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株式会社ノークリサーチ

前回、前々回の二回にわたって「グリーンITとは何か?」「中堅・中小企業が身近に実践できるグリーンIT対策にはどのようなものがあるか?」といったことについて紹介してきた。
京都議定書に代表される国際的な動きや省エネルギー法改正などの国内法制度の変化を考えれば、グリーンITは企業にとって不可避の取り組みといえる。
しかしながら、省電力化という目的だけのために情報処理システムを更新することは、中堅・中小企業にとっては費用対効果の観点から負担が重いといわざるを得ない。

そこで今回は少し視点を変えて見ることにする。
実はグリーンITを直接意識しない他の情報処理システム投資の中にも、結果的に省電力化を実現できるものが数多く存在するのである。
具体的には「仮想化技術」「シンクライアント」「サーバ統合」といったものが挙げられる。
これらとグリーンITとの関連を見ていくことにしよう。

第10回 グリーンITとは何か?
グリーンITの定義や背景、関連する法制度について紹介する
第11回 中堅・中小企業にとってのグリーンITソリューション
日立製作所や各団体の動きを踏まえた上で、中堅・中小企業にとって現実味のある実践可能な対策について紹介する
第12回 グリーンITとその周辺の動き
グリーンITと他のIT技術との関連及び今後の展望について紹介する

仮想化技術とグリーンITの関係

「仮想化技術」とは情報機器という物理的な筐体とその筐体内で動作するシステムとを切り離す技術のことを指す。

従来は一台のサーバ筐体上では一つのOSが稼動するのが当たり前であった。しかし、仮想化技術を使えば一台のサーバ筐体上でWindows 2003 ServerとLinuxを独立した状態で同時に稼動させることができる。あたかも一台で二台分の働きをしているかのように見えるわけである。

日立製作所も仮想化技術「Virtage」を独自開発し、高い処理効率の仮想化環境を実現している。

ネットワークのスイッチやルータにおいても仮想化技術は活用されている。
営業部門用と経理部門用でLANを分けるために二台のルータを利用しているというケースは多いだろう。こうした場合も仮想化に対応したルータを用い、論理的にLAN区画を二つ作成することで二台を一台にまとめることができる。

仮想化技術を活用することによって、管理すべきサーバ筐体やネットワーク機器の台数が減る。その結果運用管理の負担を減らすことができる。

サーバ筐体からシステムを切り離すことができる点も大きなメリットである。仮想化されたシステムはサーバ筐体間をネットワークを介して移動させることができる。
もしあるサーバ筐体が故障した場合には、新しいサーバ筐体を用意し、そこへシステムを移動させれば良い。従来であれば新しいサーバ筐体にOSを再インストールし、さらにアプリケーションを導入するという手間のかかる手順を踏むことになるだろう。

サーバ筐体やネットワーク機器の台数が減れば、当然ながら省電力化につながる。
つまり、仮想化技術を採用することは運用管理負荷を軽減したり、障害対策を強化できるだけでなく、同時にグリーンITにも有効な対策となるわけである。

下記グラフが示すように仮想化技術に関する中堅・中小企業の意識はまだ様子見状態である。
「仮想化は知らない」という回答が25.3%、「利用予定はない」という回答が43.0%に上っている。

しかし、これは中堅・中小企業にとって仮想化技術が適していないということではなく、まだ啓蒙の初期段階にあると見るべきである。 今後、中堅・中小向けの仮想化ソリューションが登場することによって、認知度も向上していくと予想される。

グラフ1:中堅・中小企業における仮想化技術導入状況

シンクライアントとグリーンITの関係

「シンクライアント」とは従来クライアントPC上で行っていた処理をサーバ上で実行するなどの手段によって、クライアントPC上にデータを残さない技術のことを指す。 クライアントPCのキーボード/マウス/モニタだけが手元に残り、それ以外のCPUやハードディスクといった部分がサーバ上へ移ってしまった状態をイメージするとわかりやすい。

実現方式には様々なものがあるが、現時点で最も普及している方式はそうした形態をとるものが多い。日立製作所でも「セキュアクライアントソリューション」という名称でシンクライアントを提供している。

シンクライアントがもたらす最大のメリットは情報漏洩防止である。

近年、Winnyなどによる個人情報の漏洩事故が相次いでいる。クライアントPC上にデータを残さないシンクライアントであれば、そもそも漏洩するデータそのものが存在しない。また、個々のユーザが勝手にアプリケーションをインストールできないため、ソフトウェア資産管理も容易になる。

シンクライアントとグリーンITはどう関わっているのだろうか?

