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【ダイキン工業×日立グループ】〜プロジェクトメンバー座談会〜

【ダイキン工業×日立グループ】
〜プロジェクトメンバー座談会〜
業務を変える、戦略を変える
計画最適化ソリューション活用の先に描く未来の事業像

小川 忠士

小川 忠士

ダイキン工業株式会社
化学事業部
企画部長

橋本 和明

橋本 和明

ダイキン工業株式会社
化学事業部
製造企画部 
グローバル製造企画担当課長

加藤 陽介

加藤 陽介

ダイキン工業株式会社
化学事業部
製造企画部 
企画グループ

草野 優

草野 優

株式会社日立製作所 
関西支社
産業システム営業部
課長代理

那須 弘明

那須 弘明

株式会社日立製作所
デジタルサービス研究統括本部
社会課題協創研究部
主任研究員 

小沢 康弘

小沢 康弘

株式会社日立ソリューションズ
産業イノベーション事業部 
チーフDXストラテジスト

1933年、日本で初めて「フッ素化学」に取り組んだダイキン工業は、 今後も世界的な市場拡大とともに、著しい事業環境の変化が予測される化学品市場において、より大きな成長をめざすべく、先端ソリューションや生成AI技術を活用しながら業務プロセス革新を推し進め、さまざまな変化に対応する事業戦略の立案に挑戦しています。

そのダイキン工業と日立は、化学事業の頻繁な需要変動に即応した生産・販売計画の策定、見直しを可能にする計画最適化ソリューションを実用化し、2020年から運用を開始。化学事業におけるサプライチェーン全体の最適化をめざして現在も続く両社の協創活動について、プロジェクト関係者の方々に語っていただきました。

ダイキン工業と日立の協創のきっかけを教えてください。

那須[H]:両社の幹部同士が「日本のモノづくりの業務プロセス革新に向けて」という目的で合意し、ダイキン工業さまの化学事業におけるサプライチェーンの全体最適化をめざし、2016年から協創をスタートしました。プロジェクトでは、次世代MESを創生していく実行系と、サプライチェーンの全体最適化を図る計画系の二つのグループに分かれて活動を行ってきました。

小川[D]:当社の化学事業では、協創が始まる以前からMESの導入を検討していましたが、化学工場で運用実績のあるMESが当時、存在していませんでした。しかも、当社の場合、石油化学のような巨大な石油化学プラントで量産するという事業モデルではなく、機能性化学品 の多品種少量生産モデルですので、プロセスを理解していないシステムベンダーに依頼したとしても、当社側も要件を確定できない、ベンダーさんも分からないという事態が予測されました。

また当時、現場から「生産計画の策定を自動化したい」というニーズは出ていましたが、単にツールを導入しただけでは、ツールの精度が良い、悪いといった評価で終わってしまい、実運用までたどり着かない懸念がありました。私たちは、システムやツールを提供してほしいというより、それによって業務をどう変えるかを最重要と考えており、従業員のマインドセットや業務自体の変革を含めてサポートしてくれることを求めていました。

日立グループとは以前から、包括的なテーマに取り組んでいこうとIoTセンサー開発などを行っていたので、これまで以上にがっちりと組んでモノづくりの現場を変えていこうと協創が始まったのです。

まず、私たちが事前の説明をせずに、第三者の目で現状を評価してほしいと、日立のメンバーに現場に入ってもらい、エスノグラフィーで課題の分析を始めました。最初からシステムありきではなく、課題に対する打ち手を探っていく中で、「計画系のシステムもできそうだね」と開発に移っていきました。

小川 忠士

※MES:
Manufacturing Execution System

ダイキン工業化学事業部における計画業務の課題とは、どのようなものでしたか。

小川[D]:計画系業務における最大の課題は、年度の予算策定でした。従来のやり方は、サプライチェーンの現場をよく知る経験豊富な従業員が1カ月ほどかけてコツコツ計算し、その結果を皆で妥当かどうか検討していました。「ここは生産が追いつかない」「この時期は調達が怪しい」といったギャップがいくつもあるので、それらを調整していくうちに予算を確定すべき日が迫り、結局、さまざまなギャップを残したままの計画でスタート。当社は期初に立てた予算に加え、期中にも計画の見直しを行っています。年に複数回の予算策定を行っていますから、バタバタしているうちに次年度の準備をしなければとなり、この業務を変えなければと強く感じていました。

このような業務プロセスの最大のデメリットは、打ち手が遅くなることです。例えば、計画業務に必要な数字を自動で集計できれば、早い段階で予算が確定でき、業績達成のための施策や課題への対応策をしっかりと議論できます。そして、年度が始まったら各部が先手を取って施策を実行していく、それが本来あるべき姿だと私は考えました。

