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HIGHLIGHTS 2004


基礎研究所の牧 敦主任研究員(左)と,光トポグラフィの開発当初から医学的な指導をしてきた東京警察病院の渡辺 英寿脳神経外科部長(右)


株式会社日立メディコ製“ETG100”による新生児の脳活動画像〔話しことばを聞いたとき(上)は左半球の言語野が活動するが,話の逆回し音を聞いたとき(中)と,何も聞かないとき(下)は,顕著な活動がない。〕


株式会社日立メディコ製“ETG7000”による子どもの脳機能計測
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脳科学の新たな可能性を開く技術
「光トポグラフィ」

 脳研究の分野では,人間の脳の活動をリアルタイムで観察することが研究者の長年の夢であった。この夢を可能にする技術として,近年登場してきたのが,SPECT(単光子放射型断層撮影),PET(陽電子放出断層撮影),fMRI(機能的磁気共鳴画像),MEG(脳磁計)などの装置である。そして今,光を使って脳の活動を画像としてとらえる画期的な技術の実用化が進んでいる。それが,日立製作所が世界に先駆けて開発した「光トポグラフィ」である。


光トポグラフィとは

 人間の目でかすかに見える近赤外線を使って脳の局所的な脳血流の変化をとらえ,脳の活動を画像化する技術です。光ファイバを通して頭皮の上から頭がい内へ近赤外線を照射すると,骨を通過した光は脳の組織内で散乱し,一部が頭皮上に戻ってきます。ちょうど大脳皮質の辺り,頭皮上から深さ20mmほどの組織を通って戻ってきた近赤外線を検出,計測することで,大脳皮質にある神経細胞の活動の状態を知る仕組みです。脳の中の,ある領域が活動すると,神経細胞の活動に必要な酸素や栄養を送り込むために脳の血流量が局所的に増加し,酸素を運んだり放出したりするヘモグロビンの量も増加します。近赤外線は血液中のヘモグロビンによって吸収されるので,その吸収量を計測することで,その部位で脳血流が増減する度合いがわかり,脳細胞が活発に働いている状況が画像として示されます。


光トポグラフィの特徴は

 これまで使われているPETやfMRIなどと比べて特筆すべきは無侵襲・非拘束性であり,つまり人体への負担がほとんどないということです。光トポグラフィで照射される光は太陽光に含まれる程度の赤外線なので,まったく無害です。大がかりな装置が必要なPETやfMRIと違って簡単に持ち運びできる装置であり,しかもヘモグロビンの動きなどの現象を精密に解析できるので,実際に病院などで使う場合の利用範囲が非常に広いのです。静止していることが困難な重度の患者さんや小児の検査にも使えます。例えば,今までは不可能だった,てんかん発作中の患者さんの脳を測定することもでき,発作の発生部位を正確に特定することができるので,治療に大きな威力を発揮します(東京警察病院・渡辺 英寿医師との共同研究)。


今後の展開は

 光トポグラフィの最新の成果として,新生児の言語機能の計測結果が2003年9月に発表され,世界的に注目を集めています(イタリア高等研究所のJ.Mehler教授との共同研究)。これは,生後2日から5日の新生児に,(1)母国語の話を聞かせる,(2)その話の逆回しの音を聞かせる,(3)何も音の刺激を与えない,という三とおりの状況で脳血流の変化を計測した実験でした。その結果,普通に順回しで話を聞かせたときに,明らかな反応が左側頭葉で観察されました。生後まもない新生児が,すでに左側頭葉の言語野で言語音を処理していることが世界で初めて明らかになったものです。
 言語野に限らず,脳のさまざまな機能の発達プロセスを解明する,あるいは脳障害を早期発見する,さらに,脳出血や脳こうそくなどの後遺症から脳が機能回復していく過程を明らかにするなど,ほかの技術では測定しにくい脳機能に迫るという点で,光トポグラフィは脳への新たなアプローチをもたらすものだと思っています。

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