ページの本文へ

Hitachi

日立ワークスタイル変革ソリューション

ワークスタイル変革はなぜ進まないのか ”働き方パズル”に足りないピースとは?

働き方を見直す動きが高まっている。しかし先進的なワークスタイル変革を推進する企業が増える一方で、思ったよりも効果が出ていないケースやプロジェクトがなかなか進まないことに悩んでいる企業も少なくない。


成功する企業とそうでない企業の差はどこにあるのか。ここではより早く変革を進め成功につなげるための方策を考えてみたい。

企業成長のための生産性向上の必要性や、少子高齢化、労働人口減少などの課題を背景に、働き方を見直す動きが急速に広がっている。しかし、実際にワークスタイル変革を推進しようとすると、さまざまな課題や壁にとまどう企業も少なくない。
ワークスタイル変革はITの仕組みだけでなく、企業の制度や人事評価も含めてトータルに考える必要があるからだ。
そうした課題の解消に向けて参考にしたいのが、ワークスタイル変革を他社に先駆け実践してきた日立製作所(以下、日立)だ。
同社では制度とITの両面で新しい働き方を模索。失敗や苦労も乗り越えながら、より働きやすい環境を少しずつ創りあげてきた。さらに現在でも、全世界約34万人のグループ社員が自由に活躍できる環境をめざし、さらなる取り組みを続けているという。

ITツールの導入だけがワークスタイル変革ではない

企業経営を取り巻くさまざまな課題の中でも、近年特に重要なキーワードとしてクローズアップされているのが、「ワークスタイル変革」だ。

現在の日本企業は少子高齢化による労働人口減少や、育児・介護などの事情を抱えた社員への対応など、数多くの問題に直面している。もしこれらへの対応を誤ってしまえば、離職率の増加や過酷な労働を強いることによる社会的な信用喪失といった、重大な事態にも発展しかねない。多様で柔軟な働き方をめざす取り組みは、まさに企業の成長を左右する重要なファクターといえるだろう。

しかし、いち早くワークスタイル変革に成功し、成果を上げる企業が現れている一方で、なかなか思うように取り組みが進まないという企業もまた少なくない。なぜ、このような明暗が生じるのだろうか。

その大きな要因の1つが、「ITツールの導入」をワークスタイル変革のゴールと捉えるプロジェクトが多いことだ。確かに自由な働き方を実現するためには、ITツールの活用が不可欠である。しかし、ただ単に道具だけを導入しても、それが実際に使われないのでは全く意味がない。中には、導入後にどれだけ利用されているのかについて追跡調査がほとんどなされていない企業もある。さらに問題なのが、そのITツールがそもそもの経営課題にどう貢献しているのかが明示できていない場合。これがきちんと把握できなければ、今後新しい予算を確保することも難しくなってしまうだろう。

社内制度や企業風土の再点検も重要なポイントだ。最近では在宅勤務制度やテレワークの導入を図る企業も増えつつあるが、そうした制度を社員が気軽に利用できるだけの環境は整っているだろうか。いくらさまざまな制度設計を行ったところで、社員が実際に使えないのでは“絵に描いた餅”である。

こうしたことを考えていくと、ワークスタイル変革の実現に向けては、ITツール・制度・風土を含めた管理手法の確立、つまり「チェンジマネジメント(マネジメントの変革)」が必要であることが見えてくる。次ページではそのための具体的な方策について考えていきたい。

マネジメントの変革に重要な3つのポイントとは?

写真:近藤 直之 氏
株式会社 日立製作所
サービス営業推進本部
ソリューション開発営業部
部長代理
近藤 直之 氏

多種多様なバックグラウンドを持つ社員一人ひとりがその力を最大限に発揮し、企業の発展やビジネスの成長につなげていく―。そうした考え方のもと、数多くのプロジェクトを重ねてきた企業が日立製作所(以下、日立)だ。

「当社では早くからワークスタイル変革に取り組み、裁量勤務やフリーアドレス、シンクライアントの導入など、さまざまな施策を展開してきました。さらに最近では、ワークスタイル変革を経営戦略の重点項目として位置付け、『人の働き方にフォーカスした変革』を進めています」と日立の近藤 直之氏は説明する。

具体的には、日立の人事部門とIT部門が一体となって社内のワークスタイル変革を推進。その効果は非常に大きく、従業員満足度4.2ポイントアップ、在宅勤務取得率を4倍以上に向上、旅費コストを22%削減するなど、数多くの成果を上げている(*)。

「社内で取り組んでみて分かったのは、人事部門とIT部門が両輪となって活動することの大切さです。そこで本ソリューションの提案でも、人事・総務・経営企画・ITといった関係部門が一体となって現場のワークスタイル変革を支援できる体制作りを推奨しています」と近藤氏は続ける。

また、実際の取り組みにおいては、「ワークスタイル変革の効果を経営課題につなげる」「施策を適切なタイミングで実施し、期待効果を明確化する」「施策の効果をモニタリングして見える化し、継続的にPDCAを回す」の3点が特に重要なポイントになったという。

(*):日立製作所のIT部門における2015年度の成果

効果の見える化と継続的なPDCAを実現

写真:日野 潤一郎 氏
株式会社 日立コンサルティング
サービス&デジタルコンサルティング部
シニアコンサルタント
日野 潤一郎 氏

日立では、そうした自社実践で得たノウハウを「日立ワークスタイル変革ソリューション」として整備し、ワークスタイル変革に取り組む企業を支援している。その内容は単にITツールの提供のみならず、多岐にわたっている。