橋本[D]:私から見ても先輩方のやっていることは離れ業で、言葉にするのは難しかったですね。

例えば、現在、計画最適化ソリューション の運用をしているゴム製品だけでも数百品目、製造拠点3カ所、販売拠点9カ所 もありますから、先輩に「この製品のリードタイムは?」と質問すると「いろいろ…」という答えが返ってきたりします。いろいろなわけはないのですが、アロケーションにもよるし、原料入荷トラブル、工程トラブルなどもありますから、多くの要因を組み込んで、都度、リードタイムをはじき出してきたのでしょう。

また、年度の計画が走り出して不測の事態が生じた場合も、現場が侍の腕っぷしでピンチをくぐり抜けてきたのです。

橋本 和明

那須[H]:私の印象も同じです。ダイキン工業の皆さまは、「ここは相手のことを考えて調整」「ここは遅れが出る可能性もあるのであらかじめ手を打っておく」、といった部署間での配慮を先んじて重ねながら予算策定を実施されていて、非常に高度な業務が成立していると感じました。ですのでこの高度な業務をシステムで一部でも代替、支援できるようになれば、価値の高いソリューションになるのではないかと考えたのです。

小沢[H]:システムとしてやりたいことが、何人かのスペシャリストの頭の中にすべてあり、それをどのようにデータに落とすかに取り組んだのが2018年でした。過去の実績データをいただいてシミュレーションを回し、その正しさを確認していると、実際には生産量がぎりぎりなのに、設備の余力が十分にあるように見えたり、逆に本来生産できるはずの量が生産できない設備があったりと実態との乖離がありました。データを一個ずつ細かく見ていって、どのようなマスターが適正かを一年ほどかけて調整しました。

那須[H]:データと並行して、サプライチェーンの業務フローと各部署が重要視しているKPIも確認していきました。営業は売り上げ、製造現場は生産効率、生産計画は在庫など、部署によって重要視しているKPIが異なりますので、複数の部門の方々に集まっていただき、部門横断のワークショップを企画、開催することで、事業全体で達成したいKGIや各部署のKPIの関係性を整理しました。また、業務フローの中でシステムに落とし込む部分、人が行う部分を切り分けるといった作業にも3カ月ほどかかりました。

草野[H]:ワークショップはとても盛り上がり、有意義でしたね。化学事業部さまは役職や部署間の垣根が低く、フラットに議論できる土壌があると感じます。

※KPI:
Key Performance Indicator
※KGI:
Key Goal Indicator

そのような計画業務の難しさは業界共通の課題なのでしょうか。

小川[D]:そう思います。化学プラントは、機械系の工場などと異なり、ラインの数と生産能力がそのまま比例しません。さまざまな材料からさまざまな品目をつくるので、例えば、ある品目は高価格で少量、もう一方は低価格で大量、どちらをつくれば高い収益が上がるのかを知りたいとします。固定費回収の計算はさほど難しくないですが、そこに原料やオペレーション工数などのたくさんのファクターを加えていくと難易度が一気に上がります。算出は個人の経験値やスキルに依存しますので、担当者のやり方によって出てくる数字の精度も大きく変わってしまうのも問題でした。しかも、担当者は相当、大変な思いをするのに収益改善という結果になかなかな結び付かないので報われません。

このような課題認識が日立のメンバーとの会話の中からクリアになってきました。

小沢[H]:計画業務の計算に費やす時間を1カ月から1日、1時間に短縮できたら、複数パターンの予算案をつくることが可能になり、「ここの生産が追いつかない」「ここの収益が低い」といった課題が可視化でき、より戦略的な施策が立てられるのではないか、というのがシステム開発の出発点になりました。

複数の製造・販売拠点の需給バランスをもとに、利益、売り上げ、キャッシュフローなどの重要なKPIの最大化をめざした生産計画とシナリオ案があれば、意思決定の迅速化が図られ、さらには急激な需要変動にも対応できるだろうと考えました。

那須[H]:ダイキン工業さまは、これらの課題が事業モデル共通の構造的なものだと認識されていて、協創当初から「うちの現場を土俵として貸すからサービス、ソリューションを一緒に検討してはどうか」とお申し出くださいました。私たちは、実際に現場の中に入れていただき、業務フローやデータも見せていただきました。さらに、業務での価値検証までさせていただくという、非常に貴重な機会を得ることができました。

