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2008年7月29日
国立大学法人北海道大学
株式会社日立製作所

北大と日立が、走査電子顕微鏡をもとにした
観察用試料への損傷が少ない電子回折顕微鏡を試作

透過電子顕微鏡と同等の分解能で有機物などの軽元素材料の長時間観察が可能に

  国立大学法人北海道大学(総長:佐伯 浩/以下、北大)と株式会社日立製作所(執行役社長: 古川 一夫/以下、日立)は、このたび、観察用の試料への損傷*1が少なく、かつ結像レンズを使用しないことでレンズ収差*2の影響を受けずに長時間・高分解能*3で観察できる、「低ダメージ・収差 フリー電子回折顕微鏡」を試作しました。これは、結像レンズの替わりに、回折パターンからコンピュータの計算処理によって像を構成する回折顕微法*4と、低エネルギーの電子ビームを用いる走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope/以下、SEM)を、世界で初めて組み合わせたものです。これにより、高エネルギーの電子ビームによる損傷を受けやすく、長時間の観察が難しい有機物などの軽元素材料*5を、繰り返し観察することができます。また、結像レンズを用いないため、ゆがみやピントのずれがなく、高い分解能での観察が可能になります。本開発は、北大のデジタル計算処理技術と、日立の電子顕微鏡技術によって実現したもので、2004年から進めてきた北大と日立の組織的連携による共同研究*6の一環です。

  従来、物体の構造を原子レベルで観察するには、主に100 keV(キロエレクトロンボルト)以上の 高エネルギーの電子ビームを用いる高分解能の透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope/以下、TEM)が使用されてきました。しかし、ナノカーボンや有機物などの軽元素材料は、高エネルギーの電子ビームを用いると試料が損傷を受けるため、観察が短時間に限られ、繰り返し観察することが困難でした。一方、試料への損傷が少ない低エネルギーの電子ビームを用いるSEMでは、拡大像を得るために用いられる結像レンズの収差により、十分な分解能が得られず、原子レベルでの構造観察は困難でした。
  今回、北大と日立は、結像レンズを用いないことから、結像レンズのレンズ収差の影響を受けず高い分解能の像が得られる回折顕微法を世界ではじめてSEMに適用し、低エネルギーの電子ビームによる分解能の高い観察に成功しました。これにより、TEMに用いられる高エネルギーの電子ビームでは損傷を受けやすいナノカーボンや有機物などの軽元素材料を、長時間、繰り返し精密に 観察することが可能になります。また、SEMをもとにした本装置は、TEMに比べ小型であることに加え、試料の概観の観察と、回折顕微法による分解能の高い構造観察を連続的に行える特長があります。今回、試作した装置を用いて、30 keVの電子ビームで、多層カーボンナノチューブを0.34 nmの分解能で観察できることを確認しました。

  なお、本研究は、2008年4月から科学技術振興機構(JST)の育成研究テーマに採択され、今後、さらに低エネルギーの電子ビームによる高分解能観察の検証を進めるとともに、試作装置の実用化を目指してバイオ関連物質を含む多様なサンプルでの実証を行っていく予定です。
  また、本成果は、2008年8月3日から米国で開催される「M&M 2008 Meeting」(Microscopy & Microanalysis 2008 Meeting)と、2008年8月23日から大阪市で開催される「IUCr 2008」(XXI Congress and General Assembly of the International Union of Crystallography)にて発表する予定です。

開発技術の詳細

(1)回折顕微法をもとにした新しい電子顕微鏡開発の提案、および試作装置用計算処理アルゴリズムの開発

  北大では、従来のSEMで実施している、試料の観察領域を特定して視野の中心に入れる作業と、結像レンズを使用せずに記録した回折パターンをもとにコンピュータのデジタル演算を行い、高い空間分解能のイメージを得る回折顕微法を、同一の装置内で実現できる電子顕微鏡のコンセプトを提案しました。記録した回折パターンから、回折顕微法によって物質のイメージを得るためには、大量のデータを高速で処理することが必要になります。北大では、ソフト・ハード両面から計算機処理手法を改良し、イメージングに必要なフーリエ変換*7の繰返しを短時間で実行することを可能としました。

(2)SEMをベースとした回折電子顕微鏡の試作

  北大からの提案を受けて、日立では、低エネルギーの電子ビームを用いるSEMをベースとした回折顕微鏡を試作しました。SEMの電子銃(電子ビーム源)とレンズを活用した照射光学系により、低エネルギー領域(30〜0.5 keV)でのSEM像の観察と、回折顕微法に用いる回折パターンの取得を、レンズ条件の切り替えにより、連続して行うことを可能にしました。回折パターン取得時の電子ビーム照射条件は、高平行度・微小領域照射となる条件を光学シミュレーションにより導出しています。このように、平行度の高いビームを用いてノイズの少ない回折パターンを記録することで、回折顕微法の実証が可能となりました。また、回折パターンの記録装置として、TEM用のカメラ室(フィルムを駆動する機構と露光シャッター)とCCDカメラを搭載しました。

*1
試料に対する損傷 :
分析する物質(試料)が電子顕微鏡の電子ビームを受けることにより損なわれ傷つくこと。
*2
レンズ収差 :
光線がレンズを通る際、その位置(もしくは波長)の違いにより収束点が異なることにより、像にゆがみやボケを生じること。
*3
分解能 :
機器において見分けることができる最小の距離または視角。
*4
回折顕微法 :
結像レンズを用いず、試料へ電子ビームを照射したときに得られる回折パターンを記録し、コンピュータを用いた計算処理によって試料の拡大像を再構成する技術。
*5
有機物などの軽元素材料 :
有機半導体や高分子材料などで、主に炭素、酸素、水素などから構成される物質。
*6
組織的連携の契約締結は2003年4月1日。
*7
フーリエ変換 :
実空間(位置)から逆空間(波数)への変換処理。

お問い合わせ先

国立大学法人北海道大学 工学研究科教授 郷原 一寿
〒060-8628 北海道札幌市北13条西8丁目
TEL : 011-706-6636

株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ケ窪一丁目280番地
TEL : 042-327-7777 (直通)

以上

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