製品です。

先ほど、「HiRDB」はオープンインタフェース製品とお話しましたが、このXML管理をできるようにするというのも、その考え方に基づいたものです。このように、時代が求める形で開発することがユーザのためにも、ひいては社会基盤を支える上でも大切なのではないでしょうか。


▲このページの先頭へ




――今回のインタビューを通じて、社会基盤を支える上でのデータベースの重要性を再認識した。同時に感じたのが、技術の進歩が社会貢献につながると確信して開発してきた日立製作所の強い信念だ。多くのユーザから高い評価を得ている背景には、自社開発製品を提供することに誇りを持っている日立製作所の多くの熱い開発者魂が隠されているのだろう。(取材・キーマンズネット)


▲このページの先頭へ


株式会社日立製作所

ソフトウェア事業部
ネットワークソフトウェア本部
DB設計部 部長

土屋 宏嘉氏

「HiRDB」及びメインフレーム向けデータベース製品の開発を統括。日立製作所ソフトウェア事業部で自衛消防隊の隊長も務めている。



関連サイト