このような協創があって、2020年7月には、SCMシミュレーション技術を活用した計画最適化ソリューションの運用開始を両社でニュースリリースすることができましたが、日立グループを協創パートナーに選んでいただけたのは、単にシステムを提供するだけでなく、将来業務の中身やモデルケースも一緒に形づくっていくという考え方や進め方をご評価いただいたのかな、と思っています。引き続き、業務プロセス革新の実現までお手伝いさせていただきたいです。

那須 弘明

グローバルサプライチェーンの課題に対して、計画最適化ソリューションをどのように活用していますか。

小川[D]:現在は、最初の構想である「業務を変える」までには至っていないのが正直なところです。ここまで話したのは、計画策定を行うメンバーの業務に着目した課題でしたが、予算に関わる困りごとはそれだけはなく、このシステムを活用する大きな狙いはほかにもあります。

例えば、システム運用中のゴム製品群だけでも、フランス、中国、日本の3拠点 で製造しており、拠点ごとの利益やキャッシュフローなども計画策定においては重要な要素です。シミュレーションによって化学事業全体として収益を最大化するシナリオ(予算案) ができたとしても、このシナリオではフランスの拠点が単体で赤字となってしまう場合、拠点長は納得しません。そこですべての拠点で前年比プラスになるよう二つ目、三つ目のシナリオを用意し、グローバルの拠点長が集まる会議に複数のシナリオを提示できないかと考えました。選択肢があれば、各拠点長も「当社の業績は振るわないが、全体としてはこのシナリオがいい」といったコミットができるはずです。従来は計算にかかる時間が膨大だったので、数字を持って複数のシナリオを示すことができませんでした。

次に大きな課題は、為替、物流コスト、販管費など、変動的なコスト管理が不十分であること。特に、化学品にかかる関税は国ごとに異なるので、この国からこの国へは関税コストがかさむといったことがあり、そのようなファクターももっと合理的に計画に組み込みたいのです。

システム活用の真の目的は計画業務の最適化ではなく、まず、自分たちが掲げる目標はどうあるべきか、それを具体的にどうやったら達成できるかを深く考えることです。シミュレーターを自在に操ることで、「この製造拠点に余裕がありそうだ」「ここでつくったこの製品はコストがあまり良くない」など、生産拠点別、品目別の収益性を可視化できれば、最適なアロケーションと有効な収益改善策が立案できるでしょう。

このような課題に取り組むため、2022年から予算管理部門メンバーのプロジェクトを立ち上げ、どうしたら業務革新を成し遂げられるかをゼロベースで捉え、再スタートしました。

加藤[D]:私は会計担当で、業務としては変動費と固定費の経費勘定を行っていますが、期中で大きな市況の変化が生じても全事業部が当初の予算で走っていますから、タイムリーな改善策が打てませんでした。

このシミュレーターは素早く計算できることが特長なので、計画とは少し違う方向に走り出したときに、すぐに影響を試算することができます。実際、ゴム製品の原料単価が大幅に高騰したときにどのくらいの影響が出るのかをシミュレートし、その結果を販売価格や販売戦略に適用した事例もあります。さまざまな市況の変化に対応し、事業利益を最大化していくには、人でなくてもできるところと人が判断すべきことをはっきりと切り分けて、迅速に対応していくことが重要だと感じました。

加藤 陽介

小沢[H]:そうですね。環境変化による事業への影響把握については、新型コロナウイルスが感染拡大する状況下でもお手伝させていただきました。感染が広がり始めた当初、欧州では街をロックダウンしても工場の生産は続けていましたが、需要はグローバルで落ちてきているという局面がありました。その際に、このまま生産を続けるべきか、工場をいったん止めるべきかを判断をしたいとご相談をいただきました。当時のご担当者もとても優秀な方でしたが、自分でシミュレートをすると、計算結果を一つ出すだけでも2、3日かかるとおっしゃるので、私たちがお話を聞いて、数十個のパターンをシミュレートして結果をお出ししました。

橋本[D]:シミュレーターがなければ、当グループのメンバーは毎日、大変です。

ここ数年は起きている変化がとにかく大きすぎるというのが実感です。感染拡大の影響による海外のロックダウンのために原料が入ってこない、入ってきたら異常に高い、さらに業界の再編が始まり、競合の大手メーカーが突然、生産をやめてしまい、誰かが市場に材料を供給しなければならないなど、かつてないレベルで事業に影響をおよぼす出来事が次々と起こりました。さらに、当社としては環境に優しい新商品を早く発売し、プラントレベルでCO2排出量数千トン削減に相当する改革をしたいと考えていました。

