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2012年10月23日

無線ネットワークのアンテナ配置設計期間を半減可能な
設計支援ソフトウェアを開発

高速な電波伝搬シミュレータと探索プログラムによりアンテナ配置を最適化

  株式会社日立製作所(執行役社長 : 中西 宏明/以下、日立)は、このたび、企業のオフィスなどにおいて無線ネットワークを構成する際に、通信アンテナの最適な配置設計をガイドする無線ネットワーク設計支援ソフトウェアを開発しました。本ソフトウェアを用いることにより、より少ないアンテナ数で安定した無線通信を可能とする効率的なアンテナ配置を、ネットワークの設計者がフロア内の各地点の電波状況を手作業で確認する従来の方法に比べ、約半分の期間で設計・施工することが可能になります。

  オフィス内の無線LANや道路交通情報システム、スマートフォンやタブレット端末によるモバイル通信など、今日の社会活動においてはさまざまな無線通信ネットワークが利用されています。現在、世界各地で実証実験が進められているスマートシティにおいては、携帯電話やPCのみならず、電力や鉄道、水などの社会インフラ、自動車や家電製品などのあらゆる機器が通信ネットワークでつながり、密接に連携することで、便利で快適な暮らしを実現することが期待されています。
  一方で、近年スマートフォンの急速な普及により、モバイル無線ネットワークの通信容量の不足が懸念されており、屋内外における無線基地局の増設が急務となっています。しかし、屋内で安定した通信性能を実現するためには、基地局の増設にあたり無線ネットワークを設計する際に、壁や天井、棚などによる電波の反射・吸収といった複雑な伝搬形態や、屋外から入り込む不要な電波の影響を測定しながら、通信アンテナ配置の試行錯誤を繰り返す必要があり、短期間で設計することは困難です。このため、無線ネットワークの設計期間の短縮に貢献する、より効率的なネットワーク設計技術が求められています。

  こうした中、日立では無線ネットワーク設計支援ソフトウェアを開発しました。本ソフトウェアは、(1)高速計算と高精度を両立した電波伝搬シミュレータ、(2)通信アンテナの配置を効率よく最適化できるアンテナ配置探索プログラムから構成されています。本ソフトウェアでは、電波伝搬シミュレータを用いて無線ネットワークを構成するフロアにおける電波の反射などの電波形態に関するデータを取得し、このデータをもとにアンテナ配置探索プログラムを用いて最適な通信アンテナ配置を把握することができます。
  従来、最適なアンテナ配置を高い精度で把握するためには、現地における膨大な試行錯誤を含む調整作業が必要でした。本ソフトウェアを用いることにより、こうした作業を減らし、無線アンテナを設置するオフィス等の現場での測定・調整期間を短縮することができます。さらに、探索プログラムの工夫により、少ないアンテナ数で目標とする通信性能を満たす最適なアンテナ配置探索の計算時間を従来比で約80%削減することが可能となりました。この結果、無線ネットワーク全体の設計・施工期間を最大で半分に短縮することができ*1、コスト低減にも貢献します。

開発技術の詳細

(1) 高速電波伝搬シミュレータ
  電波伝搬の解析手法であるレイトレース法(ray-trace method)とFDTD法(finite-difference time-domain method)を併用した電波伝搬シミュレータを開発しました。
  レイトレース法は電波の伝搬を光に見立ててその経路を探索する手法です。解析に必要なコンピュータのメモリ容量が少ないため、広い空間でも容易に使用できるというメリットがあります。レイトレース法には、計算量は多くなるものの伝搬経路を厳密に算出可能なイメージ法と、精度は劣るものの少ない計算量で算出可能なレイラウンチ法があります。
  一方、FDTD法は、電磁波の方程式を逐次計算することにより電波の届く範囲を把握する手法です。解析には膨大なメモリ容量を必要とするものの、高い精度で範囲を把握することができます。今回は、レイトレース法とFDTD法それぞれの長所を組み合わせることで、高速計算と高精度の両立を実現しました。25メートル×60メートルの一般的なオフィスの1フロア*2の解析では、約400秒間での計算が可能になりました(図1)。
(2) アンテナ配置探索プログラム
  遺伝的アルゴリズム(GA : Genetic Algorithm)を用いたアンテナ配置探索プログラムを開発しました。遺伝的アルゴリズムとは、データを遺伝子に見立てて生物の進化過程と同様のシミュレーションを行い、最適解を求める方法です。これは、アンテナの配置パターンを、GAにしたがって進化させながら少ないアンテナ数で目的とする条件(電波状態、カバー率、ノイズ状態など)に合致するアンテナ配置パターンを探索します。このとき、電波伝搬シミュレータの計算結果を考慮してアンテナ位置を絞り込むことで、より効率的な探索が可能となります。
  28メートル×60メートルのフロアにおいて、本プログラムを使用してアンテナ配置を探索した結果、約50分で最適な配置を把握し、プログラムを使用しない場合に比べて探索時間を約80%削減することができました(図3)。本プログラムを使用しない場合、同程度の探索時間(50分の計算)では図4のような配置となり、カバーできないエリアが残ります。図3と同じアンテナ配置を求めるためには約300分が必要です。
  また今回は、現在使用されているモバイル端末の主要な通信方式に対応した配置評価プラグイン(プログラム)も開発しました。本プラグインをアンテナ配置探索プログラムと併せて用いることにより、多様な通信方式に迅速に対応することができます。

  今後、日立では、携帯電話事業者やビルのオーナーに向けた、屋内アンテナ配置設計業務の受注をめざします。また、この他、きわめて高い信頼性を必要とするプラントや鉄道などの産業用無線システム等にもさらに活用を広げていく予定です。

*1
当社試算による。
*2
構造物2,022面、10回反射、1,300受信点。

[画像](図1)電波伝搬シミュレータ計算例 (図2)計算値-実測値の受信レベル比較 (図3)本アルゴリズム(GA+絞り込み)によるアンテナ配置設計例 (図4)GAのみによるアンテナ配置設計例

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 日立研究所 企画室 [担当 : 影山]
〒319-1292 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号
電話 : 0294-52-7508(直通)

以上

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