まず、「ワークスタイル変革にどう取り組むべきか」というビジョンを描く段階の企業に対しては、プロジェクトの立ち上げや課題の整理、対話を通じたあるべき姿の策定から支援。ここでは自社の現状を分析した上で、めざすべき理想的なワークスタイルをコンセプト策定の段階から一緒に探り出していく。

次に、「ITツールの導入を契機にワークスタイル変革に取り組みたい」、「ITツールを導入したが、効果が上げられない」という場合には、「効果の見える化」と「継続的PDCA」を進めていくための仮説策定などさまざまな支援をしていく。そしてこの部分こそが、まさに冒頭でも述べた「チェンジマネジメント」の肝となる部分だ。

「導入したITツールをどう活用し、どのように経営課題解決に役立てていくのか。そこを明確にした上で、繰り返し効果検証を行っていかなければ、ワークスタイル変革の取り組みを成功に導くことはできません」と日立のワークスタイル変革にも取り組んでいる日立コンサルティングの日野 潤一郎氏は指摘する。

実際の活動においては、社員へのアンケートやヒアリングを行なった上で、課題抽出や期待すべき効果の整理を実施。これに基づいて目的やスコープを定義し、目標達成に向けた仮説立案を進めていく。「ビジネスパフォーマンスを最大化する、あるいは社員満足度の向上をめざすなど、取り組みのテーマはお客さまによってさまざまです。そこで、まずここを明らかにした上で、そのために必要なものは何かを考えていきます」と話す日野氏。実際、日立社内の取り組みでは、約60件にも及ぶ仮説を立てた。
こうした日立で使用した仮説をベースに各企業へとカスタマイズすることで迅速にプロジェクトを進められるという。

また、これと並行して、効果検証のためのモニタリング指標/KPIの設定も実施。ここでは、日立IoTプラットフォーム「Lumada(ルマーダ)」による分析基盤を活用。ITツールの利用ログや人財、管理会計、財務、SFA(Sales Force Automation)システムのデータなどを掛け合わせ、施策の進行状況を分析。その結果を見ながら継続的にPDCAを繰り返していくことで、新たなワークスタイルの定着化を進めていく。

「例えば、Web会議システムであれば、各部門での利用状況と出張旅費の推移やSFAデータとの相関を調べることで、ITツールの導入によって出張回数は減ったか、浮いた時間を顧客面談などのコア業務に充てられているかといったことが見えてきます。このように施策の効果をきちんと見極めながら取り組みを進めていくことが、ワークスタイル変革において極めて重要なポイントとなります」と日野氏は話す。

制度や風土に踏み込んだ支援も提供

写真:吉田 章宏 氏
株式会社 日立製作所
ビジネスプロデュース本部
ビジネスプロデュースセンタ 主任技師
吉田 章宏 氏

こうした手厚いコンサルティングサービスに加えて、日立では独自技術を生かした先進的な支援も行っている。その1つが、名札型ウエアラブルセンサーを用いたHitachi AI Technology/組織活性化支援サービスだ。
「このセンサーを利用すれば、どの人がいつどこにいるのか、他の人とどれくらいコミュニケーションを行っているかをビジュアル化することが可能。ITツール上のデジタルなコミュニケーションだけでなく、フェース・トゥ・フェースのリアルなコミュニケーションの状況まで見える化できます」と日立ワークスタイル変革ソリューションを牽引する日立の吉田 章宏氏は説明する。実際、日立グループでも営業部門の社員約600名の行動を分析し、コミュニケーションの活性化やオフィスレイアウトの見直しなどに役立てているという。

さらに注目したいのが、こうした技術的な観点からだけでなく、企業内の制度や組織風土にまで踏み込んだ取り組みを行っている点だ。「チェンジマネジメントの実現に向けては、制度や風土の話を抜きにすることはできません。たとえIT部門がいつでも・どこでも仕事ができる環境を提供できたとしても、制度が不十分だったり組織風土に問題があると逆に働き過ぎを助長しかねない。また、人事部門が働き方を変えようと旗を振っても、ITツールが追いついて来ないのでは成功は望めません。この両輪を一体で回さないと、真のワークスタイル変革は実現できないのです」と吉田氏はその重要性を強調する。

こうした問題を乗り越えるために、日立でもこれまでさまざまな施策を展開してきた。例えばクライアントPCの起動時刻とシャットダウン時刻を勤怠管理システムに連携させて、テレワーク環境でも適切な労務管理を行えるようにしたり、自分の望む働き方に必要なツールをポータル上でガイドする仕組みを用意するといった具合だ。

もちろんこうした取り組みを進める中では、さまざまな困難に直面し、数多くの失敗も経験してきたという。しかし、そこで得られた貴重なノウハウが、日立ワークスタイル変革ソリューションに生かされているのである。

「ITツールの効果的な活用に加え、制度改革、風土醸成を踏まえた変革の定着化までご支援できるのが我々の強みの1つ。そのために経営トップや人事部門を巻き込むためのお手伝いをするケースもあります。日立グループ内部における取組みで培った知見を最大限に生かし、お客さまにとって最適なワークスタイルを実現していきたい」と力強く語る近藤氏。ワークスタイル変革に悩む企業にとって、非常に心強い味方となってくれそうだ。

  • この記事は、2017年2月21日から「ITpro SPECIAL」に掲載されている内容を抜粋したものです。
  • 掲載記事の無断転載を禁じます。