昨今ではクライアントPCの性能も目覚しく向上しているが、通常の事務処理を行うには性能が高すぎるケースも出てきている。つまり、それだけ無駄な電力を消費していることになる。
シンクライアントであれば、個々のユーザに割り当てる処理性能を調節できるため、それだけ消費電力を節約することができる。
さらにクライアントPCの電源管理をリモートで一括管理することも可能である。このようにシンクライアントはクライアントPCの省電力化という点でグリーンITにも大きな効果が期待できる。

中堅・中小企業におけるシンクライアント導入状況を見てみることにしよう。

「シンクライアントは知らない」が26.0%、「導入予定はない」が47.9%と現時点ではまだ導入に積極的な状況とはいえない。

主たる要因はコストにある。現在主流となっているシンクライアントの実現方式では既存のクライアントPCを新しい機器に買い換える必要がある。クライアントPC台数が非常に多い大企業では投資対効果が見込めるが、中堅・中小企業にとっては簡単に手は出せないソリューションであるのが現実である。

しかし、最近ではUSBメモリなどを用いて既存のクライアントPCをシンクライアント化する手段も提供され始めている。今後、こうしたより低コストの実現手段が訴求されてくれば、中堅・中小企業におけるシンクライアント導入も進んでいくと予想される。

グラフ2:中堅・中小企業におけるシンクライアントの活用状況

サーバ統合とグリーンITの関係

「サーバ統合」とはブレードに代表されるように複数のサーバ筐体を物理的に一つにまとめる手法を指す。
複数のタワー型サーバやラック型サーバをブレードにまとめることで、サーバ運用管理が容易になる。分散されたサーバを一箇所にまとめられれば、セキュリティ対策も講じやすい。さらに電源やファンといった部品が共通化されることで、省電力効果も期待できる。
見た目にもわかりやすいため、グリーンIT対策の手段としても最も一般的なものになっている。

こうしたわかりやすさを反映して、ブレードの導入に関しては中堅・中小企業においても順調に普及し始めており、11.5%の企業が「新規サーバとして導入済み」、8.0%が「既存サーバをブレードへ移行済み」と回答している。

グリーンITのためだけにブレードを導入するのは投資対効果の面で割高感が否めない。
しかし、社内に乱立したタワー型サーバを一箇所にまとめることで、運用管理負荷軽減やセキュリティ強化を実現するという明確な目的があれば、ブレードの導入は複数の目的を達成するための有力な手段であるといえる。

グラフ3:中堅・中小企業におけるブレード導入状況

トータル的な投資戦略の一環としてグリーンITを捉えることが重要

このようにグリーンITはそれだけのために投資をするという考え方ではどうしてもコスト高になってしまう。

上記に述べた「サーバ管理負荷軽減」「クライアントPC管理負荷軽減」「情報漏洩対策」「障害対策」「ソフトウェア資産管理」といった課題は中堅・中小企業にも当てはまる。
グリーンITを考える際、単に省電力化だけでなく、こうした情報処理システム全体が長年抱えてきた課題を見つめなおし、それらへの対策を講じた結果として自然にグリーンITも実現できているという姿が理想的である。

情報処理システムを取り巻く環境は近年大きく変化してきている。
単一の課題に対して単一のソリューションを適用するのではなく、情報収集を怠ることなくトータルな投資戦略を考えていくことがグリーンIT対策を真に成功させる秘訣といえるだろう。

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