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2010年12月7日

酸化物半導体TFTで13.56MHzの電波に対応した整流回路技術を開発

薄く、軽く、曲げられるフィルム状の無線デバイスの実現に道を拓く

  株式会社日立製作所(執行役社長 : 中西 宏明/以下、日立)は、このたび、薄く、軽く、曲げられるフィルム状の無線デバイスの実現に向け、酸化物半導体*1薄膜トランジスタ(TFT)*2を用いて、RFID*3やICカードシステムで利用されている周波数13.56MHz*4の電波に対応した整流回路技術を開発しました。これにより、アンテナで受信した電波を直流電圧に変換することが可能となりました。本技術は日立が2008年に開発した完全空乏型酸化物半導体TFT技術*5をもとに、酸化物半導体TFTの構造を最適化するとともに、酸化物半導体材料と金属配線材料との接合部で生じる電力損失を最小化することで、実用レベルの出力電圧を持つ整流回路を実現しました。

  プラスチックフィルムなどの上にRFIDやセンサ、ディスプレイなどの電子回路を作製したフレキシブルデバイスは、軽量、薄型で、柔軟性が高く、物体の曲面部分や変形する部分にも貼り付けることができる次世代のデバイス技術として注目され、世界的に研究開発が進められています。特に、RFIDタグのような無線デバイスは、応用範囲が広く実用化が期待されています。

  そこで日立は、プラスチックフィルムに適した低温下で製造が可能で、スイッチング性能にも優れた酸化物半導体TFTに着目し、2008年に完全空乏型酸化物半導体TFT技術を開発して、低電圧で動作することを確認しました。その後、フィルム状の無線デバイスの実用化に向け、RFIDやICカードシステムで利用されている、周波数13.56 MHzの電波をアンテナで受信し直流電圧に変換する、実用性の高い整流回路の研究に取り組み、このたび、同周波数において長い通信距離と、より大きな直流電圧が得られる整流回路技術を開発しました。今回、開発した技術は以下の通りです。

  1. 酸化物半導体材料の金属組成比を改良することで電子の移動度*6を高め、TFTの動作速度を向上。
  2. 酸化物半導体材料の厚さを再設計し、酸化物半導体材料と金属配線材料との接続部で生じる電力損失を最小限に抑制することで、整流回路の出力電圧を向上。
  3. 金属配線材料とその加工方法を改良し、製造プロセスにおいてTFTの特性を劣化させること無く回路を作製する方法を実現。

  今回開発した技術を用いて、プラスチックフィルムにも適用可能な低温で、ガラス基板上に酸化物半導体TFT無線整流回路を試作しました。商用の200mWリーダからの13.56MHz無線交流を、アンテナコイルを介して整流回路に変換する実験において、最適条件下では少なくとも12Vの直流電圧が得られることと、リーダとアンテナコイルの距離を10cm以上離しても、直流電圧が得られることを確認しました。

  本成果は、2010年12月6日から米国・サンフランシスコで開催される電子素子に関する国際会議「国際電子デバイス会議(IEDM : International Electron Devices Meeting)」にて、12月7日(現地時間)に発表する予定です。

[写真] 今回開発した酸化物半導体TFTの整流回路

用語

*1
酸化物半導体 : 金属酸化物のうち半導体特性を示すもののことで、トランジスタ応用としては、酸化亜鉛(ZnO)やインジウムガリウム亜鉛複合酸化物(InGaZnO)などが知られている。スパッタ法により室温付近で成膜することができ、フレキシブルデバイスなどの新しい分野への応用が期待されている。
*2
薄膜トランジスタ (TFT : Thin Film Transistor) : ガラスやプラスチックフィルムなどの絶縁体基板上に作製されるトランジスタのことで、現在は主にアクティブマトリクス型液晶ディスプレイの画素駆動に利用されている。
*3
RFID (Radio Frequency Identification) : 物体の識別に利用される微小な無線ICチップ。電波を使った情報の送受信が可能。
*4
13.56MHz : RFIDや非接触式ICカードなどで使われている無線周波数の一つで、通信距離は最大1m程度。
*5
完全空乏型酸化物半導体TFT技術 : 酸化物半導体の厚さと酸化物半導体中の自由電子の数をある値以下に設計し、酸化物半導体TFTのスイッチング特性を高める技術のことで、日立が、独立行政法人 科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業発展研究(SORST)に参画して2008年に開発した。今回用いた酸化物半導体TFTでは、チャネル層にインジウムガリウム亜鉛複合酸化物(InGaZnO)を利用した。
*6
移動度 : 固体物質中で電界により電荷(電子や正孔)が移動するときの移動のしやすさを示す値のことで、この値が大きいほどトランジスタのスイッチング性能が高くなり、回路の性能や消費電力が良くなる。

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当 : 木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
電話 042-327-7777 (直通)

以上

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