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Hitachi

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2011年3月10日

鉛フリー錫めっきにおけるウィスカ発生現象のシミュレーション技術を開発

環境対応電気・電子機器の信頼性向上に寄与

  株式会社日立製作所(執行役社長 : 中西 宏明/以下、日立)は、このたび、ウィスカの発生現象を再現するシミュレーション技術を開発しました。ウィスカは、鉛を含まない錫めっき上に発生するひげ状の金属結晶で、成長を続けると回路が短絡し、電気・電子機器の誤動作を引き起こす恐れがあります。本技術は、電気・電子機器の部品や配線部の外装めっきなどに用いられる鉛フリー錫めっきの詳細な応力分布をシミュレーションで評価することによって、応力で移動する錫原子が集まって発生するウィスカの発生現象を再現することができます。従来、ウィスカ耐性の確認には長期間の信頼性試験を要していましたが、本技術により短期間で予測することが可能です。今後、本技術を用いて、鉛フリーの錫めっきやはんだなどの環境対応材料が用いられる電気・電子機器の高信頼化に寄与していきます。

  2006年7月1日に施行されたRoHS指令*1で、電気・電子機器に用いる鉛の使用が制限されたことにより、機器の部品や配線部の外装に用いられるめっきにおいても、鉛を使わない鉛フリー錫めっきへの代替が急速に進んでいます。一方、鉛フリーの錫めっきにはウィスカが発生し、回路の短絡や電気・電子機器の誤動作をひき起こす恐れがあるため、電気・電子機器の部品や配線部の外装めっきには、ウィスカ発生を防ぐために鉛が添加されていました。しかしRoHS指令の施行などを背景に、環境負荷低減に寄与する鉛フリー錫めっきへのニーズが高まっており、これまで明らかにされていなかった錫めっきに生じるウィスカの発生メカニズムを解明し、その抑制技術を開発することが求められています。
  そこで、日立はルネサス エレクトロニクス株式会社と共同で、鉛フリー錫めっき上のウィスカ発生現象を再現するシミュレーション技術を開発しました。本研究開発は、社会インフラを担う電気・電子機器の環境負荷低減と高信頼性の両立を目指したものであり、今後、製品適用に向けた検討を進めていきます。

  なお、本技術は横浜国立大学で開催されている社団法人エレクトロニクス実装学会主催「第25回春季講演大会」において本日発表する予定です。

開発技術について

  本開発技術の手順は、まず、鉛フリー錫めっきの任意の範囲で各結晶粒の形状と結晶方位を、後方散乱電子回折像法(EBSP法*2)を用いて測定します。次に、測定した各結晶粒の形状と結晶方位を反映した有限要素解析*3モデルを作成します。このとき、錫結晶の弾性率と線膨張係数の異方性(方向によって異なること)を考慮します。解析モデルに温度変化などの負荷条件を与え、錫めっき内の詳細な応力分布を求めます。そして、分子動力学法*4で算出した錫原子の拡散係数(応力による移動のしやすさ)を用いて、求めた応力分布における錫原子の移動を計算し、錫原子の集中度からウィスカの発生箇所を予測します。錫原子は圧縮応力が高いところから低いところへ移動しますので、応力分布からもウィスカの発生箇所を予測できることを明らかにしました。
  錫めっきの各結晶粒の形状や結晶方位を制御することで、ウィスカを抑制することができます。測定とシミュレーションに要する時間は数日程度ですが、信頼性試験は通常1ヶ月以上かかりますので、大幅な期間短縮、コスト低減が可能です。
  今回開発したシミュレーション技術を、試作めっきの温度サイクル試験で初期のウィスカが発生した領域の評価に適用しました。この結果、シミュレーションにより求めた応力分布および錫原子の集中度から、ウィスカの発生現象が再現できることを確認しました。

開発技術の確認結果

[画像]開発技術の確認結果

*1
Restriction of the Use of Certain Hazardous Substances in Electrical and Electronic Equipmentの略でヨーロッパにおける電気・電子機器中の特定有害物質使用制限指令。
*2
電子線照射時に試料から発生する回折像を用いて、結晶方位を測定する方法。ミクロンオーダーの領域にある多数の結晶の方位を一度に測定することができる。
*3
構造解析の一般的な手法で、対象となる物体を小さな領域に分割して解析する方法。複雑な形状の物体を単純な形に分解して分析し、最後に全部を組み合わせることにより、複雑な形状をした物体の変形や応力、歪が計算できる。
*4
二つの原子の間隔と原子間の働く力の関係をモデル化して、多数の原子の運動を計算する方法。実験が困難なナノレベルの物性を予測することができる。

以上

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