私たち企画グループは、お客さまに今後このような商品を届けていきたい、このような販売戦略を展開したいという考えを持っていますが、ビジネスの環境変化が激しい中でそれらを実行していくには人の力だけでは足りません。競合より先に新たな価値を訴求する商品を出し、それに伴って収益を上げるため、数値にもとづいた新しい戦略を立てるといった仕事もシステムの力に頼らなければ不可能です。

また、これから先も予期せぬ環境変化がますます増えるでしょうから、これまでのように侍の腕っぷしだけでは対応できないでしょう。もっともっとシステムをうまく使いこなさなければならないことは間違いないです。

加藤[D]:私が今、取り組んでいる課題は将来の業績予測のシナリオを用意することです。現時点では、シミュレーション実行の時間は短いのですが、データを集めて入力していくという準備にかなり時間がかかるので、そこを自動化したいです。それには、生産管理システムの中にあるBOMデータ、販売管理データなど、社内のシステムに散らばっているさまざまなデータを集約し、連携していく作業が必要なので、全力で取り組んでいます。

小川[D]:計画業務とはそもそも架空のシナリオから未来を予測することです。例えば、前年に投資を行い、新たなプラントが一つ出来上がるとなれば、翌年のキャパシティをもとに増産計画を立て、生産額と設備費などの見込み値を入れて予算に反映します。算出のもととなるデータは非常に多いので、誰か一人がそれらを各部から集めて入力するというフローでは時間がかかりますし、業務も破綻します。各部のメンバーがいつ、どのように入力するのかというフローが確立していないといけません。ルールを定めて教育することはさほど難しくないのですが、全部門に定着させるところは非常に難しいですね。

加藤[D]:今のようにシミュレーションのためにデータを集めるのではなく、データの基盤が完成すれば、シミュレートして投資の意思決定を行い、計画にフィードバックするサイクルが回り始めます。

橋本[D]:加藤さんは仕組みを理解してやっているけど、まったく分かっていない人が実行をポチっと押すと5分でパッとシミュレーション結果が出て、そのシナリオのストーリーを得意げに話せるようになる、そうなれば楽しいですよね。システムを導入した当初より、仕組みづくりをしている今が一番しんどいですけど。

草野[H]:多くの企業で、経営層はシステムを入れたらすぐに活用できるものと考えがちだと感じていますが、実際の業務に落とし込む社員の皆さんはとても苦労されています。

我々もシステムを導入して終わりではなく、業務定着から改善活動まで伴走する必要があると思っています。

※BOM:
Bill Of Materials

ダイキン工業の化学事業は今後、どのような成長を描いていますか。

橋本[D]:当事業は、2021年ごろから急激に売り上げが上昇し、2023年3月期の実績は2,634億円と、3カ年で事業規模が3割以上、拡大しました。 樹脂製品の需要は今後も伸びることが見込まれていますので、大規模投資を実行し、中国に新工場を立ち上げました。ビジネスの規模も取扱量も大きくなり、拠点間の配送量も増え、それらがすべてデータとなって上がってきますから、それを人がさばくというのは現実的に難しいですね。

小川[D]:自社が業績を伸ばしたというより、市場の伸びに必死についてきたというのが正直なところで、伸びが速すぎて、人を増やしたり、育成したりも間に合わない状況です。少しネガティブな表現ですけど、掲げた目標を達成していくためにはシステムがなければ実務が破綻する、それが足元の課題感です。

しかし本来は、市場の動きとは関係なく、自分たちが市場をつくっていける商品を出した結果、業績が伸びた、でなければいけません。そして、カーボンニュートラルは間違いなく市場をつくる切り口の一つです。これまでは、生産性と収益性を最重要指標としてきましたが、これからはサステナビリティの視点が欠かせなくなります。「コストを度外視して、環境負荷を最も下げた商品をつくったらどうなるか」といった、かつての重要指標とトレードオフの関係にある指標が複数、出てくる可能性があります。そうなったときに人が考えるだけでは商品の価値をつくっていけません。

逆に、「この商品はカーボンフットプリントと価格をともに最適化しています」とサステナビリティの観点で事業をブラッシュアップしていければ、他社に先行できます。性能はもちろん、それ以外の商品価値をしっかりとお客さまに提示し、認めてもらうためには、これまでにない業務ツールが必要なのです。当事業は、早くからシステム開発に取り組んできた結果、このような成長を達成できたといえるようになりたいですね。

