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本田技研工業株式会社 事例 社内外の眠れる「データ」を宝にする
データ分析を未来のビジネスに生かすには

2019-03-22

SNSや口コミ情報などのソーシャルメディアが、企業イメージや商品・サービスの評価を左右する時代となった。逆に言えば、こうした“生の声”を迅速に捉え適切な対応を図れば、企業はリスクをチャンスに変えることも可能だ。こうした背景のもと本田技研工業株式会社(以下、Honda)は日立との協創で、顧客の声と感情を高精度に可視化・分析できるシステムを開発。これを基に幅広い企業活動に利用できる「感性分析サービス」を共同開発した。

企業が何を期待されているかSNSの“生の声”を分析したい

デジタル時代のビジネス戦略には「データの利活用」が欠かせない。多種多様なデータを分析することで、ビジネス変革や新規事業の創出につながるからだ。しかし、データ分析をビジネスに生かせていない企業は少なくない。膨大なデータを収集すること自体に高度なノウハウが必要な上、そのデータから価値ある情報を抽出することが想像以上に困難だからだ。データ分析を行う人材が社内で不足しているケースも多いだろう。

こうした課題を、誰もが簡単・迅速にデータを収集・分析できる環境を整えることで解決したのが、世界的な二輪・四輪メーカーとして知られるHondaだ。

「これまでもコールセンターなどに寄せられたお客さまの声はきちんと捉え、製品の開発・改善に生かしてきました。しかし、デジタルネイティブ世代が多数を占めていく今後は、WebやSNS上でつぶやかれる声も広く捉えていかないと、トレンドの先にある革新的な製品やサービスを生み出していくことはできません。そこで2017年、SNSからもお客さまの声を集めて分析できるツールの開発に着手したのです」と、Hondaの内田 亮氏は語る。

当初はクラウドなどで提供されている“口コミ分析サービス”を試したが、必要とする情報が絞りきれなかったり、将来を見据えた社内システムとの連携に課題があり断念。コンサルティング企業と提携して開発したプロトタイプも、コンセプトの確認には役立ったものの、データベース構造や拡張性に限界があり、実運用には至らなかったという。

「現場や経営層からは、全社的な運用に耐える環境が望まれていたため、本格的なシステム開発を行うことを決意しました。日立を含めた数社から提案をいただきましたが、技術力の高さと提案内容の確かさが日立を選ぶ大きな決め手になりました」(内田氏)


Hondaと日立による協創のイメージ

顧客の声を約1300種類に分類AIで感情まで可視化する

スピード開発をめざすため、Hondaと日立は開発手法にアジャイルを適用。週1〜2回の膝を詰めた打合せで要望や改善を直接確認し、その都度反映しながら、システムを作り上げていったという。

「膨大な分析データを絞り込むフィルタリング技術や、辞書メンテナンスの負荷を軽減する技術は、こちらの要望を伝えながら日立に開発してもらいました。社員全員がマニュアル無しでも簡単に使えるよう、UI(ユーザー・インタフェース)にもこだわり、広報部のスタッフに試してもらった感想や要望を何度もフィードバックしながら作り込んでいきました。当社がプロトタイプで得た気づきも要所要所に盛り込んでもらいましたが、日立のエンジニアは最初から最後まで、こちらが1つ説明すれば10を理解してくれる心強い対応で、実装と改善をスピーディーに展開してくれたのが本当に助かりました」と開発を担当したHondaの坂本 大輔氏は振り返る。 こうして、キックオフからわずか5カ月後の2017年12月に基本システムが完成。2018年7月には社内に公開された。

新システムは、SNSや口コミ情報などのソーシャルメディア、新聞・テレビなどのマスメディアからデータを自動的に収集。徳島大学発ベンチャー企業の言語理解研究所(ILU*)のAIエンジンを活用することで、テキスト化されたデータから顧客の声を約1300種類の話題・感情・意図に分類して可視化する。特に感情については、企業や商品に対して抱かれている具体的なイメージを「好意的」「中立」「悪意的」の3つに分類した上で、「満足」「落胆」といった81種類の中から特定することが可能だ。

Hondaの広報部は2018年4月から、このシステムを新車発表やモーターショーなどのイベント出展の反響分析やレポーティングに活用している。

「従来はメディアやWebに露出した反響をまとめるだけでもそれなりの時間がかかっていました。しかしこのシステムを使えば、お客さまが当社の発表をどう捉えたか、それはネガティブだったかポジティブだったかの感情も含め、車種別やトピック別に可視化し、定量的・客観的に把握することができます。欲しい情報にたどり着くまでのスピードが格段に速くなりました」と坂本氏は言う。

また新製品のマーケティング戦略の変更に役立ったケースもある。ある新しいバイクの販売を開始した際、馬力を打ち出した製品として報道されたが、その価格帯としては特筆するほどの馬力ではなく、本来は他の性能や走りやすさなどが魅力のある製品だった。そこで、その報道に気づいた時点で馬力は控えめにして、違った良さを前面に出すというマーケティング戦略に変更したという。

「このシステムを使うことで世論の変化点や、対応策のタイミングをつかめるようになりました。リスク対応のツールとしても非常に役立ちます」と内田氏は評価する。

データが増加してもストレスのない検索速度が確保されているほか、気づきを得やすいビジュアルな検索ビューアも提供されている。このため社内ユーザーからは「とても使いやすい」との声が多数寄せられているという。全社員が使えるシステムとなっているため、ある製品についてのSNSの反応を見た社員が、担当部門の社員に改善提案やアドバイスをするようなケースも増えてきた。

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Institute of Language Understanding Inc.


感性分析サービスの画面イメージ

ステークホルダー全員の声をイノベーションにつなげていく

「当社ではこのシステムを、お客さま満足を高めるVOC(Voice Of Customer)の概念をさらに広げたVOS(Voice Of Stakeholder)のツールと位置づけています。お客さまだけでなく社員一人ひとりも重要なステークホルダーですし、Hondaのことは知っているけれども、まだ製品は使ったことがないという方々も含め、すべての人の声を真摯に受け止め、イノベーションにつなげていきたいと考えているからです」と内田氏は力を込める。

今後Hondaでは、コールセンターに寄せられた音声・メール情報との連携や、海外拠点への展開(英語・中国語・アジア圏)も進めながら、社内外の声をより広く集積し、グローバルな製品開発やブランド価値の向上、イノベーティブなサービスの創出などに役立てていく考えだ。

また日立も、このシステムをベースとした「感性分析サービス」の外販をスタートさせ、顧客の声と業務データを組み合わせた売上予測や生産計画、リスク対策など、幅広い適用ソリューションを提案していく。

内田 亮 氏
本田技研工業株式会社
IT本部 ITイノベーション推進部
ソーシャル分析推進課 課長

坂本 大輔 氏
本田技研工業株式会社
IT本部 ITイノベーション推進部
ソーシャル分析推進課 主任

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