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Hitachi

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2008年12月16日

プラスチックフィルム上に室温で形成できる
透明な酸化物半導体膜を用いた
薄膜トランジスタで動作電圧1.5Vを実現

電池や無線による電源供給で使用できるフレキシブルな電子デバイスの実現に道を拓く

  株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)は、このたび、酸化物半導体*1の中で主流となっているインジウムガリウム亜鉛複合酸化物(以下、IGZO)を用いた薄膜トランジスタ*2(Thin Film Transistor/以下、TFT)のチャネル層の厚さを従来の10分の1である6nm(ナノメートル)に薄膜化することにより、スイッチの動作性能を向上させ、従来3〜数十ボルト(V)であった動作電圧を大幅に低減して、電池や無線での駆動が可能となる1.5Vでの動作に成功しました。
  透明かつ室温付近での形成ができる酸化物半導体TFTは、薄くて曲げられるプラスチック基板上への実装により、新たな電子機器を実現する技術として期待されています。今回の開発技術は、酸化物半導体TFTがシリコン半導体と同程度の低電圧で動作できることを初めて実証した成果であり、電池や無線による電源供給で動作するフレキシブルなRF-IDやPDAなど広範囲の新電子デバイスへの応用が期待されます。
  なお、本研究は、独立行政法人 科学技術振興機構(理事長:北澤 宏一)の戦略的創造研究推進事業発展研究(SORST)に参画して得られた成果です。

  近年、軽量・薄型・柔軟性に富んだフレキシブルな電子デバイスの実現に向けて、プラスチックフィルムを用いた基板上に、プロセッサや通信素子、メモリなどの電子回路を直接形成するための技術開発が進められています。
  これまで、ディスプレイ用途などで実用化されているアモルファスシリコンや多結晶シリコンを用いたTFTは300℃以上の高温プロセスで製造するため、高温に弱いプラスチックフィルム上へ電子回路を直接形成することができませんでした。これに対して、酸化物半導体を用いたTFTは室温付近で形成できることから、プラスチックフィルム製の基板上に形成することが可能です。しかし、これまで報告された酸化物TFTの 動作電圧は、いずれも3V〜数十 Vとシリコン半導体に比べて高く、電池や無線により駆動するためには省電力化のためにより低電圧での駆動が求められる携帯用電子機器への応用は困難でした。

  このような背景から、今般、日立は、酸化物TFTの動作電圧をシリコン半導体と同程度の1.5Vまで低減する技術を開発しました。TFTは、シリコン半導体と同様にソース、ドレイン、ゲートの3端子で構成され、ソースとドレイン間のチャネル層と呼ばれる領域に電流を流し、ゲートに加えた電圧で電流を制御してオン/オフ動作を行うものであり、酸化物半導体TFTは、このチャネル層に酸化物半導体を用います。今回、日立は、代表的な酸化物半導体であるIGZOを用い、チャネル層の厚さを従来の約10分の1となる6nmまで薄膜化することにより、従来よりも大幅な低電圧である電源電圧1.5Vでの動作確認に成功しました。これは、チャネル層にIGZOを使用し薄膜化することによって、トランジスタのオフ時に流れる漏れ電流を低減できたほか、従来の厚い膜に比べ、より小さなゲート電圧でのオン/オフの切り替えを可能としたことによるものです。

  今回試作した酸化物半導体TFTでは、スイッチの動作性能を示す代表的な指標である“サブスレッ ショルド係数*3”を、25℃で63mV/dec(ミリボルト/ディケード:電流量を1桁上昇させるのに必要な電圧)まで小さくすることができました。この値は理論限界値(59.2mV/dec)に迫るもので、酸化物TFTとしては世界最小値です。その結果、電源電圧1.5Vでのドレイン電流のオン/オフ比は108以上となります。これは、現在TFTで実用化されているアモルファスシリコンや多結晶シリコンを1.5Vで動作させた場合のスイッチの動作性能を上回るものです。

  なお、本成果は、2008年12月15日から米国・サンフランシスコで開催されている電子素子に関する国際会議「国際電子デバイス会議(IEDM: International Electron Devices Meeting)」にて、15日(現地時間)に発表します。

<補足>今回開発したデバイス技術の詳細
  TFTはソース、ドレイン、ゲートの3端子で構成され、ソース電圧0Vでドレイン、ゲートに正電圧を加えると、チャネル層に電流が流れオン状態となり、また、ゲートに加える電圧を0V以下に下げると、チャネル層には電気的に絶縁性を示す空乏層*4と呼ばれる領域が生じ、オフ状態となります。
  従って、TFTの電源電圧を低減するには、(1)TFTがオフのときに流れてしまう漏れ電流をできるだけ小さくすること、(2)より小さなゲート電圧でオン/オフの切り替えを行うことが必要です。これには、オフ時にチャネル層がすべて空乏層となる状態である完全空乏化状態を作り出すことが有効です。
  今回、日立は、チャネル層にIGZOを採用するとともに、チャネル層の厚さをオフ時の空乏層の幅よりも薄い6nmに設計することで、完全空乏化に成功し、低電圧化を実現しました。

*1
酸化物半導体: 金属酸化物のうち半導体特性を示すもののことで、トランジスタ応用としては、酸化亜鉛やIn、Ga、Zn、Snの酸化物から構成される複合酸化物材料が知られています。室温でのスパッタ法で成膜でき、可視光に透明であることが特徴です。フレキシブルデバイス、透明デバイスなどの新しい分野への応用が期待されています。
*2
薄膜トランジスタ(TFT): ガラスなどの絶縁体基板上に作製されるトランジスタのことで、現在は主にアクティブマトリクス型液晶ディスプレイの画素駆動に利用されています。
*3
サブスレッショルド係数: トランジスタのスイッチング動作性能を表す指標のひとつで、ドレイン電圧が一定のもと、ドレイン電流を1桁変化させるのに必要なサブスレッショルド領域でのゲート電圧変化量のことをいいます。25℃における理論限界値は59.2 mV/decです。
*4
空乏層: 半導体中のキャリア(自由電子や正孔)が存在しない領域のことで、電気的には絶縁性を示します。自由電子がキャリアとなる酸化物TFTでは、ゲート電極に加える負電圧を大きくしていくと空乏層の幅が大きくなっていきます。

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ケ窪一丁目280番地
TEL : 042-327-7777 (直通)

以上

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