小沢[H]:当社のグローバルSCMシミュレーションサービスは生産と収益を軸にしていますが、昨年、そこにカーボンニュートラルの視点を組み込みました。実際にCO2排出量シミュレーションを行うためのデータ準備に少し時間がかかるかもしれませんが、ぜひシミュレーションに使っていただきたいと考えています。

小沢 康弘

未来のSCMとは。
両社の協創はどのような方向に進んでいくのでしょうか。

小川[D] :今後のシステム発展の方向としては、まず、生成AIと組み合わせていくことを考えています。現在も、世界のあちらこちらで新たな紛争や政情不安が起こっていますし、政治的な要因により貿易環境が変わることも予想されます。そのような事業への大きな影響が予想される事態に対し、経営者は判断の材料となる複数の未来のシナリオを検証し、備えておきたいと考えるでしょう。

那須[H]:今のシミュレーターでもあらかじめ設定しておいた未来のシナリオをつくることができますが、生成AIと連携すれば前提となるシナリオ自体のパターンも多く作ることができるかもしれません。

小沢[H]:しかも、目まぐるしく情勢が変化しますから、環境変化に対応するにはとてつもない迅速さが求められます。社会情勢や外的な環境要因をうまく組み込んでシミュレーションできる仕組みをいかにしてつくるか、新しいテーマをいただいた気がします。

小川[D]:もう一つ、シミュレートするための問いは誰が立てるのか、という問題があります。これまでは、過去の経験や体験が豊富な人が問いを立ててきましたが、そこをAIに置き換えた場合、「例えばこんな問いがありますよ」「他社はこうしましたよ」といった人間では考えつかない、膨大な数の問いが立てられます。

未来があちらにも、こちらにも振れる中で、振れた瞬間にすぐに打ち手がある状態に備えていくことが求められる、つまりサプライチェーンマネジメントの概念が完全に変わることも視野に入れておく必要がありますね。

加藤[D]:現場としても、何か起こった瞬間に動かないともう遅いという実感を持っています。だからこそ未来のシナリオを100個つくるのは人間の仕事ではなくなるでしょう。システムが描いたシナリオからどんな打ち手、対策を立てるか、それが私たち、つまり人間の重要な仕事になると考えています。

そこにたどり着くために超えるべきハードルに今、取り組んでいると、しんどいながらもポジティブに捉えています。

小川[D]:今、やろうとしている改革は、これまでやってきたこととはまったく違う概念の仕事を行うこと。現場の社員が新しい仕事のやり方を素直な気持ちで理解してくれるか、そこが一番重要だと思います。

人は自分たちがやってきた仕事を否定されることを望みませんが、まず、過去の自分を否定してみることをしないと、新しいステージにはたどり着けません。一人一人の自己変革こそが、業務を変え、事業を変えるために最も重要なファクターなのです。

加藤[D]:日立さんには「ダイキンがどうしたいか」をよく聞いてもらえていると思いますが、逆に、日立さんから見てこうするべきなど、もっと積極的な提案をしてもらいたいです。そもそもこのままではだめ、というところから協創が始まっているので、時には厳しい意見もいただきたいと思っています。

草野 優

小沢[H]:はい。協創とはパートナーシップですので、めざすところに向かってさらに積極的な提案をしていきたいと思います。

草野[H]:今後について一つ質問させてください。計画系は計画最適化ソリューションの運用が進行中であり、一方の実績系は次世代MESのFactRiSMとPISystemの導入、および経営管理系のSAPが刷新され、システムの基盤が整ってきた中、今後どのような方向性でDX戦略を描いておられますか。

小川[D]:サプライチェーンについていえば、今までの話は全部社内の話なので、今後はいかにサプライヤーさま、お客さまにつないでいくかだと思っています。ダイキンがプラットフォーマーになれるかどうかは分かりませんが、会社の外にも当社の仕組みを広げていって、化学業界として、日本の産業界として、新しいモノづくりの業務プロセスをつくっていきたいです。ダイキンが生み出した新しい材料(製品)を使っていることがお客さまにとっても、社会にとっても良いことだ、とならないと、真のトランスフォーメーションにつながらないと認識しています。

小沢[H]:化学産業はカーボン排出量が多いという課題を抱えていますから、環境影響が低い製品を生み出し、その仕組みそのものを標準化していくことで、産業創成に生かしていかないとなりません。これは日立グループとしても絶対にやらなければいけないテーマです。ぜひ一緒にやらせていただきたいですね。

FactRiSMは日立製作所の登録商標です。
PI System は、OSIsoft ( is now part of AVEVA) 社の製品であり、OSIsoft, LCCの登録商標です。
SAPは、ドイツおよびその他の国々におけるSAP SEの商標または登録商標です。

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