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2008年10月28日
国立大学法人北海道大学
株式会社日立製作所

世界で初めて
半導体検出器を用いたヒト用ポジトロン断層撮影(PET)技術により
腫瘍の診断画像の撮影に成功

  国立大学法人北海道大学(総長:佐伯 浩/以下、北大)と、株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)はこのたび、半導体検出器を使用した、ヒト頭部用ポジトロン断層撮影技術(以下、PET:Positron Emission Tomography)を開発し、腫瘍をはじめとする各種疾患の診断画像を取得しました。今回開発した半導体PETは、2005年に開発した小動物用プロトタイプ機をもとにしたもので、ガンマ線のエネルギー分解能5%以下、画像の空間分解能3mm以下という高い精度で計測が可能です。今回、開発した半導体PETを、北海道大学病院において次世代の分子診断手法*1の研究に適用し、腫瘍内部における微細な代謝の状況の変化を捉えることに成功しました。
  今後、開発したPETを高精度な分子診断技術に適用し、腫瘍内部の質的な変化を捉えることで、個々の患者さんにあわせた治療に活用することが期待されます。

  北大は、『文部科学省科学技術振興調整費』の「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成」*2プログラムに採択され、塩野義製薬株式会社と日立を協働機関として「未来創薬・医療イノベーション拠点形成」事業を推進しています。このプログラムは、PETを中心とした分子診断技術を医療イノベーションの一つの柱と位置づけ、患者さんにやさしい個別化医療の実現を目指しています。PETは、ポジトロン(陽電子)を放出する、核種を標識した薬剤を体内に投与し、その薬剤が、がんや脳、心臓などに集まる様子をからだの外部から断層像で撮影する検査方法です。検査の目的に合わせて薬剤を選ぶことで、がん、脳疾患、心疾患などの早期診断が可能で、かつ治療効果の判定や再発診断を的確に行うことができます。また、最近では新規薬剤の開発を効率化するための分子イメージング技術*3として注目されています。今回、北大では、日立が開発した半導体PETを北海道大学病院に導入し、健常者や、腫瘍をはじめとするヒトの各種疾患の診断画像を取得し、以下の成果を得ました。

(1) 脳のブドウ糖代謝の鮮明な画像化(図1)

[画像]上:頭部用半導体PET装置、下:脳のブドウ糖利用画像
頭部用半導体PET装置と脳のブドウ糖利用画像

  高空間分解能の半導体PETの特徴が活かされる分野に、腫瘍の診断と治療があります。一口に腫瘍といってもさまざまな病態があり、治療にはその活動性の様子を反映することが望まれます。例えば、腫瘍がある程度大きくなると、低酸素領域と呼ばれる治療に対して抵抗性の高い領域が現れることがあり、これを体外から無侵襲で捕らえることは、治療方針を立てる上で重要です。開発した半導体PETにより、今回、脳のブドウ糖代謝の鮮明な画像化に成功しました。

(2) 腫瘍内部の不均一性を画像化(図2)

[画像]上咽頭癌のPET・左:現行のPET(通常モード)、中:半導体PET、右:MRI像
上咽頭癌のPET像とMRI像

  図2は、上咽頭癌の通常のPETの画像と、今回開発した半導体PETで得られた画像、および同じ位置の核磁気共鳴画像法(以下、MRI:Magnetic Resonance Imaging)の像を示したものです。開発した技術では、従来は描出が困難であった腫瘍内部の代謝の不均一性が明瞭となり、MRIの所見とよく一致していることを確認しました。

(3) 病巣の大きさの正しい同定と活動性の高い部分のピンポイントの描出(図3)

[画像]左:腫瘍の位置、中:腫瘍の活動性、右:腫瘍の放射線抵抗性
上咽頭癌のCT像とCTにブドウ糖画像や低酸素画像を重ね合わせしたもの
(いずれも半導体PETを利用)

  X線CT(計算機トモグラフィ)の測定結果と、半導体PETで得られた腫瘍のブトウ糖代謝画像に加えて、新規薬剤を用いて低酸素領域を画像化した結果を比較すると、CTの病変の範囲に比べてブドウ糖代謝の画像は病巣の大きさを正しく同定でき、低酸素画像ではさらに病巣の活動性の高いところをピンポイントで描出しているのがわかります。

  このように、開発した半導体PETを、高精度な分子診断技術に適用し、腫瘍内部の質的な変化を捉えることにより、それぞれの患者さんにあわせた治療に活用することが期待できます。

半導体検出器を用いた高分解能PET

  従来のPETは、体内に投与した薬剤から放出されるガンマ線を、シンチレータと呼ばれる結晶を通して、一旦光に変換してから、光電子増倍管と呼ばれる増幅器で電気信号に変換する間接変換型であるため、ガンマ線のエネルギー分解能、画像の空間分解能に限界がありました。
  日立は、2005年に完成した小動物用プロトタイプ機をもとに、新たに専用半導体集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit) を開発して低ノイズで信号を処理するとともに、半導体検出器の特長である高いエネルギー分解能を活かす画像処理技術を開発しました。その結果、ガンマ線のエネルギー分解能5%以下、画像の空間分解能3mm以下という高い精度での計測を実現し、はじめてヒトの診断に対して適用可能としました。開発した半導体PETは、従来のPETでは困難であった微小な病巣の発見、位置の確定のみならず、代謝量のより定量的な計測が可能になります。この特長を活かし、腫瘍や脳・精神疾患の病態評価、最適治療計画、治療効果判定、薬剤の早期薬効判定、および治療後のフォローアップという次世代のPETに求められる重要な役割を担うことが期待されます。

  なお、半導体PETを用いた研究成果は、米国核医学会の学術誌であり、PETや核医学の分野では最も権威のある「Journal of Nuclear Medicine」誌に本年末に掲載される予定です。

*1
分子診断法 : 疾患を特徴付ける分子を捉えて診断する方法。血液など生体から取り出したサンプルに含まれる分子を調べる方法や、PETなどの画 像診断機器を用いて生体内の分子の挙動を可視化して調べる方法がある。
*2
先端融合領域イノベーション創出拠点の形成 : 平成18年度から開始された第三期科学技術基本計画に基づく文部科学省の事業。産学官の協働により、次世代を担う研究者・技術者の育成を図りつつ、将来的な実用化を見据えた基本的段階からの研究開発を行う拠点を形成することを目的としています。
*3
分子イメージング技術 : 生体の機能をつかさどる分子の挙動を可視化して捉える研究手法。

お問い合わせ先

国立大学法人北海道大学 知財・産学連携本部特任准教授 小川晴也
〒060-0808 北海道札幌市北8条西5丁目
TEL : 011-706-2910

株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
TEL : 042-327-7777 (直通)